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2017年4月6日木曜日

アルベール・マルケ 「ポン=ヌフとサマリテーヌ」








豊かな感性と
卓越した造形センス

マルケという人はちょっと見ただけだと何でもないような絵を描いてるようにしか見えないのですが、実は凄い絵を描いているということが見れば見るほど伝わってきます。

何がどんなふうに凄いのかというと、それは人並み外れた感性の豊かさと繊細さがあげられるでしょうし、それを形や色としてあたりまえのように抽出する造形センスや情報量の多さがあげられるでしょう…。

その情報量の種類は写真とは異質の世界ですし、写真からは絶対に得られない世界といっていいかもしれません……。またそこにこそマルケの絵の大きな存在価値があると言ってもいいでしょう。

たとえば今回ご紹介する「ポン=ヌフとサマリテーヌ」では、モチーフとなったパリの街並みの空気感や騒然とした雰囲気が醸し出されることはもちろん、画家の目に映った風景や絶えず呼吸する街並みのようすが生き生きと伝わってくるではありませんか…。

この絵ではマルケの持ち味であるグレートーンの色調がとても美しく、冬の寒々とした風景を魅力的に描き出しています。

なるほど画面全体に冬空の寒さが拡がっているように感じますし、雨混じりの雪が路面を濡らし、帰路を急ぐ人々の様子が次第に浮かび上がってきます……。
単純化したタッチなのですが、日常的な光景の中に強い共感と関心を寄せる画家の眼は鋭く、感性のフィルターが冴え渡っています。決してリアリズムを追究して描いているわけではありませんが、ここには写実を越えた心の記憶や感性に訴える実感があるのです。
 

2014年1月18日土曜日

アルベール・マルケ「バルコニーからの眺め」








 マルケは同じテーマの絵を繰り返し何度も描いた人でした。パリの街並みであったり、アルジェリアの港であったり、ナポリ湾であったり…と、彼にしてみれば、絵はその時の心境を素直に風景に重ね合わせた日記のようなものだったのかもしれません……。
 彼の絵には絵を通して衝撃を与えようとか革新的な手法を編み出したとか…そのような思い上がったところが微塵も感じられないのです。ただ彼は純粋に絵が好きなだけだったのですね。

 この「バルコニーからの眺め」も生涯に何度か手がけたテーマでした。もし仮に、この絵を自分の部屋に飾ったとしたら、それはそれは潤いのある素敵な空間づくりを演出してくれることでしょう!……。もちろんそれは無理な話なのですが……!? そう思えるほどこの絵はリズミカルな装飾と構図に優れていますし、練りに練られた温かみのある色彩が穏やかな余韻を届けてくれるのです。
 たとえば、手前の扉の濃いダークグリーンや茶褐色の植木鉢や観葉植物、薄紫のバルコニーの床など中間色のセンスあふれる配色は美しく、画面全体に心地よいハーモニーを響かせているのです!
 画面中央上部のバルコニーと扉で切り取られた正方形の空間は、柔らかな陽射しに映える風景が心を和ませるのですが、見事な構図と相俟って開放的な希望の拡がりを想像させますね……。そして、バルコニーや室内の落ち着いた温かみのある空間と遠景とのコントラストがとても清々しい空間をつくっているのです。

 様々な形や色彩の過度な情報量をできるだけ抑え、感性や情緒に訴えるマルケの構成力や描写力はここでも生きていると言っていいでしょう。
 




2013年4月13日土曜日

マルケ 「ナポリ湾」






 この人の絵を見るたびに卓越した情景描写の持ち主だなあと感心してしまいます……。絵の描法そのものにはまったく無理がないのですが、細かな空気感、光の柔らかさ、波の穏やかさ、空の厚み等々、口ではなかなか説明できない見たままの感動や写真では伝わらない臨場感が見事に伝わってくるのですね!人間の目や心に伝わる情報量というものをマルケは熟知していたのでしょう。マルケ独特の感性のフィルターを通して取捨選択された線やフォルム、色彩が実に説得力があるし潔いです…。

