2010年7月20日火曜日

ラディスラオ・バホダ 汚れなき悪戯



Marcelino Pan y Vino 1955


 人間の魂の尊厳や愛

 「汚れなき悪戯」はもう50年以上も前の作品になります。かつてこの映画の主題歌、「マルセリーノの歌」は映画音楽のベストセレクションとしてよく取り上げられたことを覚えています。南スペインの民謡風のメロディをモチーフにしたような覚えやすい旋律と少し哀感を伴う曲調はとても新鮮で忘れ難いものでした。曲と映画の内容もよくマッチしていて、この作品が描こうとした性格はすでに「マルセリーノの歌」にはっきりと表されているといってもいいでしょう。

  この作品はストーリーは至ってシンプルですが、内容は非常に意味深く、人間の魂の尊厳や愛を丁寧に描いているのです。しかも映像は詩的なファンタジーのように美しい……。舞台は戦後の廃墟と化したカトリック修道院を復興させるところから始まります。戦後の混乱で捨て子同然で修道士に拾われたマルセリーノはやがて修道院で成長するようになります。マルセリーノは母親や遊び友だちがいない寂しさを胸に抱えながらも、修道士たちが親同然に面倒をみてくれることでそのような寂しさをすべて忘れることができたのでした。

 しかし、あるとき一人の修道士から「屋根裏部屋に行ってはいけないよ。怖い男がいておまえを捕まえる」とマルセリーノに言うのですが、このことがかえってマルセリーノの好奇心を誘うのです。屋根裏部屋にこっそり侵入してはさまざまな悪戯を繰り広げるのですが、ある日、信じられないような奇跡が起きます……。

 この映画の素晴らしいところはたくさんありますが、中でも作為性のない演出と配役は最高です。主役のマルセリーノ少年の愛らしい表情や澄んだ瞳、修道士たちのしっかりと地に足が付いた演技は最高のひとことに尽きます。近年、SFXを駆使した大作や手の込んだ手法や複雑なストーリーの展開をする映画が急増していますが、このような作品こそ映画制作の原点ともいうべき姿なのではないかと思ったりもするのです。
 子供からお年寄りまで、誰が見ても素直に感動する不朽の名作と言えるのではないかと思います。



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