2016年7月23日土曜日

ドビュッシー ベルガマスク組曲(2)

















ドビュッシーでしか作れない
透明なハーモニー、
色彩のニュアンス
  ドビュッシーの初期の名曲といえば、何と言っても『ベルガマスク組曲』を外すわけにはいきません……。この作品の素晴らしいところは何度聴いても飽きない豊かなポエジーと自然な情感が音楽として息づいているところでしょう。
 もちろん、ベートーヴェンのような精神的な音のドラマとは無縁ですし、モーツァルトのような流麗なソナタ形式で書かれているわけでもありません。
 また、『ベルガマスク組曲』はドビュッシーが音楽スタイルを確立する以前の作品ということで、「先人たちや大作曲家からの影響が濃い作品だ」と言われたり、後年の傑作『前奏曲』や『映像』、『版画』と比べると軽視される傾向があるように思います。
 しかし、その音楽はまぎれもなくドビュッシーでしか作れないもので、透明なハーモニー、色彩的なニュアンスや洗練された音色の効果は抜群で、聴けば聴くほどに味わいが増すのも事実なのです。

さまざまな情感を映し出す
詩情豊かな音楽
 まずプレリュードの自由でとらわれのない旋律が生み出す光と影のコントラスト、そして透明な色彩のハーモニー!何という詩的な情感の美しさであり、感覚的な冴えでしょうか。
 第2楽章メヌエットの洗練されたリズムやメロディは優しく頬を撫でる風のように心地よく、聴いているうちに懐かしい子守歌のようにさえ響いてくるではありませんか……。
 有名な第3楽章「月の光」は優雅で繊細、そして哀しみを堪えて綴られるメロディにひたひたと切なさがつのってきます。
 第4楽章パスピエも神秘的な色調の音に隠れる何とも言えないエレガントな旋律の魅力に心惹かれます。そして、全編を通じて主題や展開部のつなぎの音のさり気ないセンスの良さがますますイメージを広げてくれるのです。

フランス人ピアニストが
奏でる音色の魅力
 演奏が素晴らしいのはミシェル・ベロフ(DENON)が収録した録音です。まずプレリュードから音色の柔らかさと自然なフレージングに惹きつけられます。それは全編に渡って言えることで、センス満点の表現と無理なく作品の本質を引き出した音楽性は見事です。
 パスカル・ロジェ(Onyx)の演奏もほぼ同様の事が言えるのですが、ベロフ以上にフランス的なエスプリが効いています。表現のメリハリを求める方にとってはやや物足りなく感じるかもしれませんが、フランス人作曲家ドビュッシーを聴きたい方にとってはファーストチョイスになるのでしょうか……。
 心ゆくまでメロディや雰囲気を味わいたい方にとってはモニク・アース盤(エラート)がいいかもしれません。決してあせらず急がず、魅惑のメロディを女性的なデリカシーと格調高い表現で豊かに謳い上げています。