2017年12月26日火曜日

デュリュフレ 「グレゴリオ聖歌による4つのモテット」









心洗われる静かな祈りや
透明なハーモニー

ブログの更新がしばらく途絶えてしまいました…。

昨日はクリスマス。

そこで、今回はクリスマスにふさわしい音楽をご紹介したいと思います。それは20世紀のフランスの作曲家、モーリス・デュリュフレの『グレゴリオ聖歌による4つのモテット』です。

デュリュフレはオルガン作品をはじめとする声楽作品や宗教音楽を書いた作曲家で、作品数こそ多くはありませんが、その音楽は真摯な祈りや清新な味わいに満ちています。デュリュフレといえば、現在では何といっても『レクイエム』ですが、この作曲家を知るという意味では『4つのモテット』のほうがむしろ親しみやすく、入りやすいかもしれません。

タイトルどおり、全体は4曲で構成されていて、通して聴いてもせいぜい7~8分くらいの短い作品です。しかもグレゴリオ聖歌をテーマにするくらいですからドラマチックな激しさや高揚感はありません。その代わり心洗われる静かな祈りや透明なハーモニーが音楽全体に充満しているのです。

前奏なしで始まる第一曲の『いつくしみと愛のあるところ』は穏やかで、まさに慈愛に満ちた合唱の美しいハーモニーが静かに広がっていきます。
第二曲の『すべてに美しく』は女性パートが中心で、第三曲の『あなたはペテロである』は力強く、決然とした表情が印象的です。
第四曲の『かくも寛大な』は喜びや哀しみの感情が珠玉のように溶け合いながら、様々な表情を照らし出しつつ消え入るように曲を閉じていきます……。

どれもこれも、クリスタルのような透明な響きが魅力的で、時の流れを忘れさせる豊かなハーモニーに魅了されることでしょう。


演奏はゲイリー・グラーデン指揮、聖ヤコブ室内合唱団(BIS)が高い完成度と美しい響きで作品の魅力を心ゆくまで堪能させてくれます。

先ほど述べた透明感のある美しいハーモニーを、これほど実感させてくれる演奏は他にはないでしょう。心洗われるとは、このような演奏を指して言うべきなのかもしれません。

2017年12月12日火曜日

『ロダン~カミーユと永遠のアトリエ』










ロダンの人間としての弱さと
赤裸々な人間感情

先日、渋谷Bunkamura・ルシネマで『ロダン~カミーユと永遠のアトリエ』という映画を観てきましたので、簡単にその印象を綴っていこうと思います。

ジャック・ドワイヨン監督はこの作品で、彫刻家ロダンその人の内面の葛藤や歴史に埋もれた真実を浮き彫りにしようとしたのでしょうか……。『考える人』や『カレーの市民』、『地獄の門』といった日本でも有名な芸術家の輝かしい記録のドラマなのかと思って見ると、大いに肩透かしを食うかもしれません。
それほどこの映画はロダンの人間としての弱さと赤裸々な人間感情を吐露した映画なのです。

反面、なるほど……という名言も随所に散りばめられています。たとえば、「創作物は自らの生命のすべてを吹き込んだものであり、完成した作品は自分の分身、はたまた実の子か、それ以上の存在だということ」。ちょっとだけ聞くと綺麗事を言ってると思われるかもしれませんが、しかしこれが偽らざる芸術家の心境であり本分なのでしょう。

でも芸術家という職業はつくづく孤独な職業だな…と思いますね…。印象的だったのが、ロダン、モネ、セザンヌとフランス画壇の巨匠たちが顔合わせをした時に、ロダンが当時まだ売れていなかったセザンヌに向かって『諦めちゃいけない。創作に注いだ過程が尊いんだから』との内容で励ますシーンがあります。セザンヌにとって誤解を受け続けながらも、自力で名声を勝ち取ったロダンから薫陶を受けることは何よりの励ましになったのでしょう。

一度作品の魅力を理解してもらえれば、多くの人々の賞賛を受け、注目の的となリますが、世の人々の共通の認識から外れた作品を発表すれば、たちまち社会悪のように偏見の目を向けられ、罵声を浴びせかけられることがしばしばです。
つまり、名だたる巨匠でも精魂注いで出来上がった作品が吉と出るか凶と出るかは誰も予知出来ないし、知る由もありません。ロダンの場合、これに相当するのがフランス文芸家協会から依頼されたバルザック像なのでした。



