2011年11月25日金曜日

ブルックナー 交響曲第9番ニ短調









晩秋を彩る交響曲の最高峰

 最近、気候がちょっと危ういですね。もう11月も下旬になるというのに、あまり秋らしい気配を感じません。20年も前であれば、朝の空気はひんやりして気持ちよく、昼も清々しい青空と穏やかな光に心が知らず知らずのうちに満たされたものです…。それが今ではすっかり季節感がなくなってしまい、気候のあまりの不安定さに気持ちも不安定になったり、健康も害したりと戸惑うばかりです。目に鮮やかで、人の心を和ませてきた紅葉も最近はほとんど見られなくなってしまいました。何だかとても残念で仕方ありません…。

 本来ならば、この時期は秋が深まる1年中で最も美しい季節の一つだと思います。一般的には晩秋とも言われますが、晩秋は芸術においても優れた作品が生み出されてきた季節でした。ところでこの晩秋と言えば、私自身の感性にピッタリくるのがブルックナーの第九交響曲です。

 個人的な話になり恐縮ですが、私がブルックナーの交響曲を最初に聴いたのは何を隠そうこの作品でした。今思うと無茶苦茶な選択だったな…と思いますが、最初に9番を聴いたことは逆にブルックナーの音楽の奥深さや醍醐味を知るという意味でよかったのかなと思います。この第九交響曲はいろんな演奏でLPやCDを聴きましたが、まったく聴き飽きることがありません。それどころか聴くたびに新しい発見と驚きを与えてくれるのです。

 もちろん、ブルックナーがあらゆる面で彼の人生の総決算とも言うべく、魂のすべてを注ぎ込んだ作品ですから、そう簡単に音楽に親しめるわけはありません。しかし地味で超硬派の作品ではありますが、独特のその響きに慣れると音楽の本質が少しずつ解き明かされ、聴こえなかったものが聴こえてくる喜びや楽しみが無性に感じられるようになるのです!



既成概念に縛られない作曲姿勢

 世の中には多くの第九交響曲がありますが、この作品はその中でも次元の違う究極の傑作と言ってもいいかもしれません。まず何よりもブルックナーのまったく既成概念に縛られない作曲姿勢に感心させられるのです。


 印象的なのは全編を貫く弦の刻みです。この弦の刻みはブルックナー特有のもので、デリカシーに溢れ、内省の色あいを強く表出していくのですが、情報量はとても多く、わずかな情景の変化を的確にとらえていくのです!

 第1楽章は冒頭のホルンの奥深い響きにまず魅了されますが、ここで既にただならぬ気配があたりを支配します。森羅万象の深い響き…。それは私たちがいつも親しんでる自然の情景ではなく、私たちの想像を遥かに超えた厳しい自然の姿として現れるのです。険しい山々、仰ぎ見るような高峰、吹きすさぶ心の嵐、天地が鳴動するようなユニゾン等、聴くたびに戦慄を覚える厳しい響きが連続して現れます。

 第2楽章も圧巻です。ストラヴィンスキーやバルトークらも顔負けなくらい独創的で大胆な和声とリズム!わずかな隙さえ許さない密度の濃い構成がとても印象的です!宇宙に漂うさまざまなエネルギーがどんどん集積され、桁外れのスケールを獲得し爆発するようなエネルギーが充溢します。とにかく聴く者の心を完膚なきまでに打ちのめしてしまう音楽と言っていいでしょう。

 第3楽章はさらに深く印象的な音楽が展開されていきます。幽玄な世界が表出され、魂を震撼させるパッセージが続出します。第3楽章の冒頭、夜明けとともにメラメラと燃えるように太陽の光が天地を照らしますが、その直後それを拒絶するように虚無感や哀しみが押し寄せます‼非常に印象的な部分ですが、いっさい暗く重々しい気持ちにならないのは不思議です。それどころか深遠な響きに心がひき付けられてしまいます!
ブルックナーはこの曲を「愛する神に捧げる」とメッセージを寄せているように、一個人の人間感情の哀しみを描いているのではないのですね。したがって悲劇的なテーマや破滅的なテーマが大多数を占めているにもかかわらず、暗い想いやどうしようもない気持ちにさせないのはそのためなのでしょう。



