2013年9月30日月曜日

J.S.バッハ オーボエ、ヴァイオリンのための二重協奏曲ニ短調BWV1060a










 芸術作品を心から楽しみ味わうためには押さえるべき数々の条件がありますね。中でも大切なことは「偏見を持たない」、「純粋に作品と向き合うこと」になるでしょう。たとえば、最初から「バッハ、モーツァルト、ショパンの作品は凄い」という既成概念を持って作品の良し悪しを判断してしまうことですが…、これはあまりよろしくないことですね。既成概念を持って作品を鑑賞すると、本来様々なインスピレーションを受けるはずの感性のフィルターが閉ざされてしまいます…。つまり素直に作品を堪能することができなくなっ てしまうのですね。極端な話、作者の名前を伏せて絵を見たり、音楽を聴くことは大切なことかもしれません。もっと自分の目と耳、そして感性を信じることが大切でしょう!
 そして作品を鑑賞するときに、「自分だったらこんな風に表現してみたいな」とか、「こうしたらもっと面白いかも…」という感じで疑似創作体験をしてみることです。これは実際に曲を作るとか、絵を描いたりしなくてもイメージを思い巡らすだけで、作品に対する理解が深まるだけでなく、作品を鑑賞する楽しさや面白さが格段に増すのです!

 話がかなり横道に逸れてしまいましたが、このオーボエとヴァイオリンの協奏曲はバッハの作品であるかどうかが疑われているようですね。でも私はそんなことまったく気になりません。たとえバッハの作品でなかったとしても、作品の価値はまったく変わらないのですから……。

 そしてこの作品にはかつて途轍もない名演奏がありました。それがヘルムート・ヴィンシャーマンのオーボエと指揮、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルのヴァイオリン、ドイツ・バッハ・ゾリスデン(コロムビア・廃盤)の演奏です。とにかく、この作品はヴィンシャーマンの演奏によって市民権を獲得したといっても決して過言ではないでしょう。絶妙な間合いやリズム感、音色の温かさ、高音の伸び等、ヴィンシャーマンの抜群の音楽センスにはため息が出るばかりです。この曲は二短調なのですが、短調の曲にありがちな息苦しさがまったくありません。それどころか少しずつ主題のスタイルを変えて展開されるメッセージはワクワクし、最高の幸福感さえもたらしてくれるのです。

 ヴィンシャーマン盤を聴けば、バッハの曲にこんなに愉悦感があったのかと驚かれる方もきっと多いのではないでしょうか。
 第1楽章のオーボエとヴァイオリンの対話はとても和やかで、短調であることを忘れるくらいスーッと心に溶けこんでくるような趣きがあります。第2楽章の弦のピッチカートを伴奏にした緩やかなメロディの展開も美しい表情を生み出し、長さを感じません。第3楽章も第1楽章とほぼ同じことが言えますが、ここでもオーボエとヴァイオリンの絡みが多彩な美しさを生み出しているのです。

 ※CDが廃盤の現在、この演奏を楽しむためにはiTunesの配信サービスを利用されるしかないようです。