バルザック像の制作がもたらした
大きな転機と負の連鎖

かなりの自信を持って制作した彫像だったのですが、予想に反して批評家たちの散々な非難を浴びてしまいます。そして皮肉にも何種類か作ったバルザック像は、いずれも彼の創作スタイルからして、明らかに時代を先取りした前衛的で意欲的な作品ばかりだったのです。

意外なのはロダンともあろう人が、この事を契機にすっかり意気消沈してしまうことです。もっと反骨精神があっても……と思ったりするのですが、芸術家として、あるいは人間としての素直な問いかけやポリシーを傷つけられた代償は想像以上に大きく、何とも言えない挫折感や虚脱感が彼の心身を蝕むようになるのです。

負の連鎖なのか、この頃から愛人のカミーユとの関係や妻との関係もギクシャクするようになり、仕事の面でもさまざまな支障をきたすようになります。一度ねじれてしまった心の歪みは大きな傷となって、私生活にも大きな影を落としていくことなのでしょうか……。

どちらかというと一般的な鑑賞者側の立場と言うよりも作り手側の視点に立った映画なのでしょう。とにかく、一度モノ作りに没頭したことがある人なら、この微妙な心境は少なからず理解できるかもしれません。

全体的にはバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタをバックに、意味深なナレーションをプロローグやポイントに挿入するのは雰囲気があって大変いいと思います。しかし、それがストーリーを展開する上で効果を発揮しているかというと、決してそうでもない感じだし、複雑な人間関係の描写が意外に淡泊なのも、どうも心に響いてこない一因になっているように思います。

もう少し視点を絞って、シンプルな作りにしたら、受けとめ方はかなり変わったかもしれません。それがちょっと残念ですね……。但し、芸術家の心の孤独や苦悩を大きく掘り下げようとした試みは大いに評価できますし、これを踏み台に新たな人物像に光を当てるのもいいのかもしれません。


2017年12月6日水曜日

ドラクロワ 『ウジェーヌ・ドラクロワの肖像』










ピカイチの肖像画



以前このブログで書いたことがありますが、『フレデリック・ショパンの肖像』を見てもわかるように、この人が描く肖像画は秀逸です。
いや、秀逸という以上にピカイチと言ってもいいでしょう。 何より一度見たら脳裏に深く刻まれるような圧倒的な存在感は凄いの一言です。

この自画像は鋭い眼力と生気に溢れた表情が人としての強烈なバイタリティを醸し出しているようです。 確かにこれは容貌を含めて、ドラクロワ自身の理想の姿を映し出しているのかもしれません。しかし、絵に描かれた表情が偽らざる姿、内面の現れであるとするならば、ドラクロワは相当に自信家で、高い理想を持ち、激しい気性の持ち主だったのであろうということが見てとれます。

もしかしたら、当時の画家が描く自画像というものは、現在のSNSやブログで用いるプロフィール写真のように、自分自身をアピールする手段として使われていたのかもしれませんね……。そう考えると、ドラクロワの肖像画は多方面でドラクロワ自身に成り代わり、人を惹きつけ、信用させる等、絶大な効果を発揮したのではないでしょうか…。

とにかく、今にも話しかけてきそうな生き生きとした雄弁な表情には目を見張ります! それを支える卓越した描写力。スピード感のあるタッチ。動きや奥行きを感じさせる空間処理がますますこの絵の価値を高いものにしているのです。

2017年11月28日火曜日

ロジャース&ハマースタイン 『回転木馬』














ロジャース&ハマースタインが
最も愛した作品

今回はロジャース&ハマースタインのミュージカル第三回目として、『回転木馬』をとりあげます。

ロジャース&ハマースタインは『南太平洋』、『王様と私』、『サウンド・オブ・ミュージック』等、誰もが知るミュージカルの名作を作りあげた黄金コンビとして有名ですが、その彼らが最も愛した作品が実は1945年初演の『回転木馬』なのでした。
1956年にゴードン・マクレーを主役に配して映画化もされていますが、残念ながら原作と音楽の良さを生かしきれているとはいえません。日本でもたびたび舞台上演されていますが、正直なところ評判になったというのをあまり聞いたことがないですね……。

この作品についてはどうしても内容に触れずには話が進められないので、あらすじを紹介しておきます。
19世紀末の海岸沿いの村、遊園地の回転木馬で呼び込みをしていた青年ビリーは、客としてやってきた純真な娘ジュリーの心をわしづかみにして結婚します。しばらく幸福な時間が流れていきますが、ジュリーの妊娠に気がついたとき、ビリーは失職してしまいます。家族があたりまえの生活を送れるよう願うあまり、ビリーはチンピラ・グループの誘惑に乗り強盗を企てますが、あえなく失敗。逮捕され刑務所に収監されるとき、ビリーは自ら生命を絶ち霊界へと旅立ってしまいます。

