2013年8月30日金曜日

ブラームス 交響曲第4番ホ短調作品98









ブラームスでしか作れない、こだわりの傑作

 ブラームスは交響曲というジャンルを彼自身のライフワークだと位置づけて作曲していたようです。そのため作曲には大変慎重でした。何より尊敬するベートーヴェンの交響曲に匹敵する作品を作りたいという想いがそうさせたのでしょう……。第1番は作曲から完成まで約20年という信じられない期間が費やされました。もはやこの長さは「石橋を叩いて渡る」という次元のお話ではないかもしれません。でもブラームスにとっては冗談でも何でもなく、妥協のない作品を作るための真剣な賭けだったのです。

 しかし、2番以降はいい意味で肩の荷が降りたのでしょう。約1年ほどの間隔で3曲が次々と作曲されています。特に最後の交響曲第4番はブラームスでしか作れない晩秋を想わせるメロディや悲哀に満ちた感情表現が一種独特の世界を築き上げているのです!4番こそブラームスの交響曲の最高傑作だとおっしゃるファンが多いのもうなずけます。
 この4番を聴く限り、ブラームスは古典的なスタイルの音楽志向を持つ作曲家というよりは本質的にロマン派作曲家だったということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 特に第1楽章はロマンの極致と言えるような格調高い旋律と渋く淡い情感がとても心に染みます。
 第2楽章はホ長調ですが、ある意味第1楽章以上に胸に迫る哀しみや余情がにじみ出た楽曲ではないでしょうか。ホルンやヴァイオリン、チェロが対位法的な絡みの中で繊細に描き出す表情が美しく、過ぎ去った日々の光景が眼前に浮かんでくるようです。第3楽章はダイナミズムが冴え、テンポの良さと相俟って曲が大いに盛り上がっていきます!

 第4楽章の終結部には有名なシャコンヌが挿入されます。ブラームスがなぜ最後にシャコンヌを使ったのか理解できないとおっしゃる方も多いでしょう。しかし、様々な主題を用いた変奏曲やシャコンヌ、バッサカリア(主にバロック時代に使用された様式)が使用されるこの楽章は全曲の白眉と言ってよく、厳しく密度の濃い音楽になっているのです。憂愁や崇高な感情が次々と現れては消えるのですが、中間部では凍てつくほどに静けさを湛えた楽器の奏でる神秘的な音やニュアンスが心を震わせます。

 この曲を聴くと、色彩的な要素はほとんど感じられませんし、埋め尽くせない人の心の寂しさや空虚感が辺りを覆っている感じがします。しかし、それを超えた普遍的な自然の摂理が存在しているということも作品は伝えているように思うのですが、皆様はいかがでしょうか?


作品に大いに共感するザンデルリンクの名演

 4番はザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団(Profil)の演奏こそ、この曲が言わんとしている情感を余すところなく伝えた最高の名演奏と言っていいでしょう。第1楽章では弦の奥行きのある響きが雰囲気満点で、抜群に美しいハーモニーを奏でていきます。自然な流れの中にも豊かな音楽の魂が息づいていることに驚かされます! