2014年2月25日火曜日

コロー 「モルトフォンテーヌの思い出」











夢の中の出来事を切り取ったかのような詩的な情景

 「あの時は楽しかったな」「小学校の頃に遊んだ光景が今も心に甦る…」「あの頃は見るものすべて輝いていた…」


心にいつまでもしまっておきたい大切な思い出を持っていらっしゃる方はきっと多いことでしょう……。
 コローの『モルトフォンテーヌの思い出』は、そのような誰もが持っている美しい記憶を絵に留めた稀有な作品と言えます。まるで夢の中の出来事を切り取ったかのような詩的な情景がこの絵には広がっているのです。
 コローといえば樹々を揺らす優しい風や柔らかな光が印象的なのですが、本作でもその魅力は充分に伝わってきますね。

たとえば、柔らかで落ち着いた色彩が湖に反射する優しい光を引き立てているし、木漏れ日がグレートーンの色調と美しく響きあってロマンチックな情緒を生み出しているのです。また、左方で小さな木を囲み無邪気に遊ぶ3人の女の子や所々で健気に咲く花々は、何気ない日常を靜かな幸福感で満たしてくれるのです……。


 でも、特に印象的なのは、風にそよぎ、光を浴びて豊かな表情を見せる湖にせり出す大きな木であることはいうまでもありません。この大きな木が見せる様々な表情は、絵に潤いや空気感、温もりを与える大事な要素となっているのです。コローの重要なモチーフとして、また主役として何度も彼の絵に登場する「木」ですが、おそらく彼にとって「木」とは心の機微を反映させる最愛・最高のモチーフだったのでしょう。