ラベル シューマン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル シューマン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2017年6月19日月曜日

シューマン 交響曲第3番変ホ長調作品97「ライン」(2)













重厚なロマンの香りと
勇壮な迫力!

ロマン派の大作曲家シューマン。そのシューマンが重厚なロマンの香りを最大限に発揮した交響曲が第3番「ライン」でしょう。

まず驚くのが、何かが吹っ切れたかのように、迷うことなく勇壮に前進する第1楽章の迫力です。何というインパクトと情熱でしょうか!序奏なしで、いきなり開始される堂々とした第1楽章の第1主題からこの曲に惹きつけられてしまいます……。しかもその曲調はシューマンらしい歌にあふれ、美しいロマンチシズムを醸し出していて、片時も聴く者を退屈にさせません。

人によっては重苦しい作品だと評価する方もいらっしゃいますが、私は決してそうは思いません。
むしろシューマンは「ライン」を作曲した時、よほど調子が良かったのではないでしょうか……。印象的な第1主題、第2主題をはじめ、訴える力、発展する要素、高まる情感、すべてにおいて渾然一体となった魅力が充満しているのです!

第2楽章は同じ音型を小刻みに繰り返す主題がゆるやかなラインの流れを想起させます。ここでも第1楽章同様に随所に奏でられるホルンの響きが心のゆとりと風格を伝えてやみません。中間部の管楽器が奏でる淡く悲しい憂いの表情も後ろ髪を引かれるように過ぎ去っていきます……。

第3楽章はもっともシューマンらしいメロディが頻出します。夢と現実を交差するようなロマンチシズムの極みは何とも言えない情感を拡げていきます。
ケルンの大聖堂から着想を得たといわれる第4楽章は厳粛で崇高な響きが鎮魂曲や祈りにも似た全曲のクライマックスと言えるかもしれません。フィナーレの颯爽とした展開や充実した展開部、怒濤の迫力を醸し出す終結部分も見事です。



チェリビダッケと
ジュリーニの名演奏

真っ先におすすめしたい演奏はセルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘンフィル(EMI)の演奏です。「ライン」はロマン的情緒あふれる作品だけに、どちらかというと、いわゆる巨匠風の武骨な表現が相容れない作品でもありました。しかし、この演奏は違います。相変わらずのゆったりとしたテンポなのですが、深い呼吸と細部の彫琢があまりにも見事なためスローテンポが気にならなくなってしまうのです。 演奏の素晴らしさがスタイル云々の問題を超えた数少ない例のひとつではないでしょうか!

雄渾な迫力と持続する集中力も圧倒的で、シューマンの心の動きさえ伝わってくるようです。何度聴いても飽きず、おそらく「ライン」からこれほど深い意味を表出した演奏はなかったのではないかと思います。

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロサンゼルスフィル(ユニバーサル・ミュージック)は万人向けの名演です。旋律は良く歌われ、メリハリが効き、この曲からイメージされるロマン的な特徴をことごとく兼ねそろえた理想的な表現といっていいでしょう。演奏スタイルにしても、テンポや楽器のバランスが絶妙で、管弦楽の立体的な構築や密度の濃さにも特筆すべきものがあります。作品との相性の良さが、これほどまでの名演奏を可能にしたのかもしれません。

2016年7月8日金曜日

シューマン 『森の情景』



















愛のまなざしと詩的な描写

 シューマンといえば、なんといっても歌曲!
 『リーダークライス』、『ミルテの花』、『女の愛と生涯』、『詩人の恋』に代表される麗しい作品の数々は多くの歌手たちの憧れの的です。しかもこの珠玉のような作品群が同じ年に誕生した(1840年は実際に歌曲の年と言われている)というのは本当に驚きですね!
 歌曲の次にあげられるのはやはりピアノ曲でしょう。
 ピアノ曲では『クライスレリアーナ』や『幻想曲』のようにロマンチックなインスピレーションによって創作された作品が多いのですが、『子供の情景』のように子供を見つめる愛のまなざしを詩的に描写した作品も捨てがたい魅力があります。その『子供の情景』と同じような詩的な描写とスタイルで作曲されたのが『森の情景』です。
 ただし、『子供の情景』の幸福感に満ちた情緒とは対照的に、こちらはどちらというと黄昏にたたずむ人の切なさやわびしさのようなものがテーマになっているようです。叙情的ではあるけれども、一抹の寂寥感や幻想的な雰囲気が漂うところもこの曲を独特の色調に染め上げているといっていいでしょう。

