2013年12月19日木曜日

ミシェル・ルグラン 「ロシュフォールの恋人たち」サントラ盤
















フランス版ミュージカル映画

 「ロシュフォールの恋人たち」はいろいろな意味で懐かしい映画ですね。
 ジャック・ドゥミ監督が名作「シェルブールの雨傘」に次いで発表したミュージカル映画だということ。ミシェル・ルグランの音楽があまりにも素晴らしかったこと……。カトリーヌ・ドヌーブが前作に引き続き主役を務めていたこと。ドヌーブの実のお姉さんフランソワーズ・ドルレアックと共演して息の合った演技をみせていたこと……。そのドルレアックが本作を最後に帰らぬ人になってしまったこと……。往年のミュージカルの大スター、ジーン・ケリーが元気な姿を見せていたこと……。ウエストサイド物語で私たちの心を奪ったジョージ・チャキリスが相変わらず華麗なダンスを見せてくれたこと……。

 ちょっと想い出すだけでも様々なエピソードや情景が甦ってきます。
 映画のセットもお洒落でムードも雰囲気もあり、映像も色彩豊か。フランス版のミュージカル映画がハリウッドのミュージカル映画とは一味も二味も違うことを痛感させられた作品でした。



映画史に残るミシェル・ルグランの音楽

 それにしても素晴らしいのはミシェル・ルグランの音楽でしょう!
 前作「シェルブールの雨傘」ではオペラのように全編セリフに至るまでメロディで埋め尽くし、その美しい音楽にため息が出たものです…。「ロシュフォールの恋人たち」でもルグランの音楽は快調で、様々な登場人物の性格を描き出すのに絶大な貢献をしています。
 スタイリッシュなリズムの祭典であったり、エレガントな雰囲気を醸し出したり、デリケートな情感を表出したり……。 音楽に理屈っぽさはなく、無理なく身体の中にしみこんでいく感じなのです。それもそのはず、彼はジャズ、クラシック、ポップス、マンボ、ボサノヴァ等の様々なジャンルの音楽を実に巧みに融合しつつ、それをルグラン流の卓抜なセンスで結晶化させているのです!  
 映画のサントラというと普通はメインテーマに趣向を凝らして、あとは数曲がとりあえず魅力的かな⁇という場合が多いのですが、このアルバムはまったく違います。全曲を聴き通していただければお分かりいただけるのですが、いわゆる凡作がまったくありません。練りに練られた完成度の高いナンバーが勢揃いなのです。どれもパワフルなバイタリティに溢れていてキラキラ輝いているし、思わず曲に引き込まれるような魅力に満ちています。
 仮に映画を見ていなかったとしても、映画のシーンが浮かんでこなかったとしてもこのアルバムは純粋な音楽アルバムとして聴く価値が充分にあると言っていいでしょう! サントラ盤として、アルバム全体としての出来ばえは「シェルブール」以上かもしれませんし、おそらく今後も映画音楽史に輝く永遠の名盤として語り継がれていくのかもしれません。




2013年12月16日月曜日

カーペンターズ 『クリスマス・ポートレイト』












クリスマスの雰囲気が希薄に

 今年もクリスマスの季節がやってまいりました。12月に入ってから各地でショーウインドウ のクリスマスの飾り付けやイルミネーションが始まってますね!今年は表参道のイルミネーションも復活するとか……。楽しみです。
 でも最近は昔に比べると、なぜかクリスマスらしい雰囲気が希薄です。昔のクリスマス時期のたとえようのないワクワク感や神聖な雰囲気は一体どこへいってしまったのでしょうか…? 思えば昔、クリスマスの日というと雪がちらつくことも珍しくありませんでした。それが冬の風物詩としての神秘的な雰囲気を一層盛り上げたことは間違いないでしょう。ところが最近は温暖化の影響なのか、冬を冬として捉えられない日も決して少なくありません。特に日中の眩しいばかりの強い日差しはとても冬とは思えませんね。
 それと時代の流れなのか、ネット革命によって暮らしは便利になったものの、便利さとの引き換えに人は多くのものを失ってしまったようにも思います。その一つに季節、時間、場所に関係なく、欲しいものがあればいつでも取り寄せられる便利さがかえって人の心の時間・空間感覚の麻痺を生み出してしまったのではないでしょうか。あり余るほどの情報の渦に溺れ、忙しくなるうちにひとつのことにじっくりと心を寄せることが難しくなってきました。家族が揃ってクリスマスをお祝いするという昔の習慣も今やバレンタインデーやハロウインのようなお祭りの一つになってきているのではないでしょうか。


魅力いっぱいカーペンターズのクリスマス・アルバム

 前置きがすっかり長くなってしまいました。かつての懐かしい思い出とともに必ずと言っていいほど、心に浮かんでくるクリスマスアルバムがあります。それがカーペンターズの『クリスマス・ポートレート』です。これは1978年に発表され、当時話題になったものでした。
 このアルバムはアルバム作りの合間の余興という意味合いはまったくなく、極めて真摯に創作に取り組んだことが聴いていただければお分かりになることでしょう。そんな訳で『クリスマス・ポートレート』はカーペンターズの数々のアルバムの中でも屈指の名盤、代表作といえるでしょう!また往年の名歌手ビング・クロスビーやナット・キング・コール、フランク・シナトラらが出したクリスマスアルバムに匹敵するか、それ以上のクオリティではないかと思います。

 まず、カレンの澄んだ美声と明瞭な発音に癒されますね…。聴いていてとても安心なのです。声に変な癖が無いのに確かな存在感があり、人を幸福にする天性の歌声でした…。何より深い情感がこもっているのにサラリと明るく歌ってみせるさりげなさがとても魅力でしたね。特に『クリスマスソング』と『主は生まれ給いぬ』の声の輝きと優しさに満ちた表情が何とも言えません。誰からも愛される人柄、人の心に優しく語りかけるメッセージはこのアルバムからも存分に聴きとる事ができます!
 そして忘れてならないのが、リチャードの編曲の素晴らしさでしょう!カレンの歌との相性も抜群、雰囲気満点で、聴く楽しさが何倍にも増幅されている感じです。