これは本当によく出来た作品ですね。モーツァルトにしてはかなりナイーブな曲調で叙情的なメロディを多分に持った作品と言っていいかもしれません。そのため、「モーツァルトらしくない」とか「どうも気が重くなる」と仰る方もいらっしゃるようです……。
しかしヴァイオリンとヴィオラがお互いに言葉を交わすように、ある時は互いの楽器の音色を補ない相乗効果を出したり、ある時は寄り添うような芳醇なロマンの詩であったり……、まさに楽器の持ち味を知り尽くしたモーツァルトならでの名曲と言えるでしょう。
特に第二楽章の悲しみを堪えた切々とした響きはヴァイオリンとヴィオラの組み合わせだからこそ出し得た名旋律ですね!
第一楽章冒頭で軽やかな管弦楽の響きに、ささやくようなヴァイオリンとヴィオラの響きが絡むと既にそこには柔らかな光や風が満ち溢れているではありませんか!曲が進むと色調や装いを少しずつ変えながら内省的になったり、光と影のコントラストを表出しながら曲は次第に深化していくのです。
それが更に徹底されたのが第二楽章アンダンテでしょう!前述のようにヴァイオリンとヴィオラはモーツァルトには珍しくロマンティックな響きと言ってもいいくらい哀愁と憂いに満ちたメロディを奏でています。それは心にぽっかり空いた穴を埋めることができないまま悲しみに打ちひしがれるモーツァルトの姿のようでもあるし、崇高なエレジーのようでもあるのです。ここではモーツァルトは詩人のようにあらゆるものにきめ細やかな感情移入をしながら豊かなニュアンスの花を咲かせているのです。
第三楽章プレストは前楽章の沈鬱な雰囲気を振り払うような明るく軽快なリズムに支えられた楽章です!前の二つの楽章に比べるとあまりにもあっさりしているのでは……と思う方がいらっしゃっても決して不思議ではありません。しかし決して軽い音楽なのではありません。いい意味で吹っ切れているのです。希望を捨てず、あるがままの自分を受け入れようとするモーツァルトの確固とした意思の力があらゆるフレーズに漲っているのです。
しかしその表現に何の違和感もないどころか、新しい発見や魅力をもたらす結果となり、さらには新しいモーツァルト像を鮮明に打ち出しているところが素晴らしいですね!クレーメル、カシュカシャンのソロももちろん素晴らしいし、アーノンクールの指揮もよそよそしいところがなく最高のエンターテイメントを成し遂げているのです。