2012年2月7日火曜日

モーリス・ラヴェル  ピアノ協奏曲ト長調



既成概念にとらわれない遊びの感覚


Ravel Piano Concerto /Piano:Samson Francois/Conduct:Andre Cluytens



 クラシック音楽の協奏曲は数々あれど、ラヴェルのピアノ協奏曲ほど楽しい作品はあまりないかもしれません。しかもこの作品、まったくといっていいほど既成概念にはとらわれていないのです。とにかくいろいろな遊びの要素が満載で、それも中途半端な遊びではなくラヴェル自身が徹底的に楽しんでる感じなのです。
 この作品に関しては、クラシック音楽で言うところの常識はあまり通用しません! 格別クラシックファンでなくともその良さがわかるかもしれませんし、「クラシックにはこんな楽しい作品もあるのか…」と納得されるかもしれませんね!

 管楽器の扱いのうまいラヴェルですが、「ピシャ!」と鞭を振り下ろすような第1楽章の出だしから意表を突く展開に唖然!ファンタジックな曲調なのかと思えば、一転ピアノはすぐさまブルースのようなジャズ的なメロディを奏でます。その後も色彩豊かなさまざまなパッセージを経ながら遂にはピアノのものすごいエネルギッシュな高まりとともに終了します。

 第2楽章では一転して、詩的なトーンで曲が展開します。ピアノは過去を愛おしむように回想しつつ美しく奏されます。第1楽章とのギャップには驚きですが、さすがは名アレンジャーのラヴェルだけあって、少しも間延びせず不思議な力で聴かせてしまいます。しかも叙情的なメロディをどこか冷めた目で外側から見つめるもう一人の自分が居たり…、とても一筋縄では行きません。この楽章ではピアノに寄り添うように流れるオーボエ、フルート、ファゴット、ホルンの音色が大変に魅力的で叙情的な色あいに華を添えます!

 第3楽章はまた衝撃的なトランペットの強靭な和音から始まり、微動だにしない管弦楽の中をピアノが一気に駆け抜けていきます!まさに無駄な和音はなく、あらゆる音が光と色彩の渦に巻き込まれるようにフィナーレを迎えていきます!

 サンソン・フランソワ(ピアノ)とアンドレ・クリュイタンス(指揮)が組んだEMI盤は、この作品に備わっているリアリスティックな迫力や洗練された遊びの感覚を最も伝えてくれる演奏です!フランソワは傍若無人と言えるほど形を崩しつつ、自由にピアノを弾いていきますが、曲への共感の度合いが強いのか、まったく違和感がありません!聴く人を最後まで飽きさせることなく、グイグイ音楽の魅力を引き出すところはさすがです。