2013年7月17日水曜日

チャイコフスキー 交響曲第5番ホ短調作品64









メロディメーカーの本領を発揮した交響曲

 チャイコフスキーは不世出のメロディメーカーとして、管弦楽曲、バレエ組曲だけでなく、交響曲においても甘美なメロディを駆使した作曲家として有名です。
 チャイコフスキーの交響曲と言えば真っ先に思い浮かぶのが第6番の「悲愴」です。とにかく第1楽章から第4楽章まで隙がなく、曲はフィナーレに向かって深い哀しみに沈んでいくのですが、スコアが細部に至るまでよく書かれているため不自然さを微塵も感じません。作曲家自身が最晩年に到達した円熟味と芸格の高さを表している傑作中の傑作と言われる所以でしょう。
 それに比べると第4番は若干の物足りなさがないわけでもありません。第1楽章の慟哭に満ちた響きや格調高い展開が素晴らしく、第2楽章は民謡調の哀愁を帯びたメロディが美しく印象に残ります。しかしそれを受ける第3、第4楽章がいただけません……。あまりにもあっさりしていて2楽章を無理矢理くっつけたようでどうにも満足できないのですね!?

 そして第5番です。この作品はもしかしたら聴きやすさにおいては「悲愴」より上かもしれません。美しいメロディも随所にあり、その点ではチャイコフスキーの本領発揮と言いたいところですが、作品として今一つ結晶化されていない印象を受けます。実際、意外と心に残らないのですね……残念ながら。そのような状況からして、5番はチャイコフスキーの三大交響曲の中では聴きやすく飽きやすい作品(?)と言っていいかもしれません。
 しかし、そうは言ってもベートーヴェンの交響曲やモーツァルトの後期交響曲、ブルックナーの5番以降の交響曲、ショスタコーヴィチの交響曲あたりと比べなければ充分に管弦楽の響きの素晴らしさやメロディの美しさを堪能できる名曲だと思います。
 特に第1楽章で鳴り響く運命のリズムとそれを払いのけるようなメロディは様々な感情を表出しており見事です!第2楽章のホルンが奏でる優しく美しい第1主題。第3楽章の愛らしく可憐なワルツ。そして手が混んでいて壮麗な第4楽章フィナーレ!こうしてみると交響曲の王道を行く傑作と言っても決して過言ではないと思います!


チェリビダッケの新鮮な名演!

この曲のベストとしてお勧めしたいCDはチェリビダッケ指揮ミュンヘンフィルによる録音(EMI)です。1991年のライブ録音ですが、音は素晴らしいしチャイコフスキーが書いたスコアの意味をとことんまで追求した演奏です!とにかく、ゆったりとしたテンポから紡ぎ出される重厚な音の響きと細部まで目に見えるほど彫琢されたハーモニーは素晴らしいの一言です!時としてブルックナーを感じさせたりするのですが、それも決して嫌味にならず、逆にこの曲を構成していく上で大きなプラスに作用しているのです。
  特に第2楽章のホルンの瞑想のような深い響きや第4楽章のスケール雄大な造型と壮大なクライマックスを築き上げていく腰の座った表現は最高です。

 悲愴と第4で圧倒的な名演奏を成し遂げているムラヴィンスキーですが、この曲に関しても真っ向勝負のダイナミックな演奏で攻めています。第1楽章の展開部や第2楽章の序奏で聴かれる詩情はやはり素晴らしく、他の指揮者では聴けない表現でしょう! ただ第4楽章あたりはムラヴィンスキーをもってしても、音楽を持て余しぎみという感じがしないでもありません。



2013年7月11日木曜日

「アートアクアリウム展」





幻想的で華やかな金魚アート



 日本の夏の風物詩と言えばあなたは何を想い出されるでしょうか?「祭り」、「花火」、「海水浴」、「金魚すくい」……、このあたりが一般的なイメージかもしれません。中でも「金魚すくい」は今でも日本人の心に涼しさの代表格として定着している感じがします。
 ところで日本橋三井ビルで開催される「アートアクアリウム展」では金魚が幻想的な光を浴びつつ何千匹も泳ぎまわるのだとか……。その光景はすぐには想像できないのですが、きっと圧巻なのでしょう!! 
 最近はクリスマスシーズンになると都心のあちこちで光のイルミネーションが施されたりしますが、それ以上に精妙でクリエィティブで遊び心満載なのかもしれませんね。昨年のイベントは大好評だったようで、今年はその声に応えパワーアップした形で催されるようです。
仕事に疲れたり、気分転換したいときに最高の癒しの場となるのかもしれません……。これはちょっと楽しみですね!

