2013年3月23日土曜日

「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」



東京オリンピックを支えたデザイナーたち





 今年に入ってから2020年東京オリンピック実現ヘ向けての招致運動が盛り上がってきています。ここ数年日本は国内外ともに元気をなくしていると言われることが多くなりました。けれども、もし東京でオリンピックが開催されることになれば経済効果だけでなく自ずと未来への展望が様々なかたちで開けてくるのではないでしょうか……。

 さて半世紀ほど前の東京オリンピック(1964年)は高度経済成長の真っ只中に開催された一大イベントでした。このオリンピック開催に向けてありとあらゆる日本の叡智や技術が総結集されたように思います。その一例として夢の超特急・新幹線の開通がありました。また地下鉄、高速道路、住宅等の整備も急ピッチで進められていったのです。1964年はまさに日本が未来へ向けて大きく生まれ変わった年といってもよかったのかもしれません。

 しかし忘れてならないのはこの一大イベントを支えたデザイナーたちの活躍です!「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」は亀倉雄策、原弘、河野鷹思、柳宗理、勝美勝をはじめとする日本の錚々たるデザイナーたちが結集して作られたプロジェクトでした。この展覧会ではデザインプロジェクトのオリンピックの前、開催中、終了後と時系列で区切って作品やその工程を紹介する興味深いイベントです。それぞれの作品から伝わる活力、エネルギー、オリジナリティはデザイナーたちが繁栄の象徴でもあった東京オリンピックの陰の立役者であったことを物語っているのではないでしょうか。 

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東京オリンピックは、日本の戦後史の重要イベントとして記憶されています。オリンピックとはいうまでもなくスポーツの祭典ですが、1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックは、第二次世界大戦で大きな打撃を受けた日本が、その終結からおよそ20年を経て、奇跡的な経済復興を成し遂げたことを国際社会に示す、日本の威信をかけた国家イベントであり、戦後日本のデザイナーが総力を挙げて取り組んだ一大デザインプロジェクトでもありました。
東京でのオリンピック開催が決定すると、1960年には「デザイン懇談会」が組織され、まずデザインポリシーが決められました。そして、デザイン評論家勝見勝の指揮のもと、シンボルマークとポスターを亀倉雄策、入場券および表彰状を原弘、識章バッジを河野鷹思、聖火リレーのトーチを柳宗理が担当したほか、田中一光をはじめとする当時の若手デザイナーたちが施設案内のためのピクトグラム、プログラムや会場案内図などの制作に組織的に取り組みました。その一連のデザインワークはその後の国際イベントのモデルともなり、国民はオリンピックを通じてデザインの力を身近に感じることになったのです。
2020年のオリンピック招致にむけた機運が高まるいま、あらためて1964年の東京オリンピックを振り返り、一連のデザインワークの全体像を追跡します。(公式サイトより)


東京オリンピック1964 デザインプロジェクト

会場  東京国立近代美術館 
    〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1 
期日  2013年2月13日(水)~2013年5月26日(日)

料金  一般 420円/大学生 130円
    ※当日に限り、「MOMATコレクション」もご覧いただけます。
    ※高校生以下および18歳未満・65歳以上・MOMATパスポートをお持ちの方
    キャンパスメンバーズ・障害者手帳をお持ちの方とその付添1名は無料。
    割引、無料には学生証、年齢のわかるもの、障害者手帳等の提示が必要です。
休館  毎週月曜日(3月25日・4月1日・4月8日・4月29日・5月6日は開館)
    5月7日(火)



2013年3月21日木曜日

テレマン ターフェルムジーク(食卓の音楽)








理屈よりも純粋に音楽を楽しむための作品

 テレマンの「ターフェルムジーク」は「食卓の音楽」という意味を持つバロック音楽の名曲ですが、大変有名な作品だけに皆さんもどこかのフレーズを一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。タイトルにあるように、当時の王侯貴族が食事をする際の演奏用として作曲を依頼したものなのです。それにしても洒落ていて熟成されたワインのように味わい深い作品ですね……

 全3巻からなる「ターフェルムジーク」は管弦楽組曲、四重奏曲、協奏曲、トリオ・ソナタ等の6種類の形式で18曲と多彩な組み合わせで構成されています。この作品は祝典用としても大いに使われたらしいのですが、曲を聴くとそれも充分うなずけます。たとえばバッハの管弦楽組曲あたりと比べると違いは明らかです。
 バッハの作品が祝典用の演奏としてはドラマティックでやや襟を正さなければならない雰囲気を醸し出すのに比べ、この作品集はまるでBGMに特化したのではないかと思えるほどすんなりと馴染みやすいのです!比較的平明な主題から繰り出される洗練さと優雅さを併せ持った楽器の響きはテレマンならではです。
 
 この作品の最大の魅力は曲の構成がどうこうというより、純粋に音楽を演奏しそれを聴くことの楽しさや喜びを存分に味わえることでしょう!
 それぞれの曲のテーマは驚くほど多彩で変化に満ちています。音楽の魅力をあげたらキリがないのですが、愛らしくなごやかな雰囲気で進行する絶妙の音楽。音楽そのものに構えた要素やドラマティックな意思が働いていないため、聴く人は安心して音楽に浸ることが出来るのです。いわば最高の癒しの音楽と言っていいかもしれません!
 それにしても理屈っぽさが無くひたすら心地よい音楽を生み出したテレマンの音楽性は本当に素晴らしいですね! しかも自然に身体や心に染み込み飽きるところのない滋味あふれる音楽なのですから



ヴェンツィンガーの唯一無二の名演奏

 この作品は一にも二にも演奏が良くなければどうにもなりません。しかし、ターフェルムジークに関してはほとんどの演奏がつまらないと言わざるを得ないのがちょっと残念です。何と言ったらいいのでしょう……。音楽を楽しむゆとりと格調の高さがあり、本当の意味で遊び心のある演奏が少ないのです。この作品をがむしゃらに演奏したとしても心地よい演奏にはまずなりません。

 そんな中で唯一無二といってもいいほどの素晴らしい演奏があります。アウグスト・ヴェンツィンガー指揮=バーゼル・スコラ・カントルーム合奏団(アルヒーフ・廃盤)の演奏です。もちろん各楽器の奏者はとびきりの名手揃いなのですが、それだけではないでしょう。
 演奏は全体的にのんびりしているし、これといった特別な効果を狙ってないため、ちょっと聴くととても平凡でつまらない演奏に思われるかもしれません。しかし、たっぷりとした呼吸やフレージング、そして潤いのある音色。しかも絶えず奏でられる温もりのある響き。やはり指揮者をはじめとしてソリストたちが音楽を心の底から愛し味わっていることがとても良く伝わってくるのです。

 今、こんなに素晴らしい響きを出せる人がどれだけいるのでしょうか? たとえば第1集の協奏曲イ長調で各奏者が微笑みながらおしゃべりを交わすように奏でられる響きは何度聴いても飽きることがなく、まさに音楽に浸る喜びを実感させるのです。
 ただ、これほど絶賛したのにヴェンツィンガー盤のCDは現在廃盤中です。抜粋盤があることにはあるのですが、一度気に入ったら間違いなく全曲盤が聴きたくなることでしょう。一日も早い全曲盤の復活が待たれてやみません!