しばらくして、霊界でビリーは一日だけ村に戻ることが許されますが、そのとき地上ではすでに15年もの歳月が流れていたのでした。初めて見る娘のルイーズは孤独な思春期を迎えており、父親が強盗だったということで周囲からいじめを受け、冷たい視線を浴びせられていたのでした。
ビリーは何とか娘を励まそうと、ルイーズに特別な贈り物を渡そうとしますが、警戒されてままなりません。ルイーズが出来事をジュリーに話すと、それはビリーが私たちに会いに来てくれたのだと感慨深く受けとめるのでした。
その後ルイーズの卒業式で、なごやかに友だちと接し、それを優しく見つめるジュリーの姿を見ながら、ビリーは安心して霊界へと戻っていくのでした…。


人間の愛の尊さを謳う
ミュージカル

この作品は歌って踊る躍動的なミュージカルのイメージからしたら、動きの要素も少ないし、ストーリーは前述のように深刻で、そういう意味ではちょっと異質な作品かもしれません。

しかし、『回転木馬』は脚本にしても音楽にしても、ひときわ人間の愛の尊さを謳い、叙情的でロマンチックな味わいを持ったミュージカル作品です。音楽の間にセリフが巧みに挿入されていたり、セリフのやりとりのバックには場面を盛り上げる美しい音楽の煌めきがあったり、音楽を聴くだけでファンタジックな情景が浮かびあがってくるようです。

何よりも劇中のそれぞれの音楽やセリフには強い説得力と普遍的な美しさがあります。
『ミスタースノー』のみずみずしい憧れ。 音楽とセリフが美しい叙情詩のように展開される『もしもあなたを愛したならば』。 ジュリーが歌う『子供たちが眠っているとき』の甘く優しい音楽……、慰めと切々たる愁いに満ちた音楽の調べにもしばし心を奪われます。
また、感情の高揚と揺らぎを絶妙に描くビリーの『独り言』。 悲嘆にくれるジュリーを慰める場面とフィナーレの卒業式で旅立ちを励ます場面で歌われる『あなたは決して一人ではない』も一度聴いたら忘れられない心の音楽となるに違いありません。

それに加えて、管弦楽も細部までよく書かれていて、芸術的な香り高い作品となっています。たとえば序曲一つをとっても、『南太平洋』や『王様と私』ではインストゥルメンタルの組曲になっているのに比べ、『回転木馬』では正調なワルツ形式で、中間部や展開部を持つ純粋な序曲になっているのです。

ひとつひとつの場面が絵本をめくるような雰囲気や余韻があり、まるで大人のお伽話のように眠っていた感性を刺激してやみません。あらゆる条件さえ揃えば、この独特の世界に入り込んだあなたは、きっと驚くような感動を受けることでしょう。


魅力的な舞台を
演出するのが難しい作品

ただし、その条件は結構ハードルが高いといえます。
まず主役のジュリーとビリーが劇のイメージに相応しい充分な歌唱力と演技力を備えていなければならないこと。またオーケストラの関わりがとても大きい作品なので、通常クラシック演奏を行うようなフルオーケストラが望ましいことです。ダイナミックなサウンドと繊細な響きを硬軟自在に表現でき、ミュージカルの演奏にも慣れていれば言うことありません。そして何よりも演出と振付が回転木馬の世界観、本質をしっかり掴んで的確に表現することがあげられるでしょう。

現在あるCDやDVDの中では2013年4月26日、リンカーン・センター(ニューヨーク)でのライブがブロードウェイミュージカルの粋を結集した感動的な公演と言っていいでしょう。

特徴的なのはステージ上にオーケストラ(ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団)を持ってきて、役者さんと歩調を合わせながら、幻想的で夢のあるステージづくりに大いに華を添えていることです。これでこそ、このミュージカルの良さが発揮されるというものでしょう。 ジュリー役のケリー・オハラをはじめとする歌手たちも粒ぞろいで、味わい深い歌と演技を繰り広げています。
残念なのは直輸入盤なので、 DVD再生のリージョンコードが日本とは違うところがかなりのマイナスポイントなのと、やはり字幕が無いところでしょうかね……。それがクリアーできれば文句なしのおすすめなのですが。

音楽CDとしておすすめできるのは1993年のロイヤル・ナショナル・シアター(ロンドン)で再演されたロンドンキャストによるスタジオ録音盤しかありません。まず、オーケストラの色彩豊かで温かみのあるサウンドがミュージカルにぴったりです! そして、終始心地よい流れと雰囲気を作りながら、歌手たちをサポートしていくのですが、本当に見事ですね。 序曲の拡がりのある響きとサウンドは最高といえるでしょう。
出演した歌手たちはいずれも水準が高く、ビリー、ジュリーをはじめとして、まったく違和感なく私たちの心を回転木馬の世界に導いてくれます!