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日本橋三井ホールで7月13日(土)より、「アートアクアリウム展」が始まります。2011年からスタートし、昨年は20万人超の動員数を記録した人気のイベント。今年も「江戸・金魚の涼」をテーマに、大胆で美しい「和」の金魚アートが展開されます。
暗闇に浮かび上がる大きな水槽には、何千匹という金魚が泳ぎ、和金や出目金など定番品種の他、希少価値の高級金魚まで幅広く展示。京都の伝統工芸品「京友禅」の着物を水槽に埋め込んで、生きた金魚と3Dプロジェクションマッピングで着物の柄を表現する「キモノリウム」など、光や映像を巧みに使用した本邦初公開の新作も公開されます。
毎日19時からは「ナイトアクアリウム」を開催。音楽と照明を転換した中で、オリジナルカクテルを片手に水中アートが鑑賞できます。幻想的で華やかな「和」の空間、 ひとときの涼を楽しんでみてはいかがでしょうか。(デザインポケット・トレンド情報より)
ECO EDO 日本橋 ダイナースクラブ:アートアクアリウム2013 ~江戸・金魚の涼~」
日本橋三井ホール(東京・中央区)
7月13日(土)~9月23日(月・祝)

2013年7月6日土曜日

ヘンデル オペラ「リナルド」









最高のエンターティメント性に満ちたオペラ

 ヘンデルにとってオペラは後年のオラトリオと同様に、なくてはならない重要なジャンルでした。なぜならヘンデルの雄弁でスケールの大きい音楽スタイルはオペラにピッタリだからです。 「リナルド」はヘンデルのオペラの中ではかなり初期の作品ですが、イタリア修行中に習得したオペラの形式や音楽技法はヘンデル自身の中で完全に熟れています。しかも、音楽そのものはヘンデルでしか作り得ない第一級のエンターテイメントとして結実しているのが音楽を聴くとよくお分かりになることでしょう! 
 このオペラは劇中に様々な仕掛けが施されていて、誰が聴いても飽きることなく音楽に浸れるのです。イマジネーションを広げる音色の豊かさ、輝かしくしっかりとしたオーケストレーション、可憐で懐かしい響き……。とにかくオペラの原点とも言うべきワクワク感でいっぱいなのです! 序曲もアリアもシンフォニアも新鮮な驚きや感動に満ちており、どこをとっても最高のエンターティメント性に満ちていることが凄いところでしょう。


充実したアリアの数々

 「リナルド」はヘンデルが満を持してイギリス音楽界にデビューを飾ったときの作品でした! この作品でヘンデルは大成功を収め、その後彼は終生に渡ってイギリスを活動の拠点としたのです。
 「リナルド」は登場人物のそれぞれのアリアが充実していて、1曲だけ取り出したとしても充分に鑑賞に耐えられるナンバー揃いと言っていいでしょう。特にアルミレーナが歌う「涙の流れるままに」はセルセの「オンブラ・マイフ」と同じように、単独で歌われることが多い有名なアリアです。朗々とした響きやはるか彼方へ向かおうとする息の長い旋律線は悠久の時を伝えるかのようでとても感動的です! 小鳥の囀りを模した管弦楽が印象的なアリア「歌を歌う小鳥たち」はピッコロとフルートの天上のような響きがアルミレーナの清純無垢な雰囲気を見事に表出していると言ってもいいでしょう! 深い哀しみをしみじみと歌うリナルドの「いとしい恋人よ」も一度聴いたら忘れられない名旋律です。その他、印象に残るアリアを挙げたらキリがないですね……。


音楽家を魅了してやまない音楽!

 「リナルド」はヘンデルの幾多のオペラの中でも最も演奏回数やレコーディングが多い作品です。最近に限っても数多くの古楽系の指揮者がレコーディングをしていることを思えば、いかにこの作品が多くの人たちに愛されているかがお分かりいただけるのではないでしょうか!
 現在のところ、CDのお勧めはルネ・ヤーコプス指揮フライブルク・バロック・オーケストラ、ヴィヴィカ・ジュノー(MS)、ミア・パーション(S)らによるものが素晴らしい出来栄えです。とにかく聴いていて楽しく、メリハリが利き、ヘンデルらしい輝かしい響きも随所に出てまいります!前述の「涙の流れるままに」はパーションのゆったりした歌唱が素晴らしく、リナルド役ジュノーの超絶的な名唱も忘れがたいですね。



