2013年6月22日土曜日

モーツァルト ピアノソナタ第13番変ロ長調K.333






ロココ芸術時代に光るモーツァルトの才能

 18世紀のフランス・ルイ王朝時代に絢爛豪華な装飾美で全盛を誇ったのがロココ芸術でした。絵画ではヴァトー、フラゴナール、プーシェ、ラ・トゥール、音楽ではクープラン、ラモー、スカルラッティら錚々たる顔ぶれが珠玉の美を競い合った時代です。そのロココ芸術全盛時代の中にあって、モーツァルトの才能はとび抜けていたことは疑う余地がありません。
 モーツァルトも例にもれずロココ調のスタイルで作曲しており、ともすれば優雅で気品あふれる音楽をつくった作曲家と思われがちです。もちろん、優雅さは彼の持ち味の一つかもしれませんが、彼の魅力がそのようなところにあるのではないことは明らかでしょう。
 むしろ、モーツァルトの真価はそのようなエレガントな情緒の奥に潜む心の真実であったり、微笑みの裏に隠された涙であったり……痛切に心を抉るメッセージの輝きなのですよね……。それは一見明るく響く交響曲第36番「リンツ」、第38番「プラハ」、ピアノ協奏曲第22番K482、フルートとハープのための協奏曲……等も同様なのです。


明朗でエレガントな魅力に満ちた作品

 モーツァルトのピアノソナタk333は前述のようにロココ調の流れを汲む代表的な作品の一つだと思います。
 規模が大きいだけでなく、明朗で親しみやすく、それでいてエレガントな曲調がたまらない魅力の作品です。様々なパッセージの転調や分散和音の進行があるにもかかわらず、音楽そのものに破綻が生じない天性の感覚、構成の見事さも挙げなくてはならないかもしれません。
 そして、忘れてはならないのが鼻歌を口ずさむように奏でられる大らかで豊かな愛の旋律でしょう。このことがK333を何倍にも魅力的にしていると言ってもいいと思います。第一楽章と第三楽章のひとなつっこく語りかける親しみやすい口調…。決して深刻に人生を捉えているようには思えない曲の雰囲気なのですが、よく耳を傾け心を無心にして聴くと無邪気で美しい表情が次々と浮かび上がってきます! 第2楽章の夢見るような美しい旋律も深い余韻を残してくれます。


圧倒的な素晴らしさ。クラウスの名盤

 演奏はリリー・クラウスのステレオ録音(CBS)が圧倒的な素晴らしさです!この曲を軟弱に弾いてしまうと曲の魅力が半減してしまうのですが、クラウスにはそういう心配はまったくありません。よく引き締まった造型と自信に満ちたタッチ、感性豊かな音色にたちまち引き込まれます。1956年のモノーラル(EMI)も素晴らしく、クラウスがこの曲と抜群に相性がよかったことを改めて実感させてくれるのです!



2013年6月16日日曜日

独断で選ぶ俳優の名演技が印象的な映画BEST10




以前の音楽が印象的な映画に続き、今回はやはり「独断で選ぶ俳優の名演技映画BEST10」を選ばせていただきました。選んだ結果を見て、相変わらず古い映画ばかりで……、2000年代はおろか1980、1990年代の映画が一作も無いという事になってしまいました。
これでは「クラシック映画BEST10だろ!」と言われても仕方がないのですが、やはり自分の気持に正直に選んだ結果なので仕方がないか(?)と思っています。





(エデンの東 ジェームス・ディーン
まさにこの映画の主役を演じるために生まれてきたように思えるジミーのハマり役。どこからどこまでが演技でどこまでが本当の彼の姿なのかわからなくなるほど…。この1作だけでも彼の名は人々の心に永遠に記憶されることでしょう。

(ローマの休日 オードリー・ヘップバーン)
この映画はヘップバーンの存在なくしては成立しない映画でしょう。それほどまでにヘップバーンの魅力に世界中が瞠目したのでした。ヘップバーンを起用したワイラーのキャスティングも見事。キュートな女性を演じながらも女王役としての気品も兼ね備えた彼女の魅力が最高に引き出された映画。

(秋のソナタ イングリッド・バーグマン)
往年の名女優バーグマンが親子の心の葛藤を描いた作品に母親役で出演しています。かつてのヒロインとはかけ離れた姿にバーグマンの本気度が伺えます。

(野いちご ヴィクトル・シェストレム)
老いて人生の終焉に近づいた時、「自分の人生は何だったのだろうか」と苦悩する大学教授をシェストレムは人生をしみじみと語るように自然体で演じ切っています。この演技は深い内面の世界に光をあてた一つの奇跡といっても過言ではありません。

(太陽がいっぱい アラン・ドロン)
アラン・ドロンといえばこの映画。クールで孤独感を湛えた表情がこの映画に深い陰影をもたらしています!

(素晴らしき哉、人生! ジェームズ・スチュワート)
様々な挫折を経ながら立ち直っていく主人公を振り幅の大きい感情表現で、共感を持って演じています。

(老人と海 スペンサー・トレイシー)
一人で登場するシーンが全編のほとんどを占めているという異色の映画。当然俳優の存在感と並外れた力量がなければ持たない映画であることは間違いありません。

(道 ジュリエッタ・マシーナ)
マシーナの演じた愛らしく哀愁に満ちた不幸なヒロインはあの名曲と共に決して忘れることはできないでしょう。

(群衆 ゲイリー・クーパー)
正統的ハリウッドスターだったクーパーですが、やはりこういう良心的な役柄を演じると光るものがありました。

(アパートの鍵貸します ジャック・レモン)
笑いあり涙ありの傑作ですが、コミカルで憎めない人物像をレモンはいい味を出していました。