音質も非常に良く、回転木馬の名曲を味わうには最高の一枚と言えるでしょう!


2017年11月15日水曜日

「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」





ディエゴ・ベラスケス 《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》 
1635年頃 油彩、カンヴァス 211.5×177cm  
マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado


ルネッサンス、バロックの
名画の数々が集結

展覧会のタイトル、『ベラスケスと絵画の栄光』と聞くと、「そうか、ついにベラスケスの絵がたくさん見られるのか!!」と、小躍りして喜ばれる方もいらっしゃるかもしれません…。

でも実際は、タイトル名に巨匠の名前を冠していたとしても、蓋を開けてみたら巨匠の絵はたった2枚だった……ということも決して珍しくないことです。 それは歴史に名を刻んだ偉大な画家であればあるほど、美術館からの持ち出しには厳しい条件が付いてまわるし、さまざまなセキュリティの問題が絡んでくることが必至だからなのでしょう。

それでも、2018年の2月と6月に東京と神戸で開催される『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』では、ベラスケスの絵が7枚出展されるということで、これまでの事情からすれば破格の点数になるのかもしれません。

プラド美術館と言えば、かつてスペインが栄華を極めたフェリペ王時代のコレクションがベースになっています。ベラスケスをはじめとして、エル・グレコ、ゴヤのスペイン国内の巨匠、ルネッサンス、バロック時代の名画の数々を所蔵する、まさに西洋美術の歴史と文化を今に伝える美術館といっていいでしょう。
今回はベラスケス以外にもラファエロ、ティツィアーノ、ルーベンス等の名画が堪能できます。



「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」

■東京展
会期:2018年2月24日(土)~5月27日(日)
会場:国立西洋美術館
住所:東京都台東区上野公園7-7
時間:9:30~17:30(金・土は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日 ※3月26日(月)、4月30日(月)は開館
料金:
一般 当日 1,600円 前売・団体 1,400円
大学生 当日 1,200円 前売・団体 1,000円
高校生 当日 800円 前売・団体 600円
※中学生以下無料
※心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館時に障害者手帳を提示)
※団体は20名以上
※2018年2月24日(土)~3月4日(日)は高校生無料観覧日(入館時に学生証を提示)

■兵庫展
会期:2018年6月13日(水)~10月14日(日)
会場:兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
時間:10:00~18:00(金・土は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日 ※ただし祝日の場合は閉館、翌火曜日休館
料金:
一般 当日 1,600円 前売・団体 1,400円
大学生 当日 1,200円 前売・団体 1,000円
70歳以上 当日 800円 団体 700円
※高校生以下無料。 ※団体は20名以上。
※前売は一般、大学生のみ。前売券の販売開始は2018年春を予定。
※心身に障害のある方は各当日料金の半額(70歳以上除く)、その介護の方1名は無料。
※一般以外の当日券の購入および障がい者割引の適用には要証明。

2017年11月6日月曜日

ロジャース&ハマースタイン 「南太平洋」










ロジャース&ハマースタインの
傑作ミュージカル

先日の「王様と私」に続き、今回もロジャース&ハマースタインのミュージカル「南太平洋」をあげてみたいと思います。この作品はブロードウエイでの初演が1949年ですが、1958年には映画化もされたミュージカルの傑作です。

太平洋戦争の最中に南太平洋のとある島を舞台に従軍看護婦ネリーと島に住むフランス人エミール、そして海兵隊と島の娘の恋を様々な視点で描いた切ないラブストーリーです。

但し、映画のほうはハワイで長期間のロケを敢行したにもかかわらず、フィルム全編にカラーフィルター効果をかけてしまったために、風光明媚なロケ地の美しさを台無しにしてしまったという曰く付きの映画です。それでもエミールを演じたロッサノ・ブラッツィやネリーを演じたミッツィ・ゲイナーの魅力、名曲「バリ・ハイ」を歌ったファニタ・ホールの存在感は映画史に長く記憶されるものでしょう……。

