2017年3月13日月曜日

J.S.バッハ  6つのモテット
















声楽曲の主要なジャンルだった
モテット

「モテット」と言っても聞き慣れない言葉に戸惑われる方も多いことでしょう……。そもそもモテットは中世末期からバロック時代にかけて発達した声楽曲の主要なジャンルのひとつでした。ミサ曲以外のポリフォニー(複数の独立した声部で構成されている音楽を指す)を用いた宗教曲は押し並べてモテットと言われていたようです。

しかし、「モテットと言われても堅苦しいイメージしかないな…」とおっしゃる方もおられるのではないでしょうか。それは当然と言えば当然ですね! 確かに宗教曲ですし、どちらかというとドイツプロテスタント系のコラールを用いた音楽が主流ですので、下手をすると厳しく重々しいだけの音楽になってしまう可能性が充分にあるのです。

ここで紹介するバッハの「6つのモテット」も作曲家自身のコラールや受難曲、カンタータの断片を想わせる旋律が所々で使われています。従って、典礼を意識しつつ、音楽や言葉の本質を深く理解し、共感していない場合は悲惨な演奏になりかねません(もっとも、バッハのモテットに共感できない人が演奏や録音すること自体考えにくいことではありますが……)。

しかし、本質をしっかり捉えた演奏に出会いさえすれば、合唱の醍醐味を味わえたり、至福の時間を約束してくれる音楽でもあるのです。


音楽が湧き上がるグラーデン、
聖ヤコブ室内合唱団の演奏

上記のような意味からすれば、モテットらしくないけれど、最もモテットの魅力を引き出したのがグラーデン指揮=聖ヤコブ室内合唱団のライブ録音(Proprius)です。「モテットは堅苦しい」とつぶやいていた方……、これはそのような方にこそ聴いていただきたいアルバムです! 合唱の真髄を踏まえながらも、新鮮で柔軟なアプローチがとても心地よい音楽を作りあげているのです。

何よりも音楽が泉のように溢れ出て、停滞するところがありません。しかも、純度の高いハーモニーや発声の美しさは格別で、音楽に絶えず陰影と豊かさをもたらしているのです。

素晴らしいところをあげればキリがないでしょう。BWV225の弾むような発声、全体を有機的な流れの中で聴かせてしまう構成力!! またBWV159の憂いを帯びた表情、潤いや豊かさを含んだ歌声の味わい深さ……。BWV230での声がぶつかり合うような迫力や立体感、繊細かつ崇高な世界を表出する表現力には目を見張ります。

ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団のライブ録音(SDG)も既成概念にとらわれない、オリジナリティあふれる音楽づくりが魅力です。グラーデン盤より更に個性的な表情が目立ちますが、作品の本質を逸脱していないのはさすがです。
合唱の精緻な響き、ディテールのこだわりが半端でなく、それが至るところで美しい表情を浮かびあがらせることに成功してますね。したがって聖ヤコブ室内合唱団を上回る部分も多々見られます。全体的に磨き抜かれた造型と圧倒的な音楽センスにはただただ舌を巻くばかりです。