2014年7月6日日曜日

アルブレヒト・デューラー 「野うさぎ」











圧倒的な存在感


 ルネサンス期のドイツの巨匠デューラーは聖書の連作や神話をテーマにした絵を描いたスケールの大きい画家ですが、皆さんは彼の代表作といえば真っ先に何を思い浮かべますか?

 私は「アダムとエヴァ」の凛とした表情や「四人の使徒たち」の目ヂカラの強さにも惹かれるのですが、すぐに思い浮かぶのは分かりやすいグワシュと透明水彩で描かれた「野うさぎ」です。
 デッサン力の凄さは言うまでもありません。ひとことで言えばちょっと見ただけで画面に惹きつけられてしまう圧倒的な存在感の凄さと言ってもいいでしょう。デッサンでモチーフからこれだけの存在感を出せる人ってなかなかいません。
 ウサギの柔らかそうな毛並みやピンと立った耳はもちろんのこと、ゴツゴツとした骨格までリアルで違和感がないのですね……。とにかく、この絵からは「狙った獲物は離さない!」的な並々ならないデューラーの気迫が伝わってきます!

 この「野うさぎ」も実は巧みな仕掛けやデフォルメがされています。たとえば、空間を感じさせる構図の素晴らしさ! 絵の右下の方から逆三角形に拡がる構図は今にも動き出しそうなうさぎの様子を効果的に引き出しています。
 また、グワッシュや透明水彩のように性格の真反対の画材を使用しながらも、それを完璧に馴染ませている画力! ひとつひとつの描線に神経を通わせ、細心かつ大胆に描き分けることによって生命力を注ぎ込むことにも成功しているのです。