音楽は生き生きとしてヴァリエーションに富んだ名曲揃いなのですが、映画のサントラ盤は録音の古さが目立ち、全体的に歌唱法の古さもやや気になるところです。

そこで、ここではブロードウェイの舞台を収録したCDをとりあげてみたいと思います。
「王様と私」が比較的、現代のミュージカルスタイルに対応できる曲のテイストをもっているのに比べると、「南太平洋」はどことなく古き良きアメリカを想わせる懐かしいサウンドで充ち満ちていますね……。
名曲「魅惑の宵」、「バリ・ハイ」に聴かれるように、一昔、いや二昔も何十年も前のような古色然とした味わいを持っているのです。

音楽はとにかく楽しく魅力に満ちた名曲の宝庫です! コミカルでユーモアいっぱいの「ブラディー・メアリー」や「あの人を洗い流そう」。子供たちが歌う可憐な「わたしに告げて」。珠玉の輝きを放つ「魅惑の宵」、「バリ・ハイ」、「春よりも若く」。気が利いている「ア・ワンダフル・ガイ」、「ハッピー・トーク」等々、音楽を聴くだけでも舞台の雰囲気が彷彿として、充分に満足できることでしょう!


音楽的に洗練され充実している
2008年ブロードウェイ盤

お勧めしたいのは2008年ブロードウェイ上演盤です。
これは2008年のトニー賞を7部門独占した名演の記録ですが、音楽全体が生き生きとしているし、古き良き時代の雰囲気を醸し出しながら、洗練されていて音楽的に充分美しいのです。

特に素晴らしいのが、ネリーを演じたケリー・オハラですね! 
往年の名歌手ジュディー・ガーランドやドリス・デイのような、いかにも古き良き時代のアメリカ的な歌唱法で雰囲気満点なのですが、もちろんそれだけではありません。ささやくような発声と自然に心に溶け込むような語り口の歌が最高なのです。「ア・ワンダフル・ガイ」や「あの人を洗い流そう」はまるでケリー・オハラの持ち歌のように自然で、表情豊かで、柔らかな歌唱に引き込まれてしまいます!

トニー賞の最優秀男優賞を受賞したエミール役のパウロ・ゾットの歌やその他のナンバーも良くまとまっていて、聴き応え充分です。このCDを聴くと、舞台が無性に見たくなるかもしれませんね…。

2017年10月30日月曜日

セザンヌ 「モンジュルーの曲がり道」










創造的な試みが充満している
セザンヌの絵

この絵を見て瞬間的に感じるのが、「何て絵心を刺激する絵なんだろう!」ということです。私は絵筆を置いて久しいのですが、この絵を見ると、どういうわけかもう一度描いてみたいという気持ちが少なからず起こってくるのです……。
そんなこと言ったら、「この絵がどうして絵心を刺激するの?」、「そうかな?」と言う声も聞こえてきそうですね…。

どうしてなのかと言えば、この絵のあらゆる部分に様々な創造的な試みが充満しているからでしょう。つまり絵としての魅力が見れば見るほどに伝わってくるのです。
もしかしたら自分もこの絵の端くれみたいなものが描けるかもしれない?(まず無理なことでしょうけれど…)という親近感を抱かせることも大きいかもしれません。

皆様がご存知のようにセザンヌはあたりまえのように風景を描写したのではありません。
セザンヌの絵を見ていつも思うのが、無造作に積み重ねられた色彩面が醸し出す美しさが際立っていることです。彼は自然から感知した規則性や法則を自身の感性のフィルターを通して絵の中に抽出してみせているのです。

特に印象的なのは画面全体の3分の2を埋め尽くそうかという木々の緑です。
何度も塗り重ねられた緑は多様な表情を映し出し、色彩の変化や陰影の面白さをみせてくれます。また、セザンヌ独自の幾何学形態的な描写法と絵の具を塗り残す筆のタッチが、時として風がそよぎ、揺らいでいるように見え、大気の流れのように感じさせてくれたりもするのです。

緑に挟まれる形で配置されているクリーム色とオレンジを基調にした暖色系の家屋は周囲の緑との色彩の響き合いや対比の中で強い存在感を放っています。
その他、創造的な試みがあれやこれやと結集した、見れば見るほどに味わいが増してくる絵といっていいでしょう!

