2012年10月5日金曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-3(9番-12番)




【合奏協奏曲 第9番 ヘ長調 HWV.327】
 合奏協奏曲作品6の中で最もメリハリがあり、壮麗で典雅なメッセージ性に富むヘンデルらしい魅力に満ちた作品と言っていいでしょう!。第2楽章の舞曲風のリズムをテーマにした陽気でエネルギッシュなアレグロは生き生きとしたドラマを展開していきます。驚くのは長調から短調への転調の自然さとシンプルなテーマから音楽が発展し、輝きを増してくるところでしょうか…。
 最も美しいのはあふれるような悲しみを音楽に託した第3楽章ラルゲットでしょう。このラルゲットはもはや悲しみという範疇を突き抜けた至高の音楽だと思います。これほど深い哀しみを描いた曲なのに不思議と心慰められるのは何故なのでしょうか? おそらく人の心の普遍的な感性に通じるものがあるからなのでしょう……。
 第4楽章の壮麗なフーガも見事ですし、第5楽章の神秘的な和音や第6楽章の広々としたジーグの魅力もなかなかのものです。

Karl Richter

(演奏)この曲はリヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団の独壇場です。第2楽章アレグロのメリハリの効いた自在な表情!ラルゲットの曲にひたすら没入する深い哀しみの表現。毅然として格調高いフーガ!晴朗でいて味わいが深い終曲ジーグ等々……。リヒターの表現はこの曲の魅力を最大限に描き出してやみません! 合奏協奏曲作品6の演奏にしては少々重たすぎるのではという懸念はこの曲に関する限りまったくあてはまりません。むしろ、ここまで曲の意味を抉り出し、透徹した響きを生み出したリヒターに拍手を送りたいくらいです。まさに第9番の唯一無二の演奏と言っていいのではないでしょうか。


……………………………………………………………………………………………


【合奏協奏曲 第10番 ニ短調 HWV.328】
 非常に充実した作品です。全体は強靭な精神性と音の塊の中に次々と意味深い主題やメロディが現れます。息もつけぬほど密度の濃い響きの連続に心が大きく揺さぶられますね。孤高で厳しい表情は深まる秋の憂愁や冬の冷たい空気を伝えるかのようです。しかし、曲の内面では絶えず熱い炎が燃え上がっているのです!
 傑作なのはフィナーレのアレグロ・モデラートでしょう。それまでの緊迫した雰囲気とは180度違う(!?)と言ってもいいほどの無垢で明るい主題なのです。正直言ってこのあまりの違いに困惑してしまう方は多いのではないでしょうか? しかしこのような形で曲を終わらせたかったヘンデルの意図は意外と深いものなのかもしれません……。

August Wenzinger(Board Highlights LP)


(演奏)ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームの演奏は完璧です。どこにもデフォルメしたり、無理に力を加えたような雰囲気がないのに、あふれる音楽性、深い意味、自然な呼吸。その芸術性の高さにすっかり魅了されてしまいます。どこをとってもこの曲で考え得る限りの最高の味わいを堪能させてくれる演奏と言っていいでしょう。


……………………………………………………………………………………………


【合奏協奏曲 第11番 イ長調 HWV.329】
 まず、愛嬌を振りまくように親しく語りかけるテーマの第1楽章が印象に残りますね…。しかし展開部ではソロヴァイオリンと合奏の緩急の変化が曲を多彩に発展させ盛り上げていきます。

 第3楽章ラルゲットの小鳥のさえずりを聴き、雲の流れを見つめるような叙情的で美しいメロディ……。そしてフィナーレのアレグロの澄みきった青空を無限に飛翔するような自由なメロディと快適なテンポが最高です!





Orpheus Chamber Orchestra
August Wenzinger(Board Highlights LP)

(演奏)現状ではオルフェウス室内管弦楽団かヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームあたりがベストかと思います。この曲は第4楽章のラルゲットとフィナーレのアレグロが曲の印象を大きく左右します。その点で前記2盤は他を大きく引き離しているのです。

……………………………………………………………………………………………




【合奏協奏曲 第12番 ロ短調 HWV.330】
 この作品は全12曲の中では比較的に馴染みが薄く、特徴が弱いと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、この作品独自の魅力は充分に備わっています! 第1楽章のプレリュードは魂の孤独を切々と訴える深遠な音楽です。そして第2楽章アレグロはヴィヴァルディの協奏曲のメロディによく似ていますが、中間部での目眩く展開される心の嵐が凄く、激しい慟哭さえ感じさせます。
 第3楽章のラルゴは諦観さえ伝わってきます。一切の飾り気を排したしみじみとした心の音楽は見事というしかないでしょう……。中間部のソロヴァイオリンの美しさも心にしみます。


Orpheus Chamber Orchestra


(演奏)オルフェウス室内管弦楽団の研ぎ澄まされたアンサンブルが最高に力を発揮した作品です。とにかく弦のしなやかさ、音楽性の高さ、無駄のない造型に唸ってしまいます。素晴らしい録音がそれに輪をかけます!