絵画の概念を覆す
画期的な作品
マネの代表作「笛を吹く少年」は、現在東京・国立新美術館で開催されているオルセー美術館展(2014年7月9日~10月20 日)に展示されています。この絵はちょっと見るとアカデミックで正攻法の代表的な絵のように見えるかもしれません。
しかし、よく見ると空間の処理や輪郭線の扱い等に大胆で個性的な処理が施されていることにお気づきになるのではないでしょうか。
背景の扱いについては17世紀スペインの巨匠ベラスケスが描いた「道化師パブロ・デ・バリャドリード」に強い影響を受けていると、マネ自身も語っています。
形に左右されるのではなく、空気のように人を包み込む大きさと拡がりを持つ背景の表現をベラスケスの絵を見て大いに共感したからなのでしょう。この絵でも背景の処理の的確さが現実世界に埋没してしまいかねないところを救っているようにも見えますね……。
際立つ構図と輪郭線
目を引くのは輪郭線の存在感と構図の見事さでしょう! ひとこと付け加えておくならば、マネは決して明確な輪郭線を描いたわけではありません。 というよりは黒い帽子から黒い制服、そしてズボンの黒いライン、黒い靴に至るまでの巧みな黒いラインの誘導が輪郭線を感じさせるのです……。
このことが意外に平面的で凹凸がなく、写実的な描写を極力排したピンポイント的な少年の姿を強く浮かび上がらせるようになるのです。
また、頭のほうから足先に向かって弓のようにしなやなかに導き出される複数のカーブはこの絵によりいっそう動きと安定感を与えていますし、笛と笛、そして足先に至る三角形の直線的な構図は緊張感が漲り、存在感を際立たせています!
無邪気で元気な笛を吹く少年の姿を伝えようとしたマネの画期的な描画は、さまざまな試みによって今なお私たちの目と心に新鮮に語りかけてきます……。