2013年6月27日木曜日

セザンヌ 「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」







深い共感と洞察から生まれた作品

 この絵は画集や雑誌でよく見かける作品です。セザンヌの特徴を実に端的に表した美しい作品だと思います。セザンヌは生まれ故郷エクスプロヴァンスに近いこの山を好んで描いたといいますが、おそらくセザンヌの気持ちを強く突き動かす魅力的な何かがあったのでしょう‥‥。

 とにかくこの絵は意欲的な表現が結集した作品です。山や山の前方から連なる森は大気の流れや樹々が醸し出すエネルギーと渾然一体となり、実に生命力に満ちた独特の表情を映し出しています。
 この独特の表情を見せる絵の大きな力になっているのは幾何学形態を基本にした描法です。同時代の印象派の画家で「自然の中に幾何学形態を発見しよう」と思って描いた人は誰もいないでしょう……。これはセザンヌ独特の描法で、彼の絵をよく見ると様々な幾何学形態を見つけることが出来るのです!

 もちろんセザンヌは面白いことをして驚かせようとか、頭で理屈にあうように描いたのではありません。モチーフに対する素直で深遠な感情が一見奇抜にも思える手法を他には得難い特別なものにしているのでしょう。この山は単なる風景画ではなく、セザンヌの深い共感と洞察から生まれた作品なのです。見るたびにさまざまな表情を伝えてくれる味わい深い逸品ですね。

 幾何学形態を一つの面として捉えたセザンヌの表現は絵画の発想や価値観を大きく変貌させていくのですが、20世紀にはピカソを始めとするキュビズムの画家たちによってこの特徴は徹底されていきます。



2013年6月26日水曜日

色を見る、色を楽しむ​。ールドンの『夢想』​、マティスの『ジャズ​』…




色の可能性を感じる企画展






 タイトルからしてなかなか面白そうな展覧会ですね。色は画家によってまったく発想や捉えかたが違います。もちろん、だからこそありきたりではない多様な表現や面白さ、深さが出てくるわけなのですが‥‥。画家によって色を扱う、構成することとは何なのか?
 この展覧会ではあらかじめ時代ごとに色彩の表現の特徴や傾向をパネルで説明しながら、色がもたらす画風への影響を紹介しています。近代や現代の画家たちのオリジナリティあふれる色彩表現を見ると、改めて色彩のもつ不思議と深さとともに、その可能性を実感するのではないでしょうか‥‥。

 今回はマティスの「ジャズ」と命名された版画の連作が展示されています! あくまでも即興的に自分の感性を信じながら形と色彩を絶妙に創りだしていく行為は音楽のハーモニーとリズムのようなものなのかもしれません⁉




【色を見る、色を楽しむ​。ールドンの『夢想』​、マティスの『ジャズ​』…】
2013年6月22日(土)〜9月18日(水)

休館日
月曜日(祝日の場合は開館)、4月21日(日)
開館時間
10:00〜18:00(毎週金曜日は20:00まで)

※入館は閉館の30分前まで
※上記の開館時間も不測の事態の際は変更する場合があります。
※最新情報は公式Pおよびハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。
住所
ブリヂストン美術館 〒104-0031 東京都中央区京橋1丁目10番1号
交通
東京駅(八重洲中央口) より徒歩5分
東京メトロ銀座線 京橋駅(6番出口/明治屋口) から徒歩5分
東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線 日本橋駅(B1出口/高島屋口)から徒歩5分










2013年6月22日土曜日

モーツァルト ピアノソナタ第13番変ロ長調K.333






ロココ芸術時代に光るモーツァルトの才能

 18世紀のフランス・ルイ王朝時代に絢爛豪華な装飾美で全盛を誇ったのがロココ芸術でした。絵画ではヴァトー、フラゴナール、プーシェ、ラ・トゥール、音楽ではクープラン、ラモー、スカルラッティら錚々たる顔ぶれが珠玉の美を競い合った時代です。そのロココ芸術全盛時代の中にあって、モーツァルトの才能はとび抜けていたことは疑う余地がありません。
 モーツァルトも例にもれずロココ調のスタイルで作曲しており、ともすれば優雅で気品あふれる音楽をつくった作曲家と思われがちです。もちろん、優雅さは彼の持ち味の一つかもしれませんが、彼の魅力がそのようなところにあるのではないことは明らかでしょう。
 むしろ、モーツァルトの真価はそのようなエレガントな情緒の奥に潜む心の真実であったり、微笑みの裏に隠された涙であったり……痛切に心を抉るメッセージの輝きなのですよね……。それは一見明るく響く交響曲第36番「リンツ」、第38番「プラハ」、ピアノ協奏曲第22番K482、フルートとハープのための協奏曲……等も同様なのです。