 この「ナポリ湾」も初期の素晴らしい作品のひとつと言っていいでしょう。1909年にイタリアのナポリを旅したときの連作かと思われるのですが、生き生きとした波のタッチや空や雲の表情、省略された人々の姿がこの光を浴びたナポリ湾の一瞬の情景を静かに感動的に伝えてくるのです。




2012年3月6日火曜日

アルベール・マルケ 「夏のルーブル河岸」


Quai du Louvre, Summer(1906)


 この人の絵を見るといつもホッとします。そして無性にうれしくなってくるんですね!なぜなのかはよくわからないのですが、やはり的確な描写力に裏付けられた詩情豊かな感性が溢れているからなのでしょう。

 マルケは川辺や海岸を愛し、自宅近郊のパリの風景も日常的に描いていたようです。マルケはこのような何の変哲もない慣れ親しんだ光景をとても気にいっていたのでしょう。見慣れた光景ゆえの愛着感もひしひしと伝わってきますし、感動や生への喜びが絵にストレートに表れている感じです。この絵を見続けていると忘れていたものに出会ったようなうれしさと懐かしく愛おしい想いが溢れてきます。

 薄紫やグレーといった中間色の絶妙なハーモニーが素晴らしく、余計な説明を排除したシンプルな形が夕陽を浴びる街並みの美しい表情を引き立たせています。その場の平和でのどかな空気感や柔らかい光が穏やかな色彩によって実に臨場感豊かに表現されていることに驚かされます。
 そして何よりも変に説明的であったり写実的でないのがいいですね。マルケの心のフィルターを通して描かれた世界が不思議なくらい郷愁を奏で絵を魅力的にしているだと思います!いい意味での飾り気のなさとさりげなさがとても洒落た雰囲気を醸し出しているように思います!

 こういう自然で飾らない絵は意外に少ないので、貴重なタイプの画家なのかもしれません。いつか日本でも何らかの形で個展が実現されればいいのですが…。




2010年5月5日水曜日

国立西洋美術館常設展1







 先日、上野の国立西洋美術館に行ってきました。私は学生時代に疲れるとよくここにやってきて絵を眺めながら時間を過ごしたものです。またそれが最高の気分転換になったりしたものでした。
 上野公園内という土地柄か、変に気取らず、わりと自由な雰囲気でありながら、それでいて文化の香りが漂う雰囲気が大好きだったのだと思います。最近は町おこしという名目で、突然美術館や博物館が建設されたりしますが、正直、よそよそしく場にそぐわないことが大半です。もちろん、上野の西洋美術館は何の違和感無く自然に街に溶け込んでいることは言うまでもありません。やはり歴史と伝統のなせる技かなと痛感いたします。 特に常設展の絵は思い出深く、ミレーの「ダフニスとクロエ」やクールベの「波」等はお気に入りで、事あるごとにポストカードを購入したのも懐かしい思い出されます。


前置きが長くなってしまいましたが、今回観て改めて気になった常設展の絵画を改めてご紹介したいと思います。



第1回 マルケ 「レ・サーブル・ドロンヌ」


 アルベール・マルケ(Albert Marquet, 1875~1947)


 一見、「ヘタウマ」に見えるその画風……。これなら私でも簡単に描けそう♪!と思わず感じてしまうほど、とにかく、ラフスケッチをもっと簡単にしたようなタッチとあっさりとした色使いは妙に素人の私たちに安心感と親近感を与えてくれたりします。
 しかし、よく見るとマルケはただ者でないことが次第にわかってきます。まず、さらりと流したようなその画風の味のあること……。この海の絵も波の動きや人物の描写にこだわりを捨て、無駄を一掃した潔さが伝わってきます。結果、出しゃばったり、大袈裟な演出はないものの、この海の絵からさりげない詩情がじわじわとにじんでくるのです。前方に寄せる波からも静かな動きや音が心地よい風を伴って癒しの世界をつくりあげているではありませんか!

 マルケはフォービズム(野獣派)の画家だったという声がありますが、この絵を見ていると流派は何であれ、「絵が良ければ何の問題も無いんじゃないの」と思えてくるから不思議です。