2014年6月19日木曜日

モーツァルト アヴェ・ヴェルム・コルプスニ長調 K.618











モーツァルトの手にかかれば
品性のない脚本も、空前の傑作に!

 モーツァルトはオペラの作曲に並々ならない野心を抱いていました。特に「フィガロ」や「ドン・ジョバンニ」、「コシ・ファン・トゥッテ」等のオペラで、コミカルな味わいを加えながらも、人間の醜さや愚かさを痛烈に風刺した作品をつくりあげたのです。

 ベートーヴェンはその偉大なオペラについて、「音楽に関しては最高で何も言うことがないのだが、それにしても脚本もテーマも悪ふざけが過ぎるのでは……」と自堕落な内容を批判したことがありました。自分にはそのような品性のないテーマに音楽をつけることは出来ないと‥‥。

 これは人それぞれの価値観や芸術的なポリシーによって考え方も変わってくることでしょう。「ダメならダメ」で話も簡単に終わることと思います。しかし、厄介なのはモーツァルトが書いた音楽のあまりの素晴らしさです! その音楽があまりにも生き生きとして、流れがあり、現実を離れた夢の世界を築き上げる等、魅力に満ちていることが、それぞれを名作オペラに押し上げたのです。

 現実を音楽で皮肉ったり、鼻歌交じりに音楽を作ったり……と、モーツァルトに関わるエピソードは事欠きませんが、それこそがモーツァルトの天才の証しと言えるのでしょう。


温かく、深いモーツァルトの
「アヴェ・ヴェルム・コルプス」

 しかし、一皮むけばモーツァルトは内心では人生に対して真剣で、絶えず心の故郷や心の安息地のようなものを尋ね求めていたことは間違いありません。そのような想いが作品として結実したのが、ここに紹介する「アヴェ・ヴェルム・コルプス」だと言っても過言ではないでしょう。

 この作品は主にカトリックの聖体祭のミサで歌われる賛美歌で、イエス・キリストの永遠の復活を心に刻むものです。モーツァルトがこの詩にどのようなインスピレーションを受けたかは知る由もありません、ただ、音楽から伝わってくるメッセージはどこまでも温かく、深い…。たとえようのない愛に満ちているとしか言いようがありません。
 
 それにしても、この穏やかで安らぎに満ちたメロディ……。何とも言えない陰影と透明感に満ちたハーモニーは至福の時間を与えてくれます。そして、1小節ごとに悠久への祈りが込められた絶妙な転調は、深い愛や永遠への強い想いを痛感させてくれるのです‼ 至高の名曲という言葉があるとするならば、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」はそれに充分にふさわしい作品と言っていいでしょう!
 演奏しても7分少々の短い作品ですが、私はサン・ピエトロ大聖堂にある名作ミケランジェロの「ピエタ」に匹敵するような素晴らしい作品ではないかと思うのです。

 CDではこれが絶対というほど推薦できる本命盤は現在のところありませんね。それほど音楽に無駄がなく、本質的なメッセージに溢れているため、音として記録することは至難の業ということなのでしょう。
 あえて挙げれば、ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン(エラート)の演奏がいいです。透明感のあるハーモニーが美しいし、靜かな情感がひたひたと伝わってきて音楽の真髄を味わうことが出来ます。




2014年6月16日月曜日

クールな男とおしゃれな女 ―絵の中のよそおい―









ファッションの観点から
日本画を見つめた展覧会

 この展覧会のタイトルですが、今の時代感覚を反映した気の利いたタイトルですね!
 しかもこれを主催しているのが、日本画の名画コレクションで有名な硬派()で知られる山種美術館ですから、尚更のことです。
 チラシを見て最初に思ったのが、白地を基調にして日本画の人物像を左右に配置したレイアウトって、とっても新鮮なんですね! 線や色彩もそうですが、きめ細やかで何とも言えない爽やかさもあります……
 改めて日本画の人物の魅力の一端を垣間見た(⁉)ような気もします。

 今まであまり触れなかった日本画の人物画ですが、こんな面白い発想と視点で企画が打ち出された展覧会ですから、時間があれば(いや、なくても)是非とも行ってみたいと思います。

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 「クール・ジャパン」が一つの流行語にもなりつつある昨今、流行がめまぐるしく移り変わるファッションの世界においても、日本人の美意識を活かした洋装や、伝統的な和装を楽しむ人が増えています。特に最近は、美術館が和服を着て出かける場所としても好まれ、当館でも年間を通して、多くの美しい着物姿の来場者を迎えています。こうした現象は、日本人が古くから培ってきた美意識や文化が注目され、そこに新たな価値観が見出されてきた証といえるでしょう。
 一方、西洋文化が入ってきた近代以降は、洋装に身を包むダンディな男性、トップモードで着飾る女性も時代のファッションリーダーとして常に注目される存在でした。こうした各時代の特徴あるファッションは、画家たちをも魅了し、近世から現代にいたる様々な絵画作品の中に描かれていきました。日本の絵画の中の 「よそおい」もまた、時代とともに変遷し、流行を敏感に映し出しているのです。
 女性像では、伊東深水が描く女優・木暮実千代の華やかな洋装、鏑木清方の艶やかな女性や上村松園の清楚な娘の和装。さらに、洋画家・安井曽太郎や林武が描く小粋な衣服。こうした作品には、顔の表情だけでなく装身具や髪形、色の組み合わせにも、人物の個性や魅力が巧みに描き出されています。随所に表れた画家の美意識や色彩感覚を味わい、着こなしのヒントを発見しながら、絵の中のファッションを思い思いにお楽しみいただける展覧会です。
(美術館サイトより)



クールな男とおしゃれな女―絵の中よそおい
日時:2014年5月17日(土)~7月13日(日)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10:00~5:00(入館は4:30まで)
休館日:月曜日
入館料:一般1000円(800円)・大高生800円(700)円・中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金および前売料金。
※障がい者手帳、被爆者手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)は無料。
※きもの割引:会期中着物での来館者は、団体割引料金(一般:800円、大高生:700円)。さらにプチギフトを贈呈。※会期中展示替えあり。
前期 5月17日(土)~6月15日(日)、後期 6月17日(火)~7月13日(日)
【出品作品】   
クールな男
東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》(後期展示)、 小林古径《蛍》、 安田靫彦《出陣の舞》、 前田青邨《異装行列の信長》、 守屋多々志《慶長使節支倉常長》
おしゃれな女
喜多川歌麿《青楼七小町 鶴屋内 篠原》(前期展示)、 上村松園《杜鵑を聴く》《春のよそおひ》、 鏑木清方《伽羅》、 山川秀峯《芸者の図》、 伊東深水《婦人像》、 橋本明治《月庭》《舞》
粋な男女
鈴木春信《柿の実とり》(後期展示)、 鳥居清長《社頭の見合》(後期展示)、 池田輝方《夕立》など、全約60点。
※上記作品はすべて山種美術館蔵。
※出品内容には変更が入る場合あり。
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)