2012年9月11日火曜日

ヘンデル 合奏協奏曲作品6(全12曲)

Karl Richter



Orpheus Chamber Orchestra




 合奏協奏曲作品6(全12曲)はヘンデルの作品の中で最も簡潔な作風を基調とした作品です。しかし、尽きない魅力や充実した内容において絶対に省くことのできない作品でもあります。ヘンデルは同じスタイルの合奏協奏曲作品3(全6曲)を1734年に作曲していますが、この作品6では驚くほどの深化が随所に見られ、変幻自在な曲調の多彩さには目を見張るばかりです。しかもこれら12曲の作品をわずか1か月で書き上げてしまうヘンデルの速筆ぶりにはただただ驚くしかありません!

 音楽のスタイルはコレッリの合奏協奏曲によく似ています。あくまでも弦楽器を主体としながら、端正で格調高い作品となっているのです。コレッリの合奏協奏曲や自身の合奏協奏曲作品3との大きな違いはやはり深さでしょう! ドラマティックで劇的な進行があったり、崇高な詩情や翳りの濃い表情など、ヘンデルの音楽の本質が凝縮された作品なのです。
 合奏協奏曲作品6は一方の雄バッハのブランデンブルク協奏曲とよく比較されることが多い作品です。様々な楽器が活躍し、用意周到かつ綿密に曲の構成が施されたブランデンブルク協奏曲と比べると合奏協奏曲作品6はやや荒削りな部分がなくもありません。
 しかし、即興的な面白さと何度聴いても飽きない潜在的な曲の魅力では合奏協奏曲作品6が優っているのではないかと思います。喜びや憧れ、悲しみ等の感情が新鮮な感動とともに洗練された形で曲に反映されているのです。
 ただし、この合奏協奏曲は演奏によって大きく豹変します。しかも感動の質や曲に対する印象だけでなく、演奏が良くないと作品までもがつまらなく聴こえてしまうのでCDを選ぶ時には相当な注意が必要です。

 そのようなことを踏まえた上でCDを選ぶとなると、かなり限定されてしまうことが分かります。やはりヘンデルの作品を熟知し、曲を愛するいわゆるスペシャリストでないと本質を表現しきれないのでしょうか。

 これまで作品6を聴いてきた中で是非推薦したい演奏はアウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコラ・カントルーム合奏団(アルヒーフ・廃盤)、カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団(アルヒーフ)、ボイド・ニール指揮ニール弦楽合奏団(DECCA・廃盤)、オルフェウス室内管弦楽団(グラモフォン)あたりになります。 

 特にヴェンツィンガー盤とニール盤は古い演奏ですが、何度聴いても飽きない味わい深い名演で、この作品の魅力を余すところなく伝えてくれます。ヴェンツィンガー盤の典雅で豊かな音の響き。ニール盤の繊細で温もりのある演奏。本当に見事です! しかし残念なことにこの両盤は現在廃盤中です。(※ニール盤はNAXOSミュージックライブラリーで辛うじて全曲再生が可能)ヴェンツィンガー盤に至っては未だにCD化されたことさえありません。こんなに素晴らしい名盤がなぜ陽の目を見ないのか本当に不思議でならないのです。CD化や復刻が待ち遠しいかぎりです……。

 そこで次回からは3回に分けて、4作ごとにこの作品の魅力とそれぞれの名演奏を見ていきたいと思います!