2017年10月23日月曜日

ロジャース&ハマースタイン  『王様と私』











ブロードウェイの
古典的傑作

『王様と私』は1951年に公開されたブロードウェイミュージカルですが、5年後に公開された映画は、ブロードウェイと同じ王様役を演じたユル・ブリンナーの独特の個性と存在感で、このミュージカルが持つ魅力と知名度を一躍世界に知らしめたのでした。
現在でもブロードウェイではたびたび上演されていて、その人気の高さがうかがえますね。

ミュージカルは演技や振付も大変重要な要素の一つですが、それと同じかそれ以上に重要な要素が音楽や歌です。
『王様と私』はリチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世のゴールデンコンビによって制作されたミュージカルの傑作ですが、この作品の成功は音楽抜きにはまず考えられないでしょう。 巧みなストーリー展開や登場人物の性格づけがオリエンタルムードをテーマにした音楽によってうまく引き立てられているのです。

またオリエンタル調のテーマと叙情的なバラード、コミカルな歌とのさじ加減が絶妙で、いい意味で均衡がとれているのです。しかも音楽が無理なく心に溶け込んできて、聴く喜びで満たされていきます。

印象的な曲をざっとあげると次のようになるでしょうか……。

純真な乙女心が瑞々しく漂うタプティムの『My Lord And Master』。しっとりとした情感が忘れ難いアンナの『Hello, Young Lovers』。アンナが子供たちに寄り添うように歌う『Getting To Know You』。ルンタとタプティムの美しいバラード『We Kiss In A Shadow』、『I Have Dreamed』。そして今やスタンダードナンバーとして名高く、粋なセンスや夢が拡がる『Shall We Dance?』等々、それぞれに時が経つのを忘れてしまうような味わい深い名曲が目白押しです。


忘れ難い1992年の
スタジオキャスト盤

『王様と私』で真っ先におすすめしたいのが、1992年のスタジオキャストレコーディングによるCDです。
ミュージカルのCDは出来るだけ舞台のイメージを膨らませてくれたり、ストーリーの展開が伝わってくるようなレコーディングこそ相応しいのではないでしょうか…。
映画や舞台のイメージを美しく甦らせる効果があるとするならば、このCDは最高の一枚と言っても決して過言ではないでしょう。

何といっても素晴らしいのがアンナを演じたジュリー・アンドリュースです。アンドリュースは『王様と私』のアンナ役に長年恋い焦がれてきたそうですが、舞台ではなかなかその願いも叶わず、ようやくこのスタジオキャストアルバムで念願が叶ったのでした。

その想いの強さは彼女の歌に溢れ出ているといっていいでしょう! 歌声からこぼれ落ちる気品と聴く者を引き込まずにはおかない豊かな表現力と情感! 中でも『Hello, Young Lovers』は語りかけるような歌い方や一小節ごとに表情が変わる柔軟さが最高で、他の歌手が歌った同曲は、どうしても色褪せてしまいます……。

アンドリュースだけでなく、王様役の名優エドムンド・キングスレーやディズニー映画の歌姫レア・サロンガ、グラミー賞歌手ピーボ・ブライソン、ディーヴァとして難曲に幾度も挑戦してきたマリリン・ホーンと適材適所に豪華なキャストを配していて、その聴き応えや満足度は途轍もなく高いですね!

特にレア・サロンガは素直な歌い方と透明感溢れる声の響きが涼やかな風のように心地よく、心を癒やしてくれます。

ハリウッドボウルオーケストラの、舞台の情景が眼前に浮かんでくるような色彩豊かで情感たっぷりの演奏も素晴らしく、ミュージカルの真髄を心ゆくまで味わせてくれます。間奏部分でのヴァイオリンのソロ等はちょっと泣かせてくれますね……。

この録音の成功の要因は完成度を高めるために決して妥協せずに、スタッフ、関係者が随所に徹底的にこだわり抜き、誠実な作業を遂行したところが大きなポイントなのかもしれません。

2017年10月17日火曜日

「生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展」














形や模様に対する飽くなき追究と
調和とバランスを見出す面白さ

エッシャーの展覧会が来年6月の東京・上野を皮切りに各地で開催予定です。

エッシャーと言えば「だまし絵」で有名ですが、もちろん漠然とトリック手法的な絵を描いた訳ではありません。
そこには形や模様に対する飽くなき追究がありますし、調和とバランスを見出す面白さや発見があるのです。

スペインのアルハンブラ宮殿で見たモザイク模様の数々に心奪われて、何度も訪れるうちに、彼はモザイク模様の探求を生涯をかけたテーマとして認識するようになります。代表作の『滝』や『相対性』はエッシャーのモザイクや幾何学形態的な考え方が行き着いた一つの結論と見ていいかもしれません。

2018年で生誕120周年となり、日本国内ではそれを記念して大規模な回顧展が開催されることとなりました。今回はイスラエル博物館のコレクションから代表作や、初期に関わった作品、直筆のドローイング等、貴重な資料も含めて、150作品が公開される予定です。乞うご期待!