多彩で味が濃い
『森の情景』

 私は音楽としては『子供の情景』よりも『森の情景』のほうに惹かれますね! 夢のようなロマン、人生の憂愁や孤独、そして無邪気な心……。テーマや旋律にしても、『子供の情景』よりずっと地味ですが、味が濃く、多彩な変化があって、シューマン独特のポエジーな世界も顔を覗かせながら、人生という尺度の中でショートストーリーのように展開されていくのです!

 特に第4曲の『予言の鳥』は付点のリズムを中心に、半音階のメロディが奏でる独特の音色が幻想的な別世界を想わせ、一度聴いたら忘れられないほどに心に深く刻み込まれることでしょう。かと思えば、『気味の悪い場所』での心の闇を想わせる切迫した心境は何ともやるせない気持ちになります。
 しかし、優しく愛情に満ちたまなざしも随所に現れます。
 一曲目の『森の入口』は見知らぬ世界へと足を踏み入れようとする期待と不安が入り混じった複雑な感覚を優しいまなざしで描いていきます。

 最終曲『別れ』は再出発を想わせる主題が希望の道筋をなだらかに描いていくようです。シューマンはこの短いフレーズで、自分自身の再起への気持ちも込めたかったのでしょうか……。後ろ髪をひかれるように過去への回想や叙情的なロマンが絡まりつつ曲を閉じます。雨上がりのような澄み切ったなつかしい情緒が辺りを照らしていくのがとても印象的です。
 これはシューマンの素直な感性やデリカシーがいっぱいに詰まった音楽絵本と言ってもいいかもしれません。



魅力作にもかかわらず
録音には恵まれず

 シューマンが比較的晩年に作曲した魅力作なのですが、録音にはあまり恵まれていません。
 演奏で最初に感動を受けたのはクリストフ・エッシェンバッハ盤(グラモフォン)でした。とにかく一音一音に表情が変化するデリケートな音色と感性の深さにはため息が出ますし、タッチのみずみずしさに魅了されます。エッシェンバッハはシューマンの伝えたかったロマンチシズムをそのごとく伝えきった詩人なのかもしれません。
 しかし、ご紹介したセットCDではどういうわけか4曲のみの抜粋盤になっています。もちろん音楽としては決定的に物足りないし、残念な状況なのですが、とりあえず貴重な記録として(何とか再販してほしいですね……)とりあげたいと思います。

 シプリアン・カツァリス(テルデック)はすべてにおいてクリアーなタッチと明確な表現が特徴で、シューマンの幻想的なムードやロマンチシズムを味わいたいという人には向かないかもしれません。でも、多くの名盤が廃盤の状況の中で、こんなにストレートな表現にもかかわらず、曲の魅力を自然に伝える技量と音楽性はやはり大したものです。





2014年4月8日火曜日

シューマン 交響曲第2番ハ長調作品61









なぜか人気薄の交響曲

 シューマンは全部で4つの交響曲を作曲しましたが、1番の「春」や3番の「ライン」はテーマがはっきりしていて、主題も馴染みやすく愛されている作品です。4番も前記2曲ほどではありませんが、情熱的な雰囲気が魅力だと言われ、コンサートではたびたび採り上げられる作品ですよね。

 しかし、なぜか2番だけはコンサートのプログラムに組まれることも稀ですし、人気があまりありません。人によっては「シューマンが精神を病んだ痕跡が見られる痛々しい作品だ」と断言してしまう始末です……。
 しかし、この作品をよく味わって聴いてみると、実は大変に充実した傑作だということが分かります。しかもシューマンの内なる声が最も的確に表現された交響曲と言っていいでしょう。

