2010年3月13日土曜日

ヘンデル 合奏協奏曲作品3




大らかにのびのびと作られた
ヘンデルの魅力作

 ヘンデルはバッハと並び、バロックの2大巨頭と言われています。しかし、実際はバッハが幅広い分野で作品が知られているのとは対象的にヘンデルはメサイヤ、水上の音楽以外の作品は決してメジャーとは言えません。特にかなりの量の作品を残したオペラやオラトリオの不人気ぶりは甚だしく、日本では「メサイヤ以外のオラトリオってあったの?」と言われる始末です。オラトリオやバロックオペラの公演そのものがごく稀な日本の現状ですから、これは致し方ないのでしょう。

 でも最近は欧米で少しずつというか、かなり様子が変わってきました。ヘンデルのオペラが頻繁に上演されるようになってきたのです。しかも、ヘンデルのオペラは他の作曲家に無い特別な魅力があり、一度その良さを発見すると猛烈な勢いで作品に引き込まれていくのです。

 その魅力が何かというと、第1には細部にはあまりこだわらず、大らかにのびのびと作られた開放型の作曲スタイルにあると言えるでしょう。バロック特有の端正なスタイルと相まって独自の個性を生み出しているのです。
 第2には磨き抜かれた上品で輝きのある作風だと思います。世事を忘れ、ある意味で一種の仮想空間に自分を置く気持ちの良さとでも言ったらいいでしょうか。とにかく変に重くならず、いい意味でさっぱりとして気持ちがいいのです。

 そのような特徴や魅力からして、ヘンデルは朝の出勤時に聴くととても心が晴れ晴れとしてきます。中でも合奏協奏曲作品3は親しみやすく肩の凝らない最良の作品でしょう。


抜群のテンポとリズム感
ガーディナー盤

 全曲は6曲から成り立っていますが、決していかつかったり、とっつきにくい作品ではありません。そのどれもが自由な発想に富み、時に可愛らしくユーモアたっぷりに曲が展開されるのです。後年の作品6のような深さはないものの、充分に個性的かつコンパクトにまとまった魅力作です。演奏で愛聴しているのは、ガーディナーがイングリッシュ・バロック・ソロイスツを振るフィリップス盤です。即興的な造型や、抜群のテンポとリズム感に支えられたアプローチが実に小気味いい感じです。




2010年3月10日水曜日

モーツァルト クラリネット五重奏曲










室内楽のジャンルで
例外的にポピュラーな作品

 このところ、寒かったり雨が降り続いたりとかなり不安定な天候の日が続きますね。どこか体調がすぐれないという方も多いかも知れません。しかも、長引く不況の影響で心も身体も冷え切っていると思われる方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。こんな時こそ、心にたっぷりと栄養補給したいものです。

 先日、久し振りにモーツァルトのクラリネット五重奏曲を聴きました。何度も聴いている曲なので、いい加減飽きてるかなと思いましたが、曲を聴き進めるうちにひたひたと身体中に熱い感動が押し寄せてくるのを感じました。本当に至福のひとときでした。

  この作品は不人気と言われる室内楽のジャンルでは例外的にポピュラーな作品です。第1楽章の柔らかく優しく語りかけるメロディ。第3、第4楽章の哀しみを堪えながら無邪気に微笑むメロディ‥。
 そのいじらしいまでの無邪気さや健気さは心をぐっと掴んで離しません。この作品は最初から最後まで人を退屈にさせることがないのです。乾いた土に 染み込む水のように自然に心の養分となり、聴く者をいつのまにか至高の世界に誘ってくれるのです。



疲れた魂を癒す
最高の逸品

   まさに疲れた心を癒し、魂を癒してくれる最高の逸品と言っても過言ではないかと思います。中でも素晴らしいのは第二楽章のアダージョでしょう。ここにはすべての言葉が無力に思われるほど、無限の愛や諦観が色濃く流れています。哀しみをじっと耐えながら、どのような運命をも拒まず受け容れる寛容の心に溢れています。

 音楽の展開は、クラリネットと弦楽器が語り合うように哀しみやわびしさや慰めの感情を奏していきます。その表情は母親が赤ちゃんを懐に抱え、子守唄を口ずさみながら「いいんだよ。何も気にしないでお休み。お前を一生離すことはないから‥」と優しく諭しているようにさえ思えます。

   きっと晩年のモーツァルトは経済的にも苦しく、人間関係においても相当に心に傷を負っていたのでしょう。ここにはすべてのものを失い、悲しみのどん底に喘ぎ、憔悴し切ったモーツァルトの姿が映し出されています。
 けれども寂しさと哀しみに押しつぶされるのではなく、それでも人を信じていこう、愛していこうという気持ちがこぼれているのです。いわば、絶望の中にあっても人を信じたい、愛し愛されたいというモーツァルトの強い想いがこの作品を誕生させ、名作として結実させたのでしょう。




 演奏で忘れられないのはフリードリヒ・フックス=ウィーンコンツェルトハウス四重奏団です。これは1962年の東京文化会館でのライブですが、録音も比較的良く、楽器の音色もきれいに収録されています。甘く切ないクラリネットの表情、ポルタメントを用いた柔らかい弦の響き、本当に夢のようなひとときが流れていきます!モーツァルトのこの名曲を心静かに味わうには最高の1枚と言っていいでしょう!


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2010年3月9日火曜日

レハール オペレッタ「メリー・ウィドウ」



 メリー・ウィドウは本当に楽しい作品です。何度聴いても楽しくさわやかな気分にさせられます。作曲家のフランツ・レハールはワルツの人で、誰もが一度は耳にしたであろう名旋律の「金と銀」の作曲で馴染み深い人です。

 この作品でも有名な「メリーウィドウのワルツ」を始めとして胸がぐっとくるような珠玉のナンバーがずらりと並び、その魅力の虜になってしまいます。やはり、メロディメーカーとしてのレハールの力量は並大抵ではありませんでした。

 この作品はオペラではなくオペ レッタという喜歌劇に属するそうですが、ジャンル分けはこの際大した問題にはならないでしょう。歌はブロードウェイのミュージカルのように雰囲気抜群ですし、立ち居振る舞い等は演劇の舞台のように動きがあり、味わいがあります。

 ストーリーはいわゆるドタバタですが、笑いあり涙ありの生き生きした人情ドラマが展開されていきます。夢とロマンの香りを引き立たせるチターやマンドリンやヴァイオリンの響き。それは郷愁を誘い、春のうららかな夢のような懐かしい響きとなります。この全編に溢れる人なつっこくて、愛らしく麗しい情緒は聞くものを 捉えて離しません。そっと心の片隅にしまって置きたくなる宝物のような作品だと思います。

 CDで素晴らしいのはマタチッチがフィルハーモニア管弦楽団を振った1962年録音のEMI盤です。芸術性、エンターテイメント性において申し分なく、ちょっとした フレーズにも驚くほどの気品や情感が漂っています。シュワルツコップのハンナやヴェヒターのダニロも情感満点で思わず陶酔させられます。弦や楽器の響きも古き良き時代を偲ばせる豊麗な魅力に満ち溢れています。