マルケは同じテーマの絵を繰り返し何度も描いた人でした。パリの街並みであったり、アルジェリアの港であったり、ナポリ湾であったり…と、彼にしてみれば、絵はその時の心境を素直に風景に重ね合わせた日記のようなものだったのかもしれません……。
彼の絵には絵を通して衝撃を与えようとか革新的な手法を編み出したとか…そのような思い上がったところが微塵も感じられないのです。ただ彼は純粋に絵が好きなだけだったのですね。
この「バルコニーからの眺め」も生涯に何度か手がけたテーマでした。もし仮に、この絵を自分の部屋に飾ったとしたら、それはそれは潤いのある素敵な空間づくりを演出してくれることでしょう!……。もちろんそれは無理な話なのですが……!? そう思えるほどこの絵はリズミカルな装飾と構図に優れていますし、練りに練られた温かみのある色彩が穏やかな余韻を届けてくれるのです。
たとえば、手前の扉の濃いダークグリーンや茶褐色の植木鉢や観葉植物、薄紫のバルコニーの床など中間色のセンスあふれる配色は美しく、画面全体に心地よいハーモニーを響かせているのです!
画面中央上部のバルコニーと扉で切り取られた正方形の空間は、柔らかな陽射しに映える風景が心を和ませるのですが、見事な構図と相俟って開放的な希望の拡がりを想像させますね……。そして、バルコニーや室内の落ち着いた温かみのある空間と遠景とのコントラストがとても清々しい空間をつくっているのです。
様々な形や色彩の過度な情報量をできるだけ抑え、感性や情緒に訴えるマルケの構成力や描写力はここでも生きていると言っていいでしょう。