ベラスケスが描く
唯一の裸婦像
17世紀スペインの大画家ベラスケスといえば王女をはじめとする典雅で格調高い肖像画で有名ですが、同時に泣く子も黙るほどの圧倒的画力の持ち主としても有名ですね。さらに傑作の誉れ高く、謎の絵としても名高い「ラス・メニーナス」の例のように、様々な細工を施した画家としても有名です。
今回ご紹介する「鏡のヴィーナス」はベラスケスにとって、おそらく唯一ともいえる裸婦をモチーフにした絵ではないでしょうか。当時のスペインはカトリックの教義的な締め付けが厳しく、画家がヌードを描くことはすぐさま非難の対象になり、容易なことではなかったようです。
素晴らしい演出と
格調高さ
しかし、この絵は裸婦を描く上で充分な資質と必然性を備えているのです。
たとえば裸婦の顔を直接描かないで、キュービットが持つ鏡に裸婦の表情を浮かびあがらせていることです。本当にうまい演出ですね……。これによって世俗的で生々しい雰囲気が緩和され、代わりに幻想的で甘美な雰囲気が醸し出されることになったのです。
その魅力を大きく引き出しているのは、ヴィーナスの身体の曲線の美しさや透明感あふれる肌の輝きであることは言うまでもないでしょう。
また、キュービットの愛らしい姿態と表情も大変魅力的です。キュービットが膝を曲げて鏡を持つ様子はとても意地らしく、微笑ましい空間を生み出しているのです。
それにしても裸婦を描いても、いささかも品位と格調を落とさず描き切るベラスケスのの表現力はさすがというしかないですね!