2012年3月9日金曜日

モーツァルト ピアノ協奏曲第6番 変ロ長調 K.238







 モーツァルトはピアノに格別な愛情を注いでいたようです。それは27曲のピアノ協奏曲と何十曲にも上るピアノソナタ,独奏曲の充実度からも充分うかがえます。
 ところで モーツァルトのピアノ協奏曲は第20番(K466)以降の作品でなければその良さは味わえないと思いこんでらっしゃる方も意外に多いようです。もちろん全般的に曲が深化し、完成度が格段に上がったことは間違いないでしょう。しかし、初期や中期の作品に魅力が無いのかと言えば、まったくそんなことはありません!
 むしろ初期の作品でも魅力においては後期の作品を上回る作品も少なくないのです。

 ピアノ協奏曲6番はそんな初期の魅力に溢れた作品の代表格でしょう!
 この曲は一聴して耳をとらえる主題の特徴はありませんが、自然な陰影がありメロディが少しずつ形を変えながら空気のように聴く人の心にスーッと染み込んでくるのです。ちょっとしたリズムやメロディに込められた繊細なニュアンス、音楽的な味わいは最高で、音楽を聴く喜びにいつのまにか満たされることでしょう。 
 全編に溢れる無邪気な微笑みはとても愛らしく、キラキラ輝くような魅力を放ちながら曲は進行します。そして明るさの中に時折垣間みられる透明感を湛えたメランコリックなメロディも印象的で、まるで無垢な天使の涙を想わせるです…。

 モーツァルトはこの曲を典型的な18世紀のロココ形式に沿って作曲しているようですが、しばらく聴いていくとそんなことはどうでも良くなってきます。つまりロココ形式は当時の流行ということで踏襲したに過ぎず、バロックであろうがロマン派であろうが現代音楽であろうとモーツァルトにとっては何でも良かったのです…。モーツァルト自身が伝えたい音楽の心さえ伝えられれば…!

 演奏はマレイ・ペライアがピアノと指揮を担当し、イギリス室内管弦楽団を振った演奏がモーツァルトの純粋な心を美しく再現しています!第3楽章でホルンがピアノに寄り添うテーマをこんなに楽しく聴かせてくれた演奏は他にありません。何よりもペライアのピアノは純粋、透明、しなやかでモーツァルトが伝えたかった心を代弁するかのように自然体で弾いてくれます。
 最近ペライアがCBS時代に録音したピアノ協奏曲全集(12枚組)が破格の価格で発売されました。どれも質の高い演奏で、モーツァルトのピアノ協奏曲の名演として永く語り継がれる演奏と言っていいと思います。




2012年3月6日火曜日

アルベール・マルケ 「夏のルーブル河岸」


Quai du Louvre, Summer(1906)


 この人の絵を見るといつもホッとします。そして無性にうれしくなってくるんですね!なぜなのかはよくわからないのですが、やはり的確な描写力に裏付けられた詩情豊かな感性が溢れているからなのでしょう。

 マルケは川辺や海岸を愛し、自宅近郊のパリの風景も日常的に描いていたようです。マルケはこのような何の変哲もない慣れ親しんだ光景をとても気にいっていたのでしょう。見慣れた光景ゆえの愛着感もひしひしと伝わってきますし、感動や生への喜びが絵にストレートに表れている感じです。この絵を見続けていると忘れていたものに出会ったようなうれしさと懐かしく愛おしい想いが溢れてきます。

 薄紫やグレーといった中間色の絶妙なハーモニーが素晴らしく、余計な説明を排除したシンプルな形が夕陽を浴びる街並みの美しい表情を引き立たせています。その場の平和でのどかな空気感や柔らかい光が穏やかな色彩によって実に臨場感豊かに表現されていることに驚かされます。
 そして何よりも変に説明的であったり写実的でないのがいいですね。マルケの心のフィルターを通して描かれた世界が不思議なくらい郷愁を奏で絵を魅力的にしているだと思います!いい意味での飾り気のなさとさりげなさがとても洒落た雰囲気を醸し出しているように思います!

 こういう自然で飾らない絵は意外に少ないので、貴重なタイプの画家なのかもしれません。いつか日本でも何らかの形で個展が実現されればいいのですが…。