 特に第3楽章アダージョは深い憂愁を帯びていて、その切なさは心に深く刻まれます。ぽっかり空いた心の空白を埋めることができないまま、冷たい冬の荒野を彷徨い歩くような雰囲気を醸し出していくのです。主題や経過句を奏でるオーボエやホルンの音色が何と痛切に胸に響くことでしょうか……。

 第2楽章スケルツォも不安を掻き立てるような同一のリズムやフレーズが連続しますが、これこそがシューマンの心の叫びであり、偽らざる心境だったのではないでしょうか! 中間部で春の穏やかな光を想わせるメロディが現れ、この個性的な音楽に彩りや変化を与えているのです。

 第4楽章では第2楽章の焦燥感や第3楽章の憂愁を振り払うように、ゆったりとした足どりでスケール雄大な音楽が展開していきます。音楽が進むにつれ、様々なエピソードが多彩な表情の中に映し出されますが、終結部ではそれらをすべて呑みこむように、勝利の凱歌をあげて堂々と進んでいくのです!




カザルスの気迫がこもった名演奏

 この交響曲は明確な主題や音楽の展開が無いため、指揮者泣かせの曲と言えるかも知れません。特に第1楽章は主題の特徴が弱く、どのように曲をアプローチしていくのか苦心するところなのでしょう。

 録音自体は決して少なくありませんが、名演奏となればたった1枚しかあげることができません。
 それはカザルスがマールボロ音楽祭管弦楽団を振ったライブ演奏(SONY)です。1970年7月の録音ですから、この時カザルス93歳!  信じられないようなオケの統率力と音色のみずみずしさ!  カザルスのこの生き生きとした演奏や若々しいエネルギーは一体どこから出てくるのでしょうか?

 シューマンの2番の演奏でありがちな、どこに向かっていくのかわからないという散漫な表現が一切なく、すべてのパートにカザルスの強い意志と気迫が注がれているのがよく分かります。
 精神的にも芸術的にも深く、また極めて完成度の高い演奏と言えるでしょう。

 第3楽章の憂愁に満ちた響きは、もはや神技と言っていいのではないでしょうか。カザルスは感情移入を込めながら音楽の意味を少しずつ掘り出していくのですが、音楽から伝わってくる人生の悲哀はあまりにも痛切で深いのです。
 第1楽章での全体の方向性をはっきりと定めた有機的な響きと展開も見事の一言ですし、激烈な響きで一貫した魂の祭典のような第2楽章も「凄い!」と唸るしかありません。
そして第4楽章のさまざまなエピソードを拾い集めながら、次第に勝利の凱歌を上げていくところの集中力や気迫は凄く、音楽は稀有の生命力に沸き立って終結するのです。






2012年12月3日月曜日

シューマン 交響曲第1番変ロ長調作品38「春」





 人生で最も幸福な時期に書かれた作品が不朽の名作を生み出すということは昔からよく言われていることです。やはり希望や喜びの想いが創造のエネルギーを奮い立たせる力となるからなのでしょうか? 
 ロマン派の大家、ロベルト・シューマンの交響曲第1番「春」の場合もそれに当てはまると考えていいでしょう。特に1840年は彼にとって歌の年と言われるように、『詩人の恋』、『リーダークライス』、『女の愛と生涯』と続々と歌曲の名曲を生み出したのです。この年はクララ・ヴィークと結婚した年でもあり、公私ともに充実し幸福の絶頂期だったのでした。前記の歌曲集がロマンティズムの昇華と言えるような甘く麗しい作風であることからも、それがよく伝わってきますね!

 そして、その余韻が醒めやらぬ1841年に作曲されたのがシューマンの最初の交響曲第1番「春」なのです。シューマンはロマン派を代表する交響曲の作曲家なのですが、ともすればピアノ曲や歌曲ばかりに目が向けられやすい傾向があります。「シューマンの最高の魅力作は歌曲集」と定説のように言われる中で、ある意味仕方のないことなのですが、交響曲作曲家としての力量も相当なものであったことは間違いありません。