明朗でエレガントな魅力に満ちた作品

 モーツァルトのピアノソナタk333は前述のようにロココ調の流れを汲む代表的な作品の一つだと思います。
 規模が大きいだけでなく、明朗で親しみやすく、それでいてエレガントな曲調がたまらない魅力の作品です。様々なパッセージの転調や分散和音の進行があるにもかかわらず、音楽そのものに破綻が生じない天性の感覚、構成の見事さも挙げなくてはならないかもしれません。
 そして、忘れてはならないのが鼻歌を口ずさむように奏でられる大らかで豊かな愛の旋律でしょう。このことがK333を何倍にも魅力的にしていると言ってもいいと思います。第一楽章と第三楽章のひとなつっこく語りかける親しみやすい口調…。決して深刻に人生を捉えているようには思えない曲の雰囲気なのですが、よく耳を傾け心を無心にして聴くと無邪気で美しい表情が次々と浮かび上がってきます! 第2楽章の夢見るような美しい旋律も深い余韻を残してくれます。


圧倒的な素晴らしさ。クラウスの名盤

 演奏はリリー・クラウスのステレオ録音(CBS)が圧倒的な素晴らしさです!この曲を軟弱に弾いてしまうと曲の魅力が半減してしまうのですが、クラウスにはそういう心配はまったくありません。よく引き締まった造型と自信に満ちたタッチ、感性豊かな音色にたちまち引き込まれます。1956年のモノーラル(EMI)も素晴らしく、クラウスがこの曲と抜群に相性がよかったことを改めて実感させてくれるのです!



2013年6月16日日曜日

独断で選ぶ俳優の名演技が印象的な映画BEST10




以前の音楽が印象的な映画に続き、今回はやはり「独断で選ぶ俳優の名演技映画BEST10」を選ばせていただきました。選んだ結果を見て、相変わらず古い映画ばかりで……、2000年代はおろか1980、1990年代の映画が一作も無いという事になってしまいました。
これでは「クラシック映画BEST10だろ!」と言われても仕方がないのですが、やはり自分の気持に正直に選んだ結果なので仕方がないか(?)と思っています。





(エデンの東 ジェームス・ディーン
まさにこの映画の主役を演じるために生まれてきたように思えるジミーのハマり役。どこからどこまでが演技でどこまでが本当の彼の姿なのかわからなくなるほど…。この1作だけでも彼の名は人々の心に永遠に記憶されることでしょう。

(ローマの休日 オードリー・ヘップバーン)
この映画はヘップバーンの存在なくしては成立しない映画でしょう。それほどまでにヘップバーンの魅力に世界中が瞠目したのでした。ヘップバーンを起用したワイラーのキャスティングも見事。キュートな女性を演じながらも女王役としての気品も兼ね備えた彼女の魅力が最高に引き出された映画。

(秋のソナタ イングリッド・バーグマン)
往年の名女優バーグマンが親子の心の葛藤を描いた作品に母親役で出演しています。かつてのヒロインとはかけ離れた姿にバーグマンの本気度が伺えます。

(野いちご ヴィクトル・シェストレム)
老いて人生の終焉に近づいた時、「自分の人生は何だったのだろうか」と苦悩する大学教授をシェストレムは人生をしみじみと語るように自然体で演じ切っています。この演技は深い内面の世界に光をあてた一つの奇跡といっても過言ではありません。

(太陽がいっぱい アラン・ドロン)
アラン・ドロンといえばこの映画。クールで孤独感を湛えた表情がこの映画に深い陰影をもたらしています!

(素晴らしき哉、人生! ジェームズ・スチュワート)
様々な挫折を経ながら立ち直っていく主人公を振り幅の大きい感情表現で、共感を持って演じています。

(老人と海 スペンサー・トレイシー)
一人で登場するシーンが全編のほとんどを占めているという異色の映画。当然俳優の存在感と並外れた力量がなければ持たない映画であることは間違いありません。

(道 ジュリエッタ・マシーナ)
マシーナの演じた愛らしく哀愁に満ちた不幸なヒロインはあの名曲と共に決して忘れることはできないでしょう。

(群衆 ゲイリー・クーパー)
正統的ハリウッドスターだったクーパーですが、やはりこういう良心的な役柄を演じると光るものがありました。

(アパートの鍵貸します ジャック・レモン)
笑いあり涙ありの傑作ですが、コミカルで憎めない人物像をレモンはいい味を出していました。