ラベル 劇団四季 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 劇団四季 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2013年9月22日日曜日

劇団四季 ミュージカル「李香蘭」









史実に基づくドキュメンタリー

 この作品の初演は1991年ですから、もう20年以上も前から劇団四季のオリジナルミュージカルとして取り上げられてきたのですね。テーマは戦前のアジアを代表する大スターとして一世を風靡した李香蘭(山口淑子)が中国、日本の二国間の政治の板挟みに苦しんだり、時代に翻弄される激動の記録を綴ったドキュメンタリーです。とにかく当時の緊迫した世相がふんだんに盛り込まれており、かなり重々しい内容です。

 何せ、前半は日本の戦時下の歴史のおさらいをするように歴史の史実に基づいて劇が進行していくので、下手をするととても単調で暗い舞台になってしまいかねないのです。劇中で「満蒙は日本の生命線」と関東軍の軍人たちが歌う厳ついマーチが良くも悪くも強烈に印象に残ってしまいます。
 そのような意味でも、語り部のようにストーリーを進行させる川島芳子の存在がとても大きいように感じました。男装の麗人、川島芳子のキャスティングが魅力的であればあるほど、この重い史実をしっかりと記憶に留めることができる橋渡しになるのかもしれないですね。今回は樋口麻美さんが担当されてましたが、うってつけだと思います。抑揚のある演技に張りのある声、飽きさせない自然なユーモア等、見事だと思います。
 そして李香蘭役の野村玲子さんは初演からこの大役を担当されており、今回も堂々の香蘭役でした。途中別の方に役を譲ったこともありますが、今でも立派に香蘭になり切っているのですから凄いと言わざるを得ません!特に裁判のシーンの哀願する声の切実さ、深く感情移入した表現はやはり野村さんでないと……と痛感させられました。

 このミュージカルは李香蘭のストーリーというより、李香蘭が生きた時代の戦時下のドラマという気もします。なぜこのようなテーマをミュージカルにしたのかという賛否両論も当然あることでしょう。しかし、戦争の悲惨さや狂気を風化させないためにもミュージカルという形で結晶化させたことはとても意味があると思います。「海行かば」で戦火の彼方に無残にも散っていった兵士たちの映像や出撃する兵士たちの一言一言ににじみ出る切なくやるせない想い等々は関係される方々にとってはとても涙なくしては見れない場面でしょう。きっと深い哀悼の意味もこめられているのだと思います。


夢を見るような美しいシーンも随所に散りばめられて

 しかし、劇は決して重苦しいシーンばかりではありません。随所に夢を見るような美しいシーンが散りばめられているのです。
 例えば、父親の友人として家族ぐるみの交流があった李際春将軍の義理の娘分となり、「李香蘭」という中国名を与えられた時に流れる「中国と日本」の音楽の美しさは格別で、香蘭と愛蓮(香蘭の姉となった)の二重唱の美しさや形を変えて表現される合唱は古き良き時代の童謡の世界やプッチーニの蝶々夫人のような懐かしい雰囲気を醸し出していくのです。

 でも、特に感動したのは最後の20分ぐらいのところでしょうか……。劇の冒頭に出てくる裁判の法廷シーンがリプレイされるところあたりからなのですが、李香蘭を「死刑にすべきだ」という怒声があがる中で香蘭が自らの心情を吐露するように歌うナンバーが涙なくしては聴けない……。そして香蘭の身元がはっきりとして、裁判長が威厳と人徳の漂うバリトン調で朗々と歌うナンバーもひしひしと心の奥底に響いてくるのでした。そして二つの国の愛と信頼を祈る「中国と日本」のフィナーレも圧倒的な感動で幕を閉じていきます。

 改めて、演出の練りこまれた素晴らしさと音楽の美しさ、振り付けの変幻自在の素晴らしさ、そして四季の舞台に賭ける底力を痛感した演目でした!




