2010年9月30日木曜日

グリーグ ピアノ協奏曲




有名なピアノの運命的な主題


9月の下旬を迎えて、ようやく涼しくなってまいりました。「やれ、やれ」と胸を撫で下ろしていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。9月中旬までの異常な暑さを思うと、もしや10月まで真夏日が続くのかと思っていましたが、それはどうやらなさそうですね!
さて、今回はグリーグのピアノ協奏曲を取り上げたいと思います。この曲を知らなくても、第1楽章冒頭の「タン、タタタン!」と奏されるピアノの運命的な主題を聴いたことがあるという方はきっと多いのではないでしょうか。それほど映画やTV等の様々なシチュエーションで流される頻度の高い印象的なメロディなのです。
 1楽章は暗く冷たい雪に覆われた大地を連想させるのですが、やがて少しずつ花が咲き始め生命の息吹の到来と共に穏やかな春の到来をも想わせます。ここでは変わりやすい北欧の天候のように陰鬱な気分から春を求めて希望に溢れるメロディまで、実に様々な表情が繊細に描き出されます。叙情的なチェロの響きに支えられ、渋く高貴な情感が見事に表出されていきます。第2楽章も牧歌的で静かな祈りや瞑想を想わせる美しい旋律が、弦によって奏されていきます。決してカラフルで抜けるような青空になることはないモノトーン主体の楽想ですが、清涼な澄んだ空気が辺りを包み込み、ピアノと弦楽器の絡みの中で美しく装われていきます。
第3楽章になるとピアノが自在に活躍するようになり、オーケストラもそれに応えるようにダイナミックな展開をみせていきます。全楽章でここが最も演奏効果があがるところですが、中間部ではフルートが歌う旋律がオーロラのような神秘的で叙情的な雰囲気を醸し出し、曲の味わいを盛り上げていきます。
神秘的な曲調、ピアノが奏でる内面的な独白や瞑想、ヴィルトゥオーゾ的な演奏効果等、この曲の魅力は尽きません。今後も多くのピアニストを魅了していくのでしょう。

演奏はリヒテルのピアノとマタチッチ指揮モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団がさまざまな要素を最もクリアした演奏といえるかもしれません。リヒテルの流麗なピアニズム、マタチッチの剛毅でスケール豊かな指揮は白熱した迫力を生み出しています。





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2010年9月27日月曜日

ベートーヴェン 交響曲第6番作品68












自然に対する深い感謝と愛情 

 言うまでもなく、ベートーヴェンの交響曲は9曲ともに甲乙つけ難い傑作揃いです。ベートーヴェンの交響曲の本当の素晴らしさはライブでより発見できることでしょう。

  なぜなら、尋常ではない緊張感と強い集中力を要求される彼の音楽は生々しい音の響きが炸裂する現場の空気に触れ合うことによって強力なエネルギーを発散させるからなのです。
 ですから、お気に入りの指揮者がベートーヴェンの交響曲を振る時は躊躇することなくチケットを購入されることを強くお勧めします。きっと何かしら心に残る名演奏が展開されるのではないでしょうか

  ところで、失意のどん底や孤独、生きる悲しみを描き、人間の生々しい精神の声を表現することにおいてベートーヴェンの交響曲は他に並ぶものがありません。もちろん、そのような苦しみに埋もれるだけではなく、自分を奮い立たせながら希望と勝利への道筋を求めていくベートーヴェンの姿があらゆる人の心に強烈なメッセージを刻み込んでくれるのです。
  そんなベートーヴェンが作曲した激しい緊張感や慟哭とは唯一無縁の作品が交響曲第6番「田園です。ただし、底抜けに明るいのとはちょっと訳が違います。深さを湛えながらも、決して重くならず、ゆとりと柔軟さを持った気持ちのいい明るさを保っているのです。この気持ちのいい明るさこそ、ベートーヴェンの自然に対する深い感謝と愛情がにじみ出ている証拠なのではないでしょうか。

  何度聴いても感動と発見があるのはきっとそのためなのでしょう!単なる自然の描写ではなく、人間の心のフィルターを通して抽出された自然への体感が崇高に美しく描かれているのです。これを聴くとベートーヴェンという人は音による最高の哲学者でありながら、最高の詩人だったのではないのかと痛感させられるのです。

  演奏はカール・ベームがウィーンフィルを振った1976年の録音が大変な名演です。この作品の根底にある雄大さや金管楽器、ティンパニ等の生々しい響きを引き出すことに成功しています。また、ウィーンフィルの持ち味である柔らかさに迫力を付け加えて実に雄弁な演奏を繰り広げています。同じく1977年のウィーンフィルを同行してのライブも素晴らしく、ベームはこの曲に関してはウィーンフィルとの相性が抜群だったのですね。




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