「サウル」は以前もお話しましたように、ヘンデルのオラトリオの中でも屈指の傑作ですが、それだけでなく彼のすべての作品を含めても最高傑作の一つと言っていいのではないかと思います。たとえば、冒頭の序曲に続く10分ほどにも渡る民衆の声を表現した壮大な合唱やフィナーレのダビデを讃える合唱等はそれだけでも血湧き肉躍る感じですね! 最近のCDではヤーコブス、マクリーシュ、ブッダイ、リリングと充実した名演奏が相次いで世に出されました。隠れた名曲が再認識される意味でも、これは本当にうれしいことですね!
クリストファーズの端正な指揮やシックスティーンの抜群の音楽性とテクニックは誰もが認めるところでしょうが、正直言って今まで彼らの演奏で感動したことはほとんどありませんでした。表現があっさりしているというのか、「もっと作品の魂の部分に迫ってほしい……」、という物足りなさをいつも感じていたのです。
しかし2000年以降録音された最近のディスクはこれまでとは違い、一皮も二皮も剥けた素晴らしい演奏を繰り広げるようになったのです。その代表例がビクトリアの「聖週間のレスポンソリウム集」やヘンデルの「メサイア」、「シャンドス・アンセム」(いずれもcoro)なのですが、かつての録音とは比べものにならないくらい深みを増し、表現にも磨きがかかってきました。
ここだけに限らず、第二部の最後の合唱「ああ、怒りを抑えられずに」、フィナーレの「権力ある英雄よ」等、変幻自在な歌唱スタイルと虹のように溶け合う至純のハーモニーが合唱の奥深さと醍醐味を実感させてくれます!
また、通常カウンターテナーで歌われることの多いダビデですが、ここではアルトのサラ・コノリーが歌っています。コノリーは繊細で奥ゆかしい表情を見事に表現しており、カウンターテナーではもの足りないと思われていた方にとっても最高の贈り物となったのではないでしょうか。
とにかく録音、歌、雰囲気どれをとっても最高で、音楽を聴く喜びを改めて実感させられたひとときでもありました。