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2017年3月6日月曜日

デューラー 「祈りの手」










手は口ほどに物を言う?

「目は口ほどに物を言う」とは昔からよく使われる諺です。確かに相手の目を見ると、その人が言葉を発しなかったとしても、何を考えていて、どのような精神状態なのか分かるような気がしますね!
それでは手だったらどうでしょうか? おそらくほとんどの人は「手の動きで分かるもんか…」と答えるに違いありません。
しかし、ここにその一般の常識を大きくうち破った偉大な作品があります。デューラーの「祈りの手」です。

さて、この「祈りの手」には様々なエピソードがあるようです。それはデューラーは貧しい家庭に生まれ育ったために絵の具を取りそろえる経済的な余裕がなかったが、高名な画家に弟子入りしたときに同じ境遇の友人と出会ったという話です。

二人は親交を深め、それぞれの創作活動を支援するために働いて生活費を工面していこうということで合意しました。まず友人が炭鉱で働き、その間にデューラーが絵を描き続けるということになったのですが……。首尾良くデューラーの絵は売れ始め、その報告を友人に伝えようとしたら友人の手は炭鉱の厳しい仕事で指が曲がらなくなっていた(つまり絵が描けなくなっていた)という話です。友人の手を見たデューラーは「せめて手を描かせてくれ…」と頼みこみ、それが不朽の傑作になったというお話なのですが……。

確かに感動的な話ですが、私はこういうエピソードは真偽のほどはともかく、あまり気にしません。というよりはエピソードがどんなに感動的だったとしても、出来上がった作品自体がよくなければお話にならないからです。
それならむしろエピソードがなかったほうが良かったということになりかねませんし…。


崇高で敬虔な表情が伝わる絵

もちろん、「祈りの手」は芸術作品としては申し分ない傑作中の傑作です。そして、何と美しく豊かな表情を持った絵なのでしょうか!今まさに手を合わせようとする崇高で敬虔な表情がこの手からは自然と伝わってくるのです……。

この作品で手の動きの方向性や血管の隆起、心の動きを伝えるような線のタッチに至るまで、すべてを有機的な表現として絡ませ、大胆かつ細心の注意を払ったデューラーのアプローチは寸分の揺らぎがありません。手のひらから指先の隅々まで神経を通わせ、感情移入したムーブメントの表現は、もはや人体のパーツではなく、心や性格を有した一つの個性として結実しているのです!

ひたすら一生懸命描いたらこういう絵になったというのではなく、ここにはポイントを的確に捉えた鋭い洞察力やアカデミックな表現ながらデューラーの個性をしっかりと伝える並々ならぬ存在感が絵としての価値をさらに高めていることは言うまでもありません。

2016年7月2日土曜日

デューラー 『芝草』







草花に宿る
強い生命のエネルギー

 デューラーの『芝草』は有名な水彩画ですが、一般的によくある植物画とはちょっと違います。

 何が違うのかと言えば、線のタッチや、構図の取り方、色彩表現等が奇抜なわけではありません。ご覧の通り、表現方法は至ってシンプルですし、グイグイと正攻法で推した描画好きにはたまらないアカデミックの頂点とも言うべき絵なのです。

 かといって、シャルダンやドガの花の絵のように見て美しいわけではありません……。しかし、特別なことをしていないはずのに小宇宙を想わせるような存在感は圧倒的ですし、私たちに向かってそれぞれの草花が何かを語りかけてくるような気がします。 
 この絵を見ると草花は確かに呼吸をしていて、程度の差こそあれ人間のように様々な感情を持っているのではないかと思えてくるから不思議ですね……。 

 『芝草』はデューラーの明確で強い表現意図が感じられる絵です。それはおそらく草花に宿る強い生命のエネルギーや神秘を表現することだったのでしょう。それこそ一本一本の草花に神経が行き届き、血が通うその姿は、まさしく生命のエネルギーを放射するかのようで、私たちの心を掻き立ててやまないのです!



2014年7月6日日曜日

アルブレヒト・デューラー 「野うさぎ」











圧倒的な存在感


 ルネサンス期のドイツの巨匠デューラーは聖書の連作や神話をテーマにした絵を描いたスケールの大きい画家ですが、皆さんは彼の代表作といえば真っ先に何を思い浮かべますか?

 私は「アダムとエヴァ」の凛とした表情や「四人の使徒たち」の目ヂカラの強さにも惹かれるのですが、すぐに思い浮かぶのは分かりやすいグワシュと透明水彩で描かれた「野うさぎ」です。
 デッサン力の凄さは言うまでもありません。ひとことで言えばちょっと見ただけで画面に惹きつけられてしまう圧倒的な存在感の凄さと言ってもいいでしょう。デッサンでモチーフからこれだけの存在感を出せる人ってなかなかいません。
 ウサギの柔らかそうな毛並みやピンと立った耳はもちろんのこと、ゴツゴツとした骨格までリアルで違和感がないのですね……。とにかく、この絵からは「狙った獲物は離さない!」的な並々ならないデューラーの気迫が伝わってきます!

 この「野うさぎ」も実は巧みな仕掛けやデフォルメがされています。たとえば、空間を感じさせる構図の素晴らしさ! 絵の右下の方から逆三角形に拡がる構図は今にも動き出しそうなうさぎの様子を効果的に引き出しています。
 また、グワッシュや透明水彩のように性格の真反対の画材を使用しながらも、それを完璧に馴染ませている画力! ひとつひとつの描線に神経を通わせ、細心かつ大胆に描き分けることによって生命力を注ぎ込むことにも成功しているのです。