2014年2月20日木曜日

ブリューゲル 「雪中の狩人」











ストーリー性のある風景画

自然に触れると「心が癒される」という方は多いでしょう。また、美しい風景画を見て癒されるという方も決して少なくないと思います。
でも個性的で様々な仕掛けが施してある風景画を見て癒されるという方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか……。同じ風景を描いたとしても、描く人の個性やポリシーによってまったく違う作品に仕上がるのが絵の面白いところでしょう。

「雪中の狩人」はブリューゲルの晩年の作品ですが、ご覧いただければわかるように決して心が癒される類の絵ではありません。ブリューゲルといえば、聖書の格言を絵にした有名な「バベルの塔」が思い出されます。そこでの気が遠くなるような丹念な描写や迫り来るような存在感は、一度見ると忘れられない強烈な印象を受けたものでした。



とてつもない情報量。
驚きと発見の連続!

「雪中の狩人」は中学の美術の教科書に載っていた気になる絵のひとつでした。とにかく、名画がひしめく教科書の中でも独特の存在感で際立っており、その残像が心の中に強く残っていた覚えがあります。

この絵で驚くのが、とてつもない情報量の多さです。確かな描写力や表現力、ディテールのこだわりが半端ではなく、何時間眺めても飽きることがありません! どこまでこの風景が続くのだろう……と思わせる構図の見事さや拡がりも素晴らしいのですが、多種多様なメッセージ性に満ちていてどの部分を見ても驚きと発見があるのです。

たとえば、狩りで思うような収穫が得られなかったのか、がっくりと肩を落として歩く手前の狩人たちの姿とそれに追従する犬たちの様子を見るだけでも、この絵に引き込まれてしまいます。しかし、遠くに目を移すと凍った池の上でスケートやそりすべりをして楽しむ村の子どもたちが見受けられるのです。人生の不条理を1枚の絵の中で絶妙な対比を加えながら、破綻なく見せているところにブリューゲルの表現力の凄さを感じます。

この絵から伝わってくるのは、そこに住む人々の生活感や喜怒哀楽なのですが、それさえも雄大な自然の前では無力でしかないという趣があります。「もしかしたら人生で体験する様々な喜怒哀楽は、私たちが考えているほど大したことではなく、ほんの些細な事なのかもしれない……」と思えてくるから不思議です。寒々しくはあるけれども、神秘的で深みがある落ち着いた空の色や雪、山々の深遠な姿はとても印象的ですし、微動だにしない存在感を放つ手前の木々や奥行きのある風景がこの絵をますます魅力的にしています。