生誕120年 イスラエル博物館所蔵 
ミラクル エッシャー展

期間:2018年6月6日(水)~7月29日(日)
会場:上野の森美術館
住所:東京都台東区上野公園1-2

※大阪・福岡ほか巡回予定

2017年10月7日土曜日

ハイドン ミサ曲 第2番 変ホ長調「祝福された聖母マリアのミサ」:大オルガンミサ












ミサ曲というカテゴリーで
創造の翼を羽ばたかせるハイドン

以前お話したことがありますが、ハイドンのミサ曲はミサの要素だけにとらわれない、宗教音楽という枠や概念を超えているところが魅力としてあげられると思います。つまりミサ曲というカテゴリーの中で、思う存分創造の翼を羽ばたかせているといってもいいでしょう。

この通俗名「大オルガンミサ」も、いかにもミサを彷彿とさせる形式と清廉なメロディラインを持っているのですが、一般的なミサ曲と比べると音楽的な拡がりや聴き応えが大いに違います。

「大オルガンミサ」はカトリックの典礼に準じた正統的なミサ曲なのですが、音楽的、芸術的な指向性は決してそこに留っていません。あくまでも未来に向かって音楽は動き、進んでいるのです。

まず、キリエの優しく微笑みかけるような柔和な旋律に思わず心惹かれます! 特に主題に劇的な変化や転調があるわけではないのですが、音楽は一瞬たりとも単調になることなく、拡がり発展していきます。そして何と豊かな情感が息づいていることでしょうか……。

グローリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥスのいずれも穏やかで安らぎに溢れたメロディはハイドンの抜群の構成と相まって心を和ませてくれます。そして時折ハイドン得意のフーガを絡ませて大いに作品を盛り上げていくのです。

そしてアニュス・デイです! ここは「大オルガンミサ」で最も魅力に溢れた音楽といえるでしょう。冒頭の部分は陰影に満ちていて、喜びや哀しみ、慰め…がゆるやかに噛みしめるように回想されます。とても印象的な部分ですね……。これに続く主題のコントラストも見事です。まるで涙を拭って、新たな希望の道筋へ向かっていくようではないですか…。

以上のように、この作品は典礼重視の作曲スタイルとはいえ、何度聴いても飽きることがないでしょう。ただただ、ハイドンの芸術的な処理のうまさに感嘆するしか言葉がないのです。


豊かで透明感に溢れた
プレストン盤 

この作品もサイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊(DECCA)をあげたいと思います。先日、紹介したヴィヴァルディのグローリアよりも作品に密度があり、充実感があるためさらに魅力的な演奏に仕上がっています。

ソプラノのジュディス・ネルソン、テノールのマーティン・ヒル、コントラルトのキャロライン・ワトキンソン、バスのデヴィッド・トーマスはプレストンのタクトの下、実にスッキリと溶け合った響きを醸し出してくれます。二重唱、三重唱の歌がごく自然な声の響きとして何の違和感もなく引き出されていることは一つの驚きです。

また、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊のまろやかで優しい声の響き! この作品を天上的な響きに磨き上げてくれた最大の功労者と言ってもいいでしょう。心の動きが伝わってくるような繊細な情感や温かみのある音色も実に見事です!

2017年9月28日木曜日

『シネマ・アンシャンテ』ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン デジタル・リマスター版特集上映!








歓びも哀しみも、すべてが夢のように美しい 
フレンチシネマ史上至高の映像と
音楽のコラボレーション4作品を一挙上映

ついにリバイバル上映が決定しました!

恵比寿ガーデンシネマを皮切りに上映される『ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン デジタル・リマスター版特集上映!』がそれです。これは『ロシュフォールの恋人たち』が公開50周年にあたることと、作曲のミシェル・ルグランが生誕85周年になるのを記念してデジタル・リマスター版で装いも新たに公開されるそうですね。今回は東京、横浜、名古屋、大阪、京都と全国5か所で公開されます。

ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランといえば、映像と音楽のコラボが最高に美しく、夢のようなひとときを約束してくれる名コンビでした。今回のシリーズでは絶頂期の作品をはじめ、魅惑の作品が組まれています。

まずはシリーズの顔になっている1965年の『ロシュフォールの恋人たち』。サントラ盤に収められたほとんどすべてのナンバーがスタンダードナンバーといってもいいほどに愉しく充実した名曲揃い! しかもカトリーヌ・ドヌーブとフランソワーズ・ドルレアックの実の姉妹やジーン・ケリー、ジョージ・チャキリス等の多彩な顔ぶれが歌って踊る楽しいミュージカルになっています。

