第4回 コロー 「ナポリの浜の思い出」
ジャン=バティスト=カミーユ・コロー
(Jean-Baptiste Camille Corot 1796年〜1875年)
この絵はコローの晩年の絵ですが、この頃の彼の絵を見ると、くすんだ色調の中にいつも穏やかな風が流れていることに気づかされます。この絵も例にもれず、樹々が風に揺れて、ざわざわとささやきかけるような風情が伝わってきます。
おそらく、この人にとって風に揺れる樹々のたたずまいはとても心癒される思い出だったのでしょう。時間がゆるやかに流れ、瞑想にも似た豊かなこの体験が得も言えぬ至福の瞬間を生み出しているのです。現実と悲現実的なモチーフを配置し、普通はよほど熟練した構成力がないともたない仮想空間の設定で、彼は地味で枯れた画風ながらも独自の画風を作り上げているのです。