2012年3月16日金曜日

モーツァルト ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503







もう25年ぐらい前のことになりますが、この曲には懐かしい思い出があります。特に第3楽章のアレグレットを耳にすると秋晴れの野原に可憐に咲いていた色とりどりのコスモスが鮮やかに思い出されるのです!  

ちょうどこの時、私はヘッドホンステレオを聴きながら外を歩いていたのですが、その時聴いていた曲がモーツアルトのピアノ協奏曲第25番のアレグレットだったのでした。何故なのかはわかりませんが、私にとってあのメロディや曲調はちょうど太陽の光を浴びて輝くコスモスの透明な美しさと不思議と通じる何かがあったのでしょう…。
とてもその情景が印象的だったため、しばし時間を忘れて目で追い続けたのがついこの前のように思い出されます。

モーツアルトのピアノ協奏曲第25番は彼の20番代のピアノ協奏曲としては比較的演奏頻度も少なく、どちらかというと地味な部類の作品なのかもしれません。しかし、晴れた秋空を感じさせるような透明な詩情や純粋無垢な魅力はやはりモーツアルトならではですし、決して騒ぎたてないつつましやかな表情も印象的です!

この曲の第1楽章は出だしがファンファーレのような大合奏で始まり、これからどれほど盛り上がっていくのだろうかという期待感を抱かせるのですが、実際は思ったほどではありません。
それどころか音楽はどんどん内省的になり、静かな諦観さえ湛えながら進行していきます。一見華麗で力強く感じられるものの、実は多くの苦悩や哀しみを抱えながら周囲には努めて自然で明るく振る舞おうとするモーツアルトの意地らしい側面がうかがえるのです!

第2楽章になるとその傾向は一層強まり、ピアノが夢の中を彷徨い歩くようなモノローグを延々と弾いていきます。ここには自分を飾ろうとか自己主張しようという美意識はほとんどありません。ただひたすらに流れる音楽がモーツアルトの澄み切った心の境地を静かに伝えていくのです。

第3楽章のアレグレットは透明感に満ちたさわやかな音楽が本当に印象的です。ピアノと管弦楽の掛け合いや遊びの境地が心地よく、モーツアルトの魅力が全開している感じです。ピアノ協奏曲第27番のような枯れた透明感とは少し違う色彩感や華のあるメロディがとても心に響きます!

エリック・ハイドシェックのピアノとアンドレ・ヴァンデルノート指揮パリ音楽院管弦楽団による演奏(EMI)はこの曲の魅力を最大限に引き出している感じです。特にハイドシェックの自由奔放で感性豊かな演奏は地味と思われているこの作品に彩りを添えています! ただしこの録音は現在廃盤になっており、手に入れるのは少々困難かもしれません。ハイドシェック新盤のハンス・グラーフ指揮ザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団との録音(ビクター)は閃きや奔放なタッチは減少し、少々大人しくなったもののしっとりとした味わいで充実した音楽を聴くことができます。
内田光子(ピアノ)、ジェフリー・ティト(指揮)イギリス室内管弦楽団の演奏はすべてにおいて理想的な演奏を繰り広げています。中でも第2楽章のしみじみとした深い味わいは他の演奏からはなかなか聴けないものでしょう。






2012年3月15日木曜日

モーツァルト: 2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365








 モーツァルトの2台のためのピアノ協奏曲はとびきり明るくて清々しい情感が印象的な曲です。交響曲で言えば祝典的な華やかさのある第35番「ハフナー」あたりに似た作品になるのではないでしょうか。後年のピアノ協奏曲のような深さはありませんが、聴いているととても気持ちが晴れ晴れとして幸せな気持ちになってきます!

 とにかくすこぶる演奏効果の上がる曲なので、音楽を聴きながら自然と身体が動いてきたりします…。主題も覚えやすいし、モーツアルトらしいメロディの魅力も随所にあります。第1楽章の広々とした情景を想わせるテーマの魅力、第3楽章の颯爽とした上機嫌な音楽。1度聴いたらその音楽に魅了されることでしょう! 

