この映画はルイ・マル25歳の時のサスペンス映画の傑作です。この作品によってルイ・マルの名声は確立したといってもいいでしょう。
モーリス・ロネ扮する主人公が愛人の夫を殺し、すべては完全犯罪のシナリオが成立したかのようでしたが……。ふとしたことからエレベーターに閉じ込められてしまい、そこからシナリオは大きく崩れていってしまいます。それは崩壊への序章だったのでした。最後の思いがけない結末に至るまで、すべては偶然の一致による状況証拠がストーリーを二重にも三重にも面白くさせるのです。
ルイ・マルの演出は素晴らしく、冒頭のシーンから日常に潜む運命のいたずらを見事に表現し、見る者を釘付けにします。クールな殺人者を演じる モーリス・ロネや薄幸の愛人役のジャンヌ・モローも迫真の演技で、この作品を盛り上げています。そして、クールで救いようのないムードをさらに引き立てるのが、マイルス・デイビスのトランペットを基調にした音楽です。夜の静寂にこだまするようなこの音楽は白黒の画面と相まって独特の雰囲気を醸し出ています。
それにしても自らが引き起こした事件に翻弄され、動揺や焦燥感を募らせる当事者の心理的側面を憎らしいほどにうまく描いており、ただ、ただ、「悪いことはできないな……」。と痛感させられるばかりです。
本作は近々、デジタルニュープリント版でリバイバル上映されるとのこと。フランス映画黄金時代のサスペンス傑作に触れたい方は、是非この機会にご覧になってみてください。