2014年3月13日木曜日

J.S.バッハ 管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068



















壮麗・荘厳な響きの第3番

 バッハの管弦楽組曲は、バッハ自身の管弦楽曲の白眉であることはもちろん、バロック音楽、フランス風舞曲や宮廷音楽の集大成の作品として、昔から大変有名な作品でした。しかも軽快で愛らしいフランス風舞曲を壮麗な管弦楽作品に仕上げてしまうバッハの創作力にはただ驚くばかりです! あえて例えるなら、ブランデンブルク協奏曲が楽器の編成等のヴァリエーションに富んだ「柔」だとすれば、管弦楽組曲はグイグイと正攻法で押し通した「剛」ということになるかもしれません。
 
 中でも第3番は「剛」の代表格と言っていいでしょう。 序曲のトランペットに象徴される壮麗・荘厳な響きは輝きに満ちていますし、聴いていると襟が正される思いですね! この序曲は主部でフーガとなり、荘厳な建築物を様々な角度から仰ぎ見るようにどんどん発展していきます。

 2曲目は壮大な序曲と打って変わって、清澄な美しさを湛えた傑作で誰もが知るエア(「G線上のアリア」で有名)ですね。弦楽器と通奏低音の対位法的な構成はとてもシンプルなのに、そこからあふれる感動と余韻は深いという…、改めてバッハの深遠な精神世界を垣間見るような思いがいたします。

 ガボット、ブーレー、ジーグ……。いずれも、バッハらしい創造的で強い生命力を持った舞曲に仕上がっており、一本芯の通った魅力にあふれた音楽となっているのです。




リヒターとカザルスの厳しいアプローチ

 第3番はカール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団(アルヒーフ)の演奏が最高です。序曲から物凄い緊張感が漲り、息もつけぬほどの集中力を聴く者に要求します。ここまで厳しい表現に徹する必要があるのか…という声もあがりそうですが、それでも力づくではない威厳に満ちた壮大な表現を実現できたのはリヒターだけでしょう。
 どこをとっても個性的で気まぐれな表現は見当たらず、その一途で真摯な表現に心打たれてしまいます。全体的に颯爽としたリズム感や清廉なアプローチがバッハにふさわしく、いつのまにか奏でられる音楽の魅力に引き込まれていきます。

 カザルス盤(CBS)もなかなか凄いですね。ただ、序曲だけは残念です。表現そのものは深く偉大なのですが、弦の響きが地味で渋く、演奏効果が弱いため、どうも音楽が立体的に展開しないのですね……。リヒターの壮大なアプローチを聴くとなおさらのことでしょう。
 しかし、エア以降の諸曲はリヒター盤以上かもしれません。精神的なゆとりが音楽に即興的な閃きや力強さを与えています。ガボット、ブーレなどのテンポの流動感や生き生きとしたリズムは最高で、あらゆるところにカザルスの名人芸が巧みに生きています。エアの自然な盛り上げかたもさすがで、心の奥底まで余韻が伝わってきそうです。