2016年9月21日水曜日

ルーベンス  虹のある風景










人々の生活を反映した
エネルギッシュな自然の姿

 風景画は描いた人の人柄や人生観が絵に表れやすいとよく言われます。

 ここで紹介する「虹のある風景」は歴史画、人物画の大家としてバロック絵画の頂点を極めたルーベンスが晩年に描いた風景画です。ルーベンスといえば筋骨隆々とした力強く豊満な肉体の人物画を描いてきた人としてあまりにも有名ですね。

 でもそのルーベンスが晩年になると次第に農夫や動物たちをを配置した風景画を描くようになります。これはどういうことなのでしょうか……。
 もちろんルーベンスが外交官という多忙な職を離れたということもあるでしょうし、故郷のアントウェルペン(現在のベルギー)郊外に家を購入したことや気持ちの余裕が出てきたこともあるでしょう。
 少なくとも若い頃のルーベンスは風景画を描くという発想がなかったようです。いや、風景画を描く機会に恵まれなかったといってもいいでしょう。

 これは推測ですが、若い頃からその才能を認められ、宮廷で精力的に絵を描き続け、外交官としても重要な職務をこなし、そのうえ富と名誉にも恵まれたルーベンスが晩年に至って自分自身を見つめる……、そのような心境に至ったとしてもまったく不思議ではありません。

 とはいえ、この絵でもルーベンス独特の力強く人生を肯定するような画風がはっきりと認められます。たとえば、くっきりと空に浮かび上がった虹や、まばゆいほどに大地を照らす光は印象的ですし、大気の状態を表す空や雲の多彩で奥行きのある表現、木々が放つムンムンするような空気感は本当に見事です。
 それは安らぎや心の原風景を届けてくれるような自然の姿ではなく、人々の生活を反映した生命力に溢れたエネルギッシュな姿なのです。