 シューマンの交響曲第1番「春」はきりりとした古典派の体裁を持っています。その古典的なスタイルに清涼なロマンティズムが色濃く流れ、独特のオリジナリティを醸し出しているのです。この作品は「春」とタイトルがあるように、早春のロマンの香り漂う情緒がとても印象的です。
 ドイツ的な剛毅さや前進する迫力を持つ作品ですが、それよりも明るい楽器の響きや色彩豊かなハーモニーがワクワクするような楽しさを伝えてくれるでしょう。

 金管楽器のファンファーレで開始される第1楽章の序奏部分は大きなうねりを伴いながらどんどん発展していきます。そして音楽のピークで現れる第1主題は強いエネルギーを放射するリズムの祭典のようです! そこから響き渡る楽器の音色はさまざまな春の風物詩を表出しているかのようにも思えます。

 第2楽章の響きは薄明かりの春の日の余韻を思い起こさせ、ぐっと心に残ります。第3楽章や第4楽章の希望にあふれたエネルギーは次々と主題の装いを変え発展しながら歓喜のフィナーレを迎えます!
 この作品の最大の魅力はスケールが大きく立派な造型を誇っているにもかかわらず、決して深刻になったり難しさが無いところでしょう。終始滞ることなくグイグイと前進する爽やかなエネルギーに溢れていることが大きな魅力なのだと思います。

 おすすめのCDは格調高くロマン派的な情緒を表出する指揮をしたら右に出る者がないクレンペラー盤(EMI)が最高です! この演奏はもしかしたら彼がフィルハーモ二ア管弦楽団を振った演奏の中でも屈指の名演奏かもしれません。第1楽章の微塵も薄っぺらなところがない立体感と深さを併せ持った迫力! 第4楽章の輪郭をくっきりとさせつつ一切表面的にならない凄み! まさに有無をも言わせない素晴らしい演奏を繰り広げています。





2011年8月22日月曜日

ロベルト・シューマン オラトリオ「楽園とペリ」作品50






 シューマンは交響曲のような大作よりも、歌曲やピアノソナタのような小曲の作曲に光る才能を持った作曲家でした。ではすべてにおいて大作は苦手だったのかというと、決してそういうわけではありません。交響曲も堂々の4曲を作曲しておりますし、それぞれに魅力に富んだ傑作であることに間違いはありません。

 ただシューマンの場合、ベートーヴェンのように抽象的な楽想や主題に深い意味を持たせることは決して得意ではなかったようです。どちらかと言えば、感性的かつメロディライン重視の作曲法で、典型的なロマン派の作曲家だったのです。そういうこともあり、交響曲以外の大作はあまり耳にすることができません。

 しかし、ここで紹介するオラトリオ「楽園とペリ」はシューマンが作曲人生の全精力を注ぎ込んだといってもいいほどの不朽の傑作であり、力作です。シューマンはこの作品にかなりの自信を持っていたらしく、実際に初演もかなりの反響を呼び大成功だったようです。曲調はバッハやシュッツのオラトリオのように禁欲的な宗教的情緒をベースにしたものではなく、ヘンデルやハイドンのオラトリオのような人間感情を生き生きと表現しながら、ドラマティックに盛り上げていくスタイルにやや近い感じがします。

 内容は罪を犯し楽園を追放された妖精ペリが、さまざまな試練を乗り越えて再び楽園に戻る物語です。これは旧約聖書の創世記でアダムとエヴァが神に反逆し、楽園を追われるという内容がそっくりあてはまります。けれども「楽園とペリ」では追放された悲しみと失意で終わるのではなく、また慕わしい楽園に帰るという結末が待っているのです。これは神の愛の深さを表しており、また放蕩息子のたとえにも似た感動的な話です!

