2011年6月8日水曜日

交響曲第3番イ短調作品56『スコットランド』
















スコットランドの情緒を美しく描く交響曲


 メンデルスゾーンの作品は音の風景画と評されることがあります。前回お伝えしました、「序曲・フィンガルの洞窟」はまさにそのような作品の典型と言えるでしょう!しかも、すんなりと曲に入っていける敷居の低さはメンデルスゾーンの音楽の最大の魅力といってもいいのではないでしょうか!

 それは「真夏の夜の夢」、「ヴァイオリン協奏曲」、「交響曲第4番イタリア」等、メンデルスゾーンの作品に共通する魅力だと思います。もちろん決して曲の内容が薄味だというのではありません。思索的にねじれてないし、屈託のない素直な曲調なのです。おそらく自身もかなりピュアな性格だったのでしょう。


 特にここで紹介する交響曲第3番「スコットランド」は冷んやりとした空気感や霧にかすむ情景を、心の機微に重ね合わせながら哀愁を帯びたテーマとともに美しく描き出しています。メンデルスゾーンはよほどスコットランドの風景と情緒が強く心に印象づけられたのでしょう。この曲を最初に着手したのは1830年ですが、その後長い中断があり何と12年後の1842年に完成させています!いかにこの作品がメンデルスゾーンにとって重要な部分を占めていたかを物語っているように思います。


 第1楽章はそんなイメージが最もドラマティックに最高のバランスで捉えられた楽章といってもいいかも知れません。それに対して第2楽章はスコットランド民謡風の軽快なリズムも取り込みながら、暖かい春の兆しを感じさせるうれしく楽しい楽章です。第3楽章の神秘的で穏やかなテーマも一度聴いたら忘れられません。絶えず聖歌風のメロディが歌われ、平和な叙情詩のように時が流れていきます。そして第4楽章フィーナレ……。厳しく孤高な魂がうなりをあげるように音楽は展開し、曲の核心の部分へと到達します。するとホルンに導かれるように雄大で希望に満ちたコーダへと発展し曲は結ばれます。

  この作品は、繊細で悲哀に満ちたロマンチズムがまず要求されるのと同時に、生き生きとした色彩的な情感も要求されます。また願わくばスケールが大きく微動だにしない造形感覚があればさらに鬼に金棒です。しかし、実際にこのような条件を満たす演奏は本当に少なく、どこか片手落ちの演奏になってしまうのは致し方ないのかもしれません。


  そのような中で素晴らしいのはマーク指揮ロンドン交響楽団の演奏です。この演奏は弦がとても美しく、しなやかな音色とウエットな表情を醸し出しています。ホルンやファゴットも非常に深みのある響きを生み出し気持のいい空間を作っています。特に第3楽章は美しく、澄んだ情感に満たされます。ただ、第2楽章や第4楽章のコーダの部分はテンポがやや性急すぎて曲の魅力をいまひとつ味わえないような気もするのですが……。

 しかし、これら3つの条件を軽くクリアーしてしまっている指揮者がいます。それはオットー・クレンペラーです。決して曲に夢中になってのめり込むという指揮ぶりではないのですが、どこもかしこも意味深く豊かな音楽が鳴り響いているのです。たとえばフィナーレのコーダで雄大なテーマを奏するくだりも、普通であれば少しずつテンポを上げ盛り上げていくのが常道でしょう。しかし、クレンペラーの場合は一切テンポを変えることなく、ひたすら堂々と曲を謳いあげていくのです。
 そのコーダの何たる存在感!ここだけをとってもクレンペラーの偉大さは傑出しています。録音で有名なのは1960年にフィルハーモニア管弦楽団を振ったEMI盤ですが、6年後にバイエルン放送交響楽団を振ったライブ録音も甲乙つけ難い素晴らしさです。ただし、有名な第4楽章のコーダはクレンペラー自身が作った短調のままで曲を終了する版が使われています。これは作品の性格上、大変重要な部分ですのでおそらく賛否両論わかれるものと思います。









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