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2015年10月20日火曜日

ストラヴィンスキー 『春の祭典』











バレエの概念を変えた
『春の祭典』

 春の祭典は20世紀を代表するバレエ音楽で、発表当時(1913年)センセーショナルな話題を巻き起こし、音楽界を騒然とさせた作品です。しかし、様々な映画音楽や前衛的な音楽を聴き慣れた私たちにとっては、むしろその独特のリズムや不協和音がかえって聴きやすいし親しみやすく感じるから不思議ですね……。

 『春の祭典』はそれぞれの楽器の潜在的な特徴や音色を感覚的に突き詰めることによって、音楽に優れた心理的描写を生み出したのでした。音楽が始まった途端に、様々なイメージや情念が湧いてくるのはそのせいでしょう……。

 この作品は従来の優雅なバレエの概念を変えただけでなく、音楽の在り方や舞台と音楽とのかかわりに一石を投じたのでした。
 まず『春の祭典』は音楽を聴くだけでなく、バレエの舞台に接してみてください! そうすればこの音楽は、あなたにとってぐんと身近なものになるでしょう。
 なぜなら、決して理屈で固められた音楽ではないので、実体験を何度も重ねることによって様々なメッセージを受けることが可能になってくるのです。おそらく、舞台の視覚的効果や独特の雰囲気と相まって、身体の中で眠っていた何かが呼び覚まされるような感覚を受けるに違いありません!

 また、終始、抽象的な音やリズムが続出するために、踊りはクラシックからコンテンポラリーまで幅広い領域の演出や振付に対応することが可能でしょう。


ゲルギエフの
自信に満ちた名演奏

 管弦楽の効果という面で『春の祭典』が映画音楽や各方面の音楽に与えた影響ははかりしれません。現在もその発想や楽器の使用法は『春の祭典』に負うところが多く、いかに時代を大きく先行していたのかを物語るのです。

  演奏はゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団(ユニバーサルミュージッククラシック)の1999年録音盤が圧倒的な素晴らしさです!楽器の多彩な表情と意味深い響き……。緊迫感あふれる間とフレージング、そして変拍子のリズムが奏でる猛烈なエネルギー、どれもこれも有機的で完璧なまでのオーケストラコントロールの技が全編を覆います。
 ストラヴィンスキーがこの作品に込めた想いを徹底的に炙り出そうとしていることがひしひしと伝わってきます……。

 もし、この演奏が実際にバレエの公演でオーケストラピットから流れたならば、どれほど興奮し、感動することでしょうか!







2015年9月29日火曜日

ストラヴィンスキー  『プルチネルラ』













ストラヴィンスキーの
異色の作品


 ストラヴィンスキーの音楽と言えば、バレエ音楽の「春の祭典」や「ペトルーシュカ」を思い出される方が大多数でしょう。しかし両曲の強烈なイメージゆえに、ストラヴィンスキーの作品は「どうも苦手だな……」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 でもご安心ください。
 ストラヴィンスキーのバレエ音楽にも、とても親しみやすい作品があります。
 それが「プルチネルラ」です。「春の祭典」で現代的な和音を表出したり、抽象的なリズムの迫力を示したのとはまるで違う作曲法に、きっと多くの方が驚かれることでしょう。
 このバレエ音楽には原曲があり、それが18世紀イタリアの作曲家ペルゴレージの作品だというのです。

 とはいうものの、ストラヴィンスキーは原曲をかなり現代風にアレンジしており、それがこの作品を新古典主義と称されるように聴きやすく親しみやすいものにしているのかもしれません。原作は仮面に潜む人間の本質や恋愛感情を劇にしたコミカルな作品ですが、全体を通しても35分から40分程の短い曲で大変聴きやすくなっています。たとえストーリーの展開がわからなかったとしても、管弦楽の楽しさや声楽の魅力が楽しいひとときを約束してくれることでしょう!
 またメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』のように管弦楽組曲として聴いてもかなり楽しめるかもしれませんね……。



変化に富んで楽しい
お茶目な作品

  何よりも楽器の扱い方の見事さとセンスの良さには唸るしかありません。ストラヴィンスキーは元来、色彩的な響きの表現に精通していている人ですが、この作品でもそれは充分に感じることができます。楽器の表情や音色には魅力があるし、フレッシュで楽しく、様々な旋律がぐんぐん心に響いてくるのです。それぞれのフレーズで美しく魅力的に聴こえる表情を実に巧みに作り出しているではありませんか……。

 たとえばスケルツィーノ、アレグロでの弦楽器やフルート、ピッコロ、オーボエ、ホルンが声を交わすように繰り広げられる部分は夢のようなハーモニーとなり楽しませてくれます。
 チェロ、コントラバス、トロンボーン、チューバ等の低音域の楽器がおどけたフレーズを繰り広げるヴィーボもユーモラスで楽しいですし、タランテラでの弦の無窮動のようなしなやかな旋律も幻想的な雰囲気を高めてくれます。しかも要所要所での雄弁でメリハリのある金管や弦楽器の奏法は、さすがに「春の祭典」で心理的効果音を表出した作曲家だけあってとても上手いですね!
 この作品には管弦楽組曲版と声楽が加わった全曲版がありますが、当然声楽入りの全曲版が味わい深いのは言うまでもありません。

 演奏は1980年の録音で少々古くなりましたが、ピエール・ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン(エラート)が素晴らしい演奏です。ブーレーズはストラヴィンスキーの音楽と相性がいいようで、ゆとりのある造型と楽器の音色の新鮮さやバランス感覚に魅了されます。声楽陣も全体的に安定していて、特にアンソニー・ロルフ・ジョンソンの美声と哀愁を漂わせた歌が最高です!