有機的につながる交響曲
ブラームスの4曲の交響曲の中で、一番地味なようだけれども、実は芸術的な味わいや充実した構成で際立っているのが3番です。
1番のように片意地を張ってないし、2番のように長過ぎないし、4番のように渋すぎることがありません。(私の個人的な印象なので気にしないでください)つまり自然な流れの中で、ブラームスでしか出せない音楽的な魅力がいっぱいに詰まった傑作なのです。
もちろんブラームスの交響曲ですから、長調の作品とはいえ、決して希望的とか明るいというのではありません。音楽は絶えず憂愁と寂寥感に覆われているのですが、それをあるがままに受けとめながら前進しようとする男性的なロマンが漲っているのです……。
また、転調が少なく、意味深い響きやメロディが有機的に絡んでくるため、素直に心に訴えかけてくるのも3番の魅力です!
第1楽章の出だしから淀みなく、雄々しい主題と共に一気呵成に曲は進行していきます! 堂々としていて風格があり、全体的に呼吸の深さやスケールの大きさを感じます。
この第1楽章をさらに抽象的な主題に転化して高めたのが、第4楽章アレグロでしょう。ここは全曲の中で特に優れている部分といっても過言ではありません。
不安を煽るような導入部分で開始されるため、「ついに作品が暗い情念で覆われてしまうのか……」と、一瞬憂鬱な気持ちになってしまいます。しかし、トロンボーンの印象的な響きに続く、息をもつかせぬドラマチックな主題の展開や結晶化された響きは芸術的な感興すら覚えます。過酷な運命の渦中にあっても、冷静沈着で毅然とした強い意思と姿勢が音楽に現れているといってもいいのではないでしょうか……。
ロマンの香りを
内包した作品
3番はしっかりとした骨格を持った交響曲だと思われがちですが、実はロマン派的な情緒をふんだんに持った作品でもあるのです。
とりわけ有名な第3楽章はただただ切なくて、一度聴いたら忘れられない音楽となるかもしれません。中間部のはかない夢共々、哀しくも美しい音楽が胸に染みます……。
また第2楽章アンダンテも叙情的で美しいメロディが心を癒やし、潤いを与えてくれます。しかし、それは過去への回想であったり、心象風景であったり…と、あくまでも深い憂愁が根底に流れているのです……。このあたりはブラームスでしか表現できない独特の魅力かもしれません。叙情的な主題は次第に心の空洞を埋め、忘れかけていた心の情景を甦らせていきます。
演奏はクルト・ザンデルリング指揮ベルリン交響楽団(ヘンスラー)のブラームス交響曲全集に入った1枚が最も安心して聴ける演奏です。テンポや管弦楽の音色の深さ、表情、録音とどれをとっても素晴らしく、ブラームスの息づかいが聞こえてきそうな演奏です。これからブラームス3番を聴きたいという方には真っ先におすすめしたいCDですね!
また、ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団(CBS)の演奏も同じ意味で安心して聴ける演奏です。特に第2、第3楽章のロマンの香りはザンデルリング以上に味わい深く叙情的かもしれません。
ハンス・クナパーツブッシュ指揮ウイーンフィル(ドリームライフ)の演奏は1958年のモノーラルですが、これは3番の究極の演奏と言っていいかもしれません。スケール雄大、表情も濃く、呼吸も深く、あらゆる意味でこれ以上に作品をデフォルメすることができないくらいにクナパーツブッシュの表現で貫いています!
しかも作品の本質をがっちりつかんでいるため、不思議と違和感がなく、その表現力の凄さには驚くばかりです。ただし、これから聴きたいという方は敬遠されたほうがいいかもしれません。あまりに独特で個性的な表現であるため、他の演奏を受けつけなくなったり、「ブラームスの3番はこういう曲?」という既成概念が植え付けられてしまう恐れがあるからです。