2015年12月22日火曜日

J. S. バッハ 2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調BWV1043










ヴァイオリンの対話形式による
代表的な名曲

 自分の発した言葉が山に響いてこだまのように跳ね返ってきたらとても気持ちがスッキリした‥…という話はよく聞きます。また、合唱でソプラノが歌ったパートをバスが追いかけるように歌うことも気持ちを共有し高める上ではとても大事な要素とも言われます。

 人は発した言葉に対して何らかの応答があったり、お互いに語り合うように話が発展すると心が共鳴して無上の喜びを感じるようになるとも言いますね。たとえばそれが音楽のような創造芸術で対話が展開されるときの幸福感はいかばかりでしょうか‥…。

 バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」はタイトルどおり2つのヴァイオリンの対話から展開される名曲です。この作品は昔からバッハの協奏曲の中でも傑作中の傑作と言われてきました。
 まず、第1楽章の出だしから厳しく陰影に富んだ旋律が心に強く訴えかけてきます! 対位法により管弦楽と2つのヴァイオリンが高度に絡み合い、見事な調和が達成されていることにも驚かされます。比較的短い三楽章の構成の中にヴァイオリンのあらゆる表情や音楽的エッセンスがギッシリと詰まっているのです。 

 この作品を愛するヴァイオリニストが多いのも分かるような気がしますね‥…。 


美しく気高いラルゴ

 しかし、2つのヴァイオリンのための協奏曲といえば、私にとっては第2楽章ラルゴ・マ・ノン・タントに尽きます!
 このラルゴは本当に美しいです! バッハとしては異例の懐かしさに満ちていて、温かく包容力のある主題がとても印象的です。その美しいメロディが2つのヴァイオリンの対話によって深化し、瞑想や哀しみが自然と映し出されていくときこそ、この曲の真髄が聴かれると言ってもいいでしょう!

 バッハはラルゴに美しい主題を持った名曲を数多く書きました。このラルゴも後世にいつまでも語り継がれる永遠の名曲と言ってもいいのではないでしょうか。
 映画の中でたびたび使用されたり、様々なジャンルでアレンジされたりと、その人気のほどが伺えます。


バッハ作品に精通した
シェリングの名演奏

 さて、録音はどれを選べばいいんだろう……。ということになってきそうですが、私は文句なしにシェリングの演奏を選びます。その中ではマリナーと組んだ1976年盤(フィリップス)がいいでしょう。シェリングが自分で指揮して録音を入れた1965年盤(デッカ)もなかなかの名演奏ですが、録音状態やヴァイオリンの響きの自由闊達さや音色のまろやかさを考慮するとやはり1976年盤をとるのが無難かと思います。(残念ながら現在1976年盤は廃盤状態です…)

 とにかくシェリングのバッハは細部まで神経が行き渡っていて、潤いと豊かさで満ちあふれています。同じバッハの「無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ」、「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ」等で唯一無二とも言えるような名演奏を残した人ですから、その演奏も自信と確信に満ちていて、「バッハはこう弾いたらいいんだよ」とヴァイオリンの表情で切々と伝えているかのようです。
 また、もう一人のヴァイオリンを担当するモーリス・アッソンやマリナーの指揮も端正にまとまっていて、ヴァイオリンの対話を最大限に生かしながら、好サポートを示しています。