音楽に対して謙虚に純粋に心を開くことが、第9を理解する秘訣

 人智を超えたこの音楽を振るためにはただ単に音楽家、指揮者というだけでは難しいのかもしれません。宗教家であったり、哲学者であったり、詩人であること……。いやそれ以上に既成概念はいっさい持たないで、音楽に対して謙虚に純粋に心を開く以外に方法はないのかもしれません。そうしてこそ初めてこの曲はさまざまなことを語り始めるのだと思います。

 演奏で忘れられないのはカール・シューリヒトがウィーンフィルを指揮したEMI盤です。冒頭のホルンの響きからして意味深く、曲の核心を突いた演奏は素晴らしいです!構えは決して大きくないのですが、自然体でありながら楽器の音色、響きは実に雄弁で、この曲が何を言わんとしているのかを表現し尽くしている感じです。
他にもギュンター・ヴァントとベルリンフィル、オイゲン・ヨッフムとベルリンフィル、朝比奈隆と大阪フィル等、印象的な演奏はたくさんありますが、まずシューリヒトとウィーンフィルの演奏を聴いてから他の演奏を聴くとブルックナーの9番はより身近な存在になるかもしれません。





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2011年11月22日火曜日

トゥールーズ・ロートレック展



Divan Japonais(1892-1893)



 現在ロートレック展が開催中です!ロートレックはポスターの源流を作ったとも言われておりますが、その生き生きとした人物の表情や大胆な構図を捉えた抜群の観察力、人間描写力は見事の一言に尽きます。おそらくロートレックが現代に生きていたなら名立たるグラフィックデザイナーになっていたのではないでしょうか?彼の絵の色彩感覚、構図、発想力はとにかく観る人の心に強烈に印象づけます!

 ロートレックという人がどのような創作の背景を持ち、あのような強い印象を残し、説得力のある絵を描いたのかを知る上では絶好の機会かもしれません。
 会期中は夜8時(水、木、金曜日)まで開館しているので、お仕事帰りの方でも比較的見に行きやすいという、ある意味ありがたい展覧会です。


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三菱一号館美術館所蔵のトゥールーズ=ロートレック作品を紹介する初の展覧会となる本展では、19世紀末パリ、モンマルトルを華やかに描き出した代表的なポスターや、画家の芸術の革新性をもっとも顕著に示すリトグラフの数々から、およそ180点の作品を選りすぐって紹介します。本展では、これらのまとまったリトグラフコレクションを通じて、ロートレックの独自性と、現代にも通じるグラフィック・アーティストとしての造形感覚を検証します。
また本展では、三菱一号館美術館とアルビのトゥールーズ=ロートレック美術館との姉妹館提携を記念し、三菱一号館美術館所蔵のポスター・版画コレクションに加えて、ロートレック美術館より、家族と過ごしたアルビ周辺での日々やジョワイヤンとの友情を示す油彩等を展示し、画家の心の拠り所であった故郷アルビの街とパリ、モンマルトルの歓楽街での創作活動を対比的に再構成して紹介します。
世紀末パリの退廃的な夜の世界に浸った「呪われた画家」という、ロマン主義的な画家像とはまた異なる、親しみ深い様相に溢れた新たな「ロートレック」の世界をこの展覧会で発見していただけるものと願っています。(開催概要より)


会  期     2011年10月13日(木)~12月25日(日)
会  場      三菱一号館美術館(東京・丸の内) 
〒100-0005   東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間    水・木・金10:00~20:00/火・土・日・祝10:00~18:00
                        ※入館は閉館の30分前まで
休館日      休館日:月曜休館
主  催      三菱一号館美術館、朝日新聞社 
後  援      フランス大使館
特別協力     トゥールーズ=ロートレック美術館(アルビ) 
協  力        エールフランス航空、J-WAVE
お問い合わせ  03-5777-8600(ハローダイヤル)
観覧料       一般(大人)1,300円 高校・大学生800円
                          小・中学生400円

公式サイト   http://mimt.jp/lautrec2011/



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