2013年6月27日木曜日

セザンヌ 「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」







深い共感と洞察から生まれた作品

 この絵は画集や雑誌でよく見かける作品です。セザンヌの特徴を実に端的に表した美しい作品だと思います。セザンヌは生まれ故郷エクスプロヴァンスに近いこの山を好んで描いたといいますが、おそらくセザンヌの気持ちを強く突き動かす魅力的な何かがあったのでしょう‥‥。

 とにかくこの絵は意欲的な表現が結集した作品です。山や山の前方から連なる森は大気の流れや樹々が醸し出すエネルギーと渾然一体となり、実に生命力に満ちた独特の表情を映し出しています。
 この独特の表情を見せる絵の大きな力になっているのは幾何学形態を基本にした描法です。同時代の印象派の画家で「自然の中に幾何学形態を発見しよう」と思って描いた人は誰もいないでしょう……。これはセザンヌ独特の描法で、彼の絵をよく見ると様々な幾何学形態を見つけることが出来るのです!

 もちろんセザンヌは面白いことをして驚かせようとか、頭で理屈にあうように描いたのではありません。モチーフに対する素直で深遠な感情が一見奇抜にも思える手法を他には得難い特別なものにしているのでしょう。この山は単なる風景画ではなく、セザンヌの深い共感と洞察から生まれた作品なのです。見るたびにさまざまな表情を伝えてくれる味わい深い逸品ですね。

 幾何学形態を一つの面として捉えたセザンヌの表現は絵画の発想や価値観を大きく変貌させていくのですが、20世紀にはピカソを始めとするキュビズムの画家たちによってこの特徴は徹底されていきます。



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