  作品は合唱や管弦楽のテクニック的な難しさや、全体を有機的なつながりを持って演奏することの難しさもあって、現在はそれほど演奏されません。日本においては、この作品自体あまり認知されてこなかったのではないでしょうか? 聴きどころは沢山ありますが、特に素晴らしいのは第1部です。「天の心を満たすその贈り物はどこで見つけよう?」と途方に暮れ、もがき苦しむシーンの密度の濃さは尋常ではありません。合唱と金管楽器がからみながら、緊張感を持続させつつ最高のバランスで曲を盛り上げるフーガは迫力満点です。また、この部分はほとばしるような情熱が渦巻き、次々と人物像や意思の力が雄弁に描かれていきます。

 全体は3部構成で約2時間弱の作品ですが、長くは感じられません!合唱やオラトリオ好きの人は、是非一度聴いてみられることをお勧めしたいと思います。決して難解な曲ではないし、合唱の持つ幅広い表現力を感じられるでしょうし、オラトリオの入門曲としてもその魅力を随所に発見できる格好の曲かもしれません。

 この作品には素晴らしいCDがあります。シノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデンおよびドレスデン国立歌劇場合唱団による1993年の録音です。オーケストラのしなやかで潤いのある響き、曇りがなくクリアなサウンドはそれだけでもこの作品を充分に楽しませてくれます!合唱も気迫がみなぎり、素晴らしいハーモニーが最後まで途切れることがありません。また、フォークナー、マーフィーらソプラノを始めとする歌手の声量と表現力の完成度の高さに驚かされます!そして何よりもシノーポリの統率力の高さと表現力に舌を巻くことでしょう!

 このCDは現在タワーレコード・ヴィンテージコレクションブリリアントレーベルから2種類出ています。どちらもコストパフォーマンスに大変優れていますが、日本語訳を見たいのであれば、タワーレコード盤に限ります。




人気ブログランキングへ

2010年8月26日木曜日

シューマン 交響曲第3番変ホ長調作品97「ライン」







びっくりするような情感を描き出す、感性のフィルター

 シューマンは歌曲やピアノ曲に驚くべき才能を発揮した人です。たとえば、「ミルテの花」の美しく気品に溢れたメロディ……。「女の愛と生涯」の繊細で情感豊かなメロディ……。クライスレリアーナの流れるような旋律。
 彼は甘く切ない抒情や夢見るようなロマンを旋律として書き得た稀有な作曲家だったのだろうと思います。シューマンは最高の作曲技術と手垢にまみれていない正統的なクラシカルな作品を描き出す才能を持っていた人なんだろうと思います。

 たとえば、有名な「子供の情景」。この作品はピアノソナタには内面的な意味がなければ価値が薄いという評論家筋からはあまり評価されていないようですね。けれども、子供から受けたイマジネーションを内面的にどうのこうのというより、等身大でみずみずしく表現するシューマンの姿勢にはとても好感が持てるのです。しかも、時にはびっくりするような自分の内面を見つめる詩的な情感も描き出し、その感性のフィルターは実に敏感で多様なのです。
   当然、大掛かりな交響曲や協奏曲よりも小編成の作品に傑作が多いのはうなずけるところです。いわゆる長編小説向きというよりは一瞬のきらめきを捉えた詩人といってもいいのかもしれません。

 とはいっても、彼の交響曲の魅力も大変なもので、特に3番のラインはロマンティシズムと正統的なクラシックの伝統が融合された素晴らしい作品と言ってもいいと思います。
 第1楽章の堂々として勇壮な開始は少しベートーヴェンの英唯に近いものを感じます。この有名な冒頭部分が奏された直後、今度は感情を目一杯に吐露した主題が奏されるのですが、ここでは回想を巡らせ、感傷に浸る情景が延々と展開されていきます。まさにシューマンらしい理想と愛に満ちた曲調ではないでしょうか。第4楽章の荘厳で訴えかけるような旋律も一度聴いたら忘れられませんし、第5楽章の朗らかに着実に大地を踏みしめるような主題も魅力いっぱいです。

 演奏は1982年にカルロ・マリア・ジュリーニがロサンゼルスフィルと組み録音したグラモフォン版が格別の名演奏です。まず、出だしの主題から金管楽器、木管楽器、弦楽器ともにバランスが絶妙で、それでいながら立体的な構築にも欠けていません。どこまでも充実感満点でこの素晴らしい旋律を心ゆくまで味わうことができます。全楽章を通じて少しも薄味の所がなく、この曲との相性の良さに本当に驚かされます。シューマン交響曲第3番「ライン」の作品に隠された魅力をものの見事に表出した演奏といってもいいかもしれません。





人気ブログランキングへ