2013年9月4日水曜日

劇団四季 ミュージカル「夢から醒めた夢」




「夢から醒めた夢」のポスター




年齢、性別を問わず楽しめる、四季オリジナルのミュージカル

 先日、以前から気になっていた劇団四季の「夢から醒めた夢」の公演に行ってきました。公演の20分ほど前に会場(四季劇場・秋)に到着すると、何とスタッフによるロビー・パフォーマンスのお出迎え! 公演を前にして廊下や階段で繰り広げられたミニショータイムは私に素敵な時間を与えてくれ、心地よい気分にさせてくれたのでした。

 この作品は、好奇心旺盛で元気な女の子ピコが、突然の交通事故で命を落とした女の子のマコと一日だけ入れ替わる約束をする話です。なぜそんな約束をしたのかというと……、それはマコと仲の良かったお母さんが今も深い悲しみに沈んでいることに対して、「会ってきちんと最後のお別れを言いたい」ということだったのでした。そこでピコはマコから預かった天国行きのホワイトのパスポートを持って霊界に入っていくのですが、そこで待ち受けていたものは!?……。

 開演するとミュージカル独特の華やかさが全開で、ワクワク感が増す中で舞台は特別な空間に変貌しました。ストーリーはわかりやすいし、劇の流れやテンポも軽快で間延びするところがまったくありません! 次々と展開されるエピソードは笑いあり涙ありでとても楽しいし、心に響きます。キャラクターの描き分けも絶妙で、それぞれが魅力的で愛すべき人たちなのだということがよく伝わってきました。
 噂には聞いていたものの、こんなに楽しい作品だとは思ってもみませんでしたね。結局、片時も舞台から目を離すことができませんでした。「ライオンキング」「キャッツ」のように大掛かりな作品ではありませんが、とてもよくまとまった傑作だと思います。本当にあっという間の2時間20分でした!




多くのメッセージが盛り込まれた作品

 この作品は制作スタッフのきめ細やかな愛情が注がれていることを強く感じました。生きることや人として大切なことをさりげなくエピソードとして盛り込んでいるところが心憎いですね!これを映画やドラマでやると何かと説教臭くなってしまうのでしょうが、そのような雰囲気はまったくありません。これもミュージカルの成せる技であり、素晴らしいところなのかなと思います。

 とにかく感動を盛り上げる要素には事欠かないですね!   振付は見事だし、演出のうまさも光ってるし、思わず鼻歌交じりに歌ってしまいそうな音楽の美しさ等々……、あげればキリがありません。そして何より歌とダンス、台詞が自然に無理なくストーリーにはまっているところが素晴らしいと思います。今回はキャスティングも良かったですね!特にピコ役の岡村美南さん、マコ役の土居愛美さん、夢の配達人役の荒川務さん、デビル役の野中万寿夫さんが印象に残りました。
 テーマや内容からいっても親子連れが多いのは当然なのですが、性別、年齢を問わず心から楽しめるミュージカルだと思います。

 この作品の原作者、赤川次郎さんがトークイベントのインタビューに答えていました。その中で「もし、このミュージカルに手を加えるとしたら、どの部分ですか」という質問がありましたが、これに対して赤川さんは「特にはないけど…世界中でテロや飢餓、内戦の犠牲になって死んでいく子どもたちの現状は今もまったく変わってない」と話し、「このような悲しいセリフを台本からカットできる時代になればいいですね」という内容の感想をおっしゃってました。確かにそのとおりで、科学技術の進歩はめざましいのに、戦争やテロ、飢餓の問題は現在でもほとんど解決されていません。この言葉はとても重みがあるように思いました……。

 「夢から醒めた夢」は文字通り「夢」を、そして「勇気」を与えてくれた素晴らしい公演でした。見終わってからしばらくの間は「二人の世界」や「愛をあげましょう」の歌のナンバーが頭の中で鳴り響いてました。どうやらすっかり舞台に魅せられてしまったようです。舞台終了後には出演された皆さんがロビーでお客様を見送りしたり、握手をしたりと素晴らしい想い出を演出してくださいました……。また機会があれば、足を運んでみたいですね…。