2011年6月2日木曜日

『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』



   先日、国立西洋美術館で開催中の『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』に行ってきました。エッチングの作品が質量ともに大変に豊富で、これを見ればレンブラントのエッチングの真髄がある程度堪能できるのではないかと思います。
 何よりも興味深かったのはレンブラントが版画の材料として和紙を好んで使ったということです。『病人たちを癒すキリスト』『三本の木』や『イタリア風景の中の聖ヒエロニムス』等の有名な版画はオートミール紙、西洋紙の他にも和紙を使って制作されています。おそらく、レンブラントにとって和紙は微妙な諧調を柔らかく表現するのに適していたようで、明らかに他の紙との効果の違いが見てとれます。また、ドライポイントやエッチング、エングレーヴィングとさまざまな技法を用いることによって驚くほど明暗の効果や味わいが変わってくることにも気づかされます。
 特にエングレーヴィングで制作された作品は繊細で重厚な画面に水墨画のような柔らかな味わいも生み出していることに驚かされるではありませんか!!


 油彩画では『書斎のミネルヴァ』が構図、マティエール、色彩、重厚で風格のある表現とどれをとっても文句のつけようのない作品です。男性実業家を描いた『旗手(フローリス・ソープ)』は穏やかな表情の中に垣間みられる真摯な人柄が印象的です!


 また、今回の収穫のひとつはレンブラントの油彩画の名作、『ヘンドリッキェ・ストッフェルス』に出会えたことです。ヘンドリッキェの柔和で気品に溢れた表情……。その憂いを帯びた深い眼差しは見る人の心に切々と訴えかけているような気がいたします。まさに壁に掛けられた空間の空気を変えることのできるレンブラントならではの逸品でしょう!
 
 東京での会期は残すところ10日あまりになりました。「見ようか見まいか」と迷っている方も多いと思います。それでも結論から言えば多少無理をしてでもご覧になったほうがいいのではないかと思います。それほど企画展としては充実しておりますし、版画の制作の動機や紙による効果の違いを実感できる貴重な展覧会だと思うのです。


《病人たちを癒すキリスト(百グルデン版画)》
1648年頃、エッチング・ドライポイント・エングレーヴィング、278 x 388 mm
国立西洋美術館






《ヘンドリッキェ・ストッフェルス》
1652年頃、油彩・カンヴァス、740 x 610 mm
ルーヴル美術館/© 2006 Musée du Louvre/ Angèle Dequier

【東京展】
      公式サイト
開催期間  2011年3月12日(土)ー 6月12日(日)


【巡回】
開催期間  2011年6月25日(土)ー 9月4日(日) 
      名古屋展HPはこちら
開催場所  名古屋市美術館
      〒460-0008 名古屋市中区栄二丁目17番25号(白川公園内)
開館時間  午前9時30分 ― 午後5時(毎週金曜日は午後8時まで)
      *入館は閉館の30分前まで
休館日   毎週月曜日《ただし、7月18日(月)は開館、7月19日(火)は休館》
主催    名古屋市美術館、中京テレビ放送
後援    オランダ王国大使館




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2011年5月29日日曜日

フォーレ レクイエムニ短調作品48





   この作品は、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレの代表作です。レクイエムというと「死を悼む」とか、「葬葬曲」という認識が強いのではないでしょうか。
  そのせいかレクイエムというとどうしても重苦しい曲調になってしまうのが避けられないのですが、フォーレのレクイエムだけは天国の花園のように美しいフレーズが充満し、心を癒してくれるのです。
  特にフォーレの作品の場合は、深刻になりがちなカトリックの死者のミサから「怒りの日」の部分をそっくり省くという大胆な改変を行ったのです。そのため、当時のカトリックの寺院からは「死の恐怖が伝わってこない」とか「カトリック的ではない」という激しい叱責を受けたようです。しかし、フォーレはこの作品を典礼上の死者のミサとしてではなく、魂の永遠の平和を純粋に願った音楽として作曲したかったのだと思います。
いわば、寺院から依頼されて典礼上の不都合に眼をつぶりながら作られたレクイエムではなく、自らの想いや気持ちに正直に作られたレクイエム調の音楽といっていいのではないでしょうか。
ですから、通常のレクイエムとは違い、暗い影が無く、悲しみの中にも愛と希望が充満し、絶えず心地良い風や穏やかな陽射しに覆われているのです。

全曲中、特に印象的なのは第2曲のオッフェルトリウム、第3曲のサンクトゥス、第4曲のピエ・イエスではないでしょうか。オッフェルトリウムはグレゴリア聖歌のようなテーマをカノン風に歌い継ぐ出だしが神秘的で心に染みます。その後、中間部でバリトンの潤いのある歌から清澄なコーラスへと続くのですが、まるで天上から舞い降りた癒しの音楽のように聴こえ、その魅力にいつまでも浸っていたいと思えるほどです。
サンクトゥスもソプラノ、テノールの交わすように歌われるテーマが、ホザンナで最高潮に盛り上がり、感動的な余韻を残していきます。ピエ・イエスの懐かしい情緒を伴う澄んだソプラノの歌も最高です。


この作品はミシェル・コルボ指揮ベルン交響楽団、アラン・クレマン(ボーイ・ソプラノ)、フィリップ・フッテンロッハー(バリトン)、 サン=ピエール=オ=リアン・ドゥ・ビュール聖歌隊他(エラート、1972年)の演奏が今もって最高です。この曲の魅力を本当の意味で再認識させてくれた心の片隅にいつまでもしまっておきたい稀有な名演奏です。
何よりも清澄な空気を演出するコルボの指揮やオーケストラの響き、少年合唱の無垢な歌声の素晴らしさは改めて説明の必要はないでしょう。それほどこの演奏はレクイエムの持っている魅力をあますところなく表現し尽くしているのです。





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