その他、息をのむほどに美しい映像と音楽との豊かな共鳴が忘れがたい余韻を残す『シェルブールの雨傘』。幻想の世界を彷徨うような大人のファンタジー『ロバと王女』、池田理代子の大ヒット漫画を実写化し、公開当時は酷評されたものの、今やその良さが再認識されつつある『ベルサイユのばら』(今回初デジタル・リマスター化)もラインナップされています。

秋の夜長、じっくりとフランスシネマの傑作に浸る至福を味わいたいものです。



2017年9月24日日曜日

フラゴナール 読書する娘











抜群の構図と
目の覚めるような
美しい色彩

「印象に残る人物画は何ですか?」と尋ねられたら、この絵を思い出されるかたは少なくないでしょう。

知らない人はいないのでは?……と思えるほど、『読書する娘』は絵柄としても有名ですし、説明は不要なくらいにありとあらゆる媒体や印刷物に使われていることは皆さん承知の事実です。もはや本を読む人の永遠のイメージ像として定着してしまったような感じさえありますね。

時に絵の善し悪しは構図と配色で決まってしまうともいわれますが、この絵は構図が抜群です!しかも配色が目も覚めるほどに美しい!

特に全体を大きく三角形で結ぶ構図が読書にふける女性の静謐で穏やかな雰囲気を決定づけています。それだけではなく、頭から腰にかけて連なるいくつかの三角形の構図が女性らしさや気品を印象づける重要な働きをしているのです。

女性を上手に描く人は世の中にたくさんいるかもしれません。けれどもフラゴナールのように女性の魅力を存分に引き出して、甘美な夢を見させてくれる人は少ないことでしょう……。

横向きにもかかわらず、フラゴナールの女性像はまるで目の前に座っているかのように情感豊かで生き生きとしたメッセージを伝えるのです。

本当に伝えたいメッセージを表現する上で、ロココ時代の絵によく見られる過度な装飾や演出は逆効果になることをフラゴナール自身もよく理解していたのでしょう。

細部のこだわりを捨てたダイナミックで素早いタッチの描写がデリケートでセンス満点な彩色とあいまって、最高に魅力的な女性像を作り上げているのです。


2017年9月15日金曜日

グリーンアクアリウム展














大自然の森のようなアート

幼い頃、箱庭を見たり、作ったりするのが大好きでした! あの箱庭で展開される小さな宇宙はいったい何だったのでしょう……。今思い出しても、とても不思議で可愛らしかったですね。

さて、発想はかなり近い感覚なのでしょうけれども、現在、神奈川・武蔵小杉駅近のグランツリー武蔵小杉で「グリーンアクアリウム展」なるものが開催されています。これは何かというと、熱帯魚や淡水魚、水草、サンゴ、岩などを使って、水槽の中に美しい世界を作り出すことだそうです……。

今回のイベントの主役、アクアリスト(アクアリウムを制作する人たち)と呼ばれる人たちは現在、欧米を中心に世界中で活動しており、”アート作品”と呼ぶにふさわしい、幻想的な水中世界を創造しているのだそうです。

イベントでは世界有数のAQUARIST6名が監修した作品が展示されています。まるで水槽内に出現した大自然の森のような……、アート作品として表現された今までにないイベントですね。
写真を見る限り、とても美しいし、愉しそうですね!童心に帰ったつもりで見てみようかな……。もしかしたら、疲れた心が癒やされたり、何らかの気づきがあるかもしれません!



【開催概要】
グリーンアクアリウム展
開催期間:2017年9月13日(水)~2017年10月9日(月・祝)
営業時間:10:00~21:00 (最終入場 20:30)
観覧料:一般(中学生以上) 500円/小学生 300円/幼児(小学生未満) 無料
チケット販売:
・8月21日(月)~ セブンチケットにて販売
・9月13日(水)~ グランツリー武蔵小杉内チケットカウンターにて販売


■ワークショップ
開催日:2017年9月17日(日)、9月18日(月・祝)、9月24日(日)、10月1日(日)、10月8日(日)、10月9日(月・祝)の6日間
時間:10:00~/11:00~/13:00~/14:30~/16:00~/17:30~(所要時間 約1時間)
定員:各回12名 ※混雑時には予約制
参加料:3,000~5,000円+税 ※グラス水槽・材料込み
支払い方法:参加時にワークショップ会場にて現金での支払い