多くの歌手たちが
カバーする永遠の
スタンダードナンバー
「Fly me to the moon」は不思議な魅力を持った曲です。1954年にアメリカの作曲家バート・ハワードによって作られたジャズのスタンダードナンバーですが、歌詞も曲も気が利いているし、抜群の雰囲気と創造性にあふれているために様々なジャンルの音楽やアレンジに対応できるし、現在も盛んに歌われています。
多くのアーティストがアルバムのカバー曲として挿入していることからも、いかにこの曲が支持され愛されているかを物語っていますね……。
しかし、「月へ連れて行って」という意味を持つこの曲を歌手がどのように理解し受けとめるかによって曲のイメージはガラリと変わってきます。
フランク・シナトラ、ジョニー・マティス、ジュリー・ロンドン……とあげればキリがないほど錚々たる顔ぶれが出てきますが、驚くほど解釈や歌い方が違います。それが名曲と言われるゆえんなのかもしれませんが……。
私が何度も聴きたいと思った録音は一つしかありません。1960年代に収録されたトニー・ベネットのものがそれです。
トニー・ベネットは1960年代に「霧のサンフランシスコ」や「Who Can I turn to」 等のムーディーな歌声で魅了してくれた大歌手ですが、彼は80歳をとうに超えた今も第一線で活躍するエンターティナーです。
憂いの想いが伝わる
バラード調のベネット
さて、ベネットの「Fly me to the moon」ですが、これがやはり想像を絶する出来映えです。おそらく私が記憶する限り、最も心に深い余韻を残す歌であることは間違いありません。
何よりバックのピアノやサックス、ストリングスとの絡みがベネットの歌とよくマッチしていて、ムードを盛り上げます。特にピアノをバックに口ずさむように歌う前奏の部分が、大人の心のゆとりを感じさせてセンス満点ですね!
スローテンポのバラード調で歌い始めるのですが、少し哀愁を含んだ陰影のある声のトーンに魅了されてしまいます。ひとことひとことに強い主張があり、声に癖や歪みがないだけに、曲のテーマとする憂いの想いがストレートに伝わってくるのです。