絶品の静物画
18世紀フランス絵画の巨匠シャルダンは、学生時代の頃の私にとって特別な存在だったように思います。特に静物画の格調高く暖かみのある画風にはずいぶんと心惹かれてきたものでした。彼は華やかなフランス・ルイ王朝時代に生きた人でしたが、明らかに当時全盛のロココ美術とは一線を画していました。
シャルダンの絵は静謐だとはよく言われますが、もちろんそれだけの人ではありません。実は、彼の静物画は芳醇な色彩の魅力に富んでおり、対象を深く愛情を持って捉えた存在感と気品を併せ持っているのです。この「カーネーションの花瓶」も例外ではありません。
それにしても花瓶に差された花々の生き生きとした佇まいの見事さは何と説明したらいいのでしょうか……。上品で清楚、そして甘い花の香りがほんのりと伝わってくるような柔らかな雰囲気に満ちているのです。よく見ると丹念に描写されたと思われる花のディテールが、意外にも大胆でスピーディーな筆のタッチにより表現されていることに気づかされます。
白が白らしい美しい色調を装い、赤は妖艶なまでに心に響く深い色となっているのです。しかも、背景の絶妙な空気感や花瓶とのコントラストが見事な空間を生み出していることに気づきます。一見地味なようですが、どうしてどうして実はセンス満点の絵であることを実感するのです。これは決して普通のリアリズムでは表現できない世界でしょうし、何よりも画家の卓越した感性が強く絵に反映しているのです!
この絵は今年、東京・三菱一号館美術館での「シャルダン展」に出品された絵として話題になりました。残念ながら私はせっかくのチャンスを逃してしまいました……。悔やんでも悔やみきれないのですが、またいつか見られる機会をのんびりと待とうと思います。