 しかし、もしかしたらこの作品で一番気持ちがいいのはピアノを弾いている2人の奏者かもしれません!
 それぞれのピアノパートを風のように駆け抜けたり、こだまのように反復したり、ささやきあったりと…、聴いていくとピアノの掛け合いがユニークで、まるでおしゃべりのように楽しいのです!何だか聴いているほうも「よほど楽しいんだろうな…」と羨ましい気持ちになるんですね!

 こういう曲ですからピアノ演奏はお互いに遠慮せずに、自分の持ち味をフルに発揮して、オーケストラもやりたい放題やってくれればいいのにと思うのですが…。意外に自分の持ち味を発揮してやりきった演奏というのは少ないのです!
 しかし、そんな中でペライアがルプーと組みイギリス室内管弦楽団を振った演奏は息がぴったり合い、いい意味での緊迫感があり、音も然ることながらメリハリの利いた演奏は実に気持ちよく、最高にエキサイティングな演奏になっています。



2012年3月12日月曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャパン2012




「ロシア音楽」のルーツを辿る旅



すっかりゴールデンウィークの定番となりつつあるクラシックイベント「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャパン2012」が今年もやってきます! 今回はテーマが「ロシア音楽」だそうで、通常あまり光が当たらない名曲のルーツや様々な作曲家の系譜を取り上げたプログラムが組まれるようです。
 チャイコフスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、ムソルグスキー、リムスキー・コルサコフ、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー…とさまざまな個性的な作曲家を輩出してきたロシア音楽の歴史と真髄を探る上で絶好の機会になるのかもしれません!乞うご期待

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ノスタルジーと美に満ちたロシア音楽の世界へ


ルネ・マルタン(René Martin
今年で8回目を迎える「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」。今回は、深みのある人間の生と「宿命性」を感じさせ、聴き手の心を震わせるメロディが印象的な、ロシア音楽の旅へご案内いたしましょう。
この旅は、1804年に誕生したグリンカからスタートします。ウィーンでベートーヴェンが活動していた時代であり、音楽の歴史が古典派からロマン派ヘと移行する時期でもありました。近代ロシア音楽は「父」と呼べるグリンカから、ムソルグスキーやボロディンらが集まって活動した「ロシア五人組」へと受け継がれ、首都サンクトペテルブルクを舞台として国民楽派の音楽が生まれます。中でもリムスキー=コルサコフは管弦楽法に精通し、ストラヴィンスキーをはじめとする多くの弟子を育てて、20世紀へと伝統をつなぎました。
その一方で「ロシア五人組」と同じ時代に、モスクワで活躍したのがチャイコフスキーです。ヨーロッパ音楽に近い作風で多くの美しい作品を書いたのは、皆さんもよくご存知でしょう。チャイコフスキーはたくさんの後輩も育てましたが、最後のロマン派の巨匠ラフマニノフもその一人です。彼はピアニストとしても一流の腕前をもっていましたから、素晴らしいピアノ協奏曲や数多くのピアノ作品を作曲しました。
 20世紀になると、それまでロシアにおける政治の実権を握ってきた皇帝や貴族たちへの反感が強まり、1917年に革命が起こってソヴィエトという新社会主義国家が誕生します。こうした混乱期に新しい才能として登場したのが、ストラヴィンスキーやプロコフィエフといった作曲家でした。またソヴィエト時代を代表する作曲家となったショスタコーヴィチも、「サクル・リュス(ロシア音楽の祭典)」では忘れるわけにいきません。そして彼らが守ったロシア的な精神は、20世紀後半のシュニトケやグバイドゥーリナといった作曲家にも受け継がれているのです。プーシキン、トルストイ、ドストエフスキーなどが文学で表現してきた人間の「宿命性」というテーマは、常にロシア音楽にも流れているのです。
このように、およそ2世紀という期間の中、多くの作曲家たちが登場してロシア音楽を世界的な存在にまで高めました。皆さんにはぜひ、ノスタルジーと美に満ちたロシアの音楽に耳を傾け、心を熱くしていただきたいと思っています。(公式サイトより)

2012年3月31日(土)10:00よりチケット一般発売開始

4月25日(水)以降はチケットぴあのみでの販売となります。