2013年1月24日木曜日

バレエ組曲「くるみ割り人形」






  一般的にクラシック音楽は他の音楽ジャンルに比べて高級だとか、敷居が高いと思われることが多いようです。でも、実際はどうでしょうか? 確かに他のジャンルに比べれば決して親しみやすいとは言えませんし、長くて難解な曲も結構あります。

  でも、音楽の表現の領域や可能性が広いのもクラシック音楽の魅力です。たとえばグレゴリオ聖歌やミサ曲のように静謐で心が洗われる音楽こそ音楽の原点だと思われる方もいれば、マーラーやショスタコーヴィチのように劇的で骨太な交響曲こそクラシックの醍醐味だと力説される方もいらっしゃいます。そうかと思えば、ドビュッシーやラヴェルのようにかっちりしていない詩情豊かな作品がいいという方もいらっしゃいます。
  またシューマンやメンデルスゾーンのようなロマンティックで気品に満ちた作品が好きだという方もいらっしゃるでしょう。その一方でヴェルディやワーグナー、プッチーニのオペラのような圧倒的な声の饗宴こそクラシックの王道だとおっしゃる方の気持ちもよくわかります……。

  すっかり前置きが長くなってしまいましたが、要するにクラシックはとっつきやすい作品やカテゴリーから入っていけばいいのであって、「教養や知識のために聴こう」となるととても無理が出てきてしまいます。結局は「嫌になったから聴くのをやめた」ということになりかねません。
 どなたにもそれぞれ個性や好みがありますから、「ショパンのピアノ曲は好きだけれど、モーツァルトのピアノソナタはちょっと…」とか、「プッチーニのオペラは好きだけれど、ベートーヴェンの交響曲は苦手だなあ…」とか、そういう声が出てきて当然でしょう。でも、それでいいんだと思います。クラシック音楽とは無理に背伸びをせず、ちょっとした些細なことから関心や興味を拡げていくのが面白いのではないでしょうか……。

  そのような観点で言えば、チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」はクラシック音楽への入り口としてはうってつけの作品ではないかと思います。何より映画音楽を聴くような気軽さで聴け、しかも全体的に高級感が漂うのがうれしいですよね! チャイコフスキーはバレエ音楽の作曲家としての腕前と品格、華麗な作風、雰囲気、聴きやすさ等、どれをとってもそれに必要な条件を満たしているのです!

いや、それ以上に現代バレエはチャイコフスキーの甘美なメロディを駆使した作品の出現によって聴衆に受け入れられるようになったと言っても過言ではありません。特に「くるみ割り人形」の親しみやすさやストーリーテラー的な音楽の愉しさは抜群です! ファンタジックでメルヘンに富んだメロディの数々は屈託が無く、チャイコフスキーの舞台音楽家としての感性が最高に発揮された名品と言っていいでしょう!

 この「くるみ割り人形」組曲はバレエ音楽の全曲から聴きどころを抜粋した、いわばハイライト版と言っていいと思います。 序曲の可愛らしいテーマがヴァイオリンで鳴り始めると、何故か胸がワクワクしてきますね! そして有名な「行進曲」や「花のワルツ」ではさらに楽器がキラキラと光り輝くように奏され、いつのまにか夢にあふれた「くるみ割り人形」の世界に引き込まれていくのです。

 この曲は人気曲だけあって実に多くのCDがあります。その中で1枚だけとるとすれば、ハインツ・レーグナーがベルリン放送交響楽団を指揮した演奏が雰囲気、録音、すべてにおいてバランスがとれた名演奏といっていいでしょう。レーグーナーの導き出す弦の響きは高級感があって艶があります。安心して曲に浸ることができますし、くるみ割り人形の隠れた魅力を発見できるかもしれません……。