2010年6月26日土曜日

ブラームス ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83



 

 ブラームスのピアノ協奏曲第2番は協奏曲史上、屈指の名作であることは間違いありません。では、ブラームスの協奏曲はどこが凄いのかというと、管弦楽の強靭さと 抒情的な美しさが一体となっているところがあげられると思います。一般的に協奏曲というと、一つの楽器をメインにして主旋律を奏し、後は管弦楽がソロ楽器の引き立て役として伴奏につくというスタイルが通例になっています。

 しかし、ブラームスの場合はピアノ協奏曲にしても、ヴァイオリン協奏曲にしても、管弦楽は伴奏ではなく、あくまでも協奏ならぬ共奏なのです。 そのことがソリストにとって大変に弾きがいがあるところなのですが、絶えず極度の集中力が要求され、ソロ楽器というよりも最重要なパートを演奏するかのような難しさがあるのです。

 ピアノ協奏曲第2番ですが、これは円熟した表情と風格のある構成 が一体となった見事な作品です。第3楽章の長い前奏に彩られたメ ロディーは決して華美ではないものの、チェロやファゴットを中心に憂いを帯びた深い心の響きを伝えます。ピアノと管弦楽のかけあいの中で、心の嘆きや孤独、別離といったさまざまなシチュエーションを展開しながら盛り上がり、最後はしみじみと人生を回想するかのように曲を閉じます。

 第1楽章の朗々としたホルンの響きから始まる導入部分は、まるで夕映えの大地を感慨深く眺めているかのようで印象的です。それに続くパッセージもピアニストにとってまったく息が抜けない場面が連続し、曲も最高に充実したフレーズがめくるめく展開していきます。

 但し、第1楽章の強靭な意志の表示や第2楽章の立体的な造形、第3楽章の人生を回想するしっとりとした抒情と比べると、 フィナーレの肩の力をふっと抜いて、純粋に可憐に歌うメロディーは大変魅力的ではあるけれど、やや深みに欠ける気がしないでもないのです。

 演奏はデッカに録音されたバックハウスのピアノとカール・ベーム指揮ウィーンフィル盤が文句無しの素晴らしい演奏です。先ほどもお話しいたしましたようにこの曲は、ピアノと管弦楽のどちらかに比重が傾いても良くないのですが、この演奏は両者ともに、高次元なレベルで最高のバランスを保っています。しかも、お互いに一歩もひかず最高にドラマチックな演奏を繰り広げていくのです。ブラームスが伝えたかった強靭な魂や抒情的な美しさもこの演奏によってこそ、本当の意味が刻印されたといっても過言ではありません。







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2010年6月22日火曜日

モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」ニ長調K.385







底抜けに明るく、輝かしく若々しいスピリット

 皆さん、モーツァルトの交響曲として、真っ先に思い出される作品といえば何が浮かんできますか?おそらく多くの方は40番、41番「ジュピター」、25番あたりを挙げられることでしょう。逆に曲は有名だけれど、あまり印象に残らない曲といえば、意外と多くの方が交響曲35番「ハフナー」あたりを挙げられるのではないでしょうか。
 ハフナーは全体的に短い曲ですし、性格自体も祝典的な音楽のようで、今ひとつ心に深く沁みる…。というのとは違うようです。でも、底抜けに明るく、輝かしく若々しいスピリットを感じさせるこの作品は、いつでも悩める人に微笑みかけてくれる魅力作なのです。しかも、この曲はいくらでもデフォルメ可能ですし、聴く人を絶えず驚かせ、楽しませてくれる予感が期待できる音楽なのです。

 この曲には忘れられない演奏があります。カール・シューリヒトが1956年(ステレオ最初期)にウィーンフィルを指揮したものがそれです。大学生だった私は、バーンスタインの「リンツ」がいいという評判を聞きつけ、ぜひ聴いてみたいと思いカセットテープを購入しました。そのバーンスタインの「リンツ」のB面に入っていたのがシューリヒトの「ハフナー」だったのです。


忘れられないシューリヒトの演奏

 当時、シューリヒトの「ハフナー」はバーンスタインの演奏の付録くらいにしか考えていませんでした。最初に聴いたバーンスタインの演奏は案の定素晴らしく、メリハリが利き情感豊かな本当に魅力的な演奏でした。

  では、シューリヒトの「ハフナー」はどうかというと、第一楽章の最初から楽器のアンサンブルが微妙にずれ、「これって本当にスタジオ録音なの?」と思うくらい自由奔放で即興的な雰囲気に満ち満ちたものだったのです。しかし、曲が次第に盛り上がるにしたがって、楽器の響きは生き物のように多彩な表情を生み出し、刻々と表情が変化し、さまざまなニュアンスを高い芸術性と共に伝えてくれたのです。それはこれまでに聴いたことのない高い演奏芸術の究極的な姿のひとつでした。音楽を聴く喜びを素直に教え、再認識させてくれたのがこのシューリヒトの演奏だったのです。
 それからしばらくの間はすっかりシューリヒトの芸術の虜になり、彼の残したモーツァルト、ハイドン、シューマン、ベートーヴェン、ブルックナー等の演奏を次々と聴きました。息もつかせぬ表現をあっさりとやり遂げてしまうシューリヒトの凄さにしばらくの間、舌を巻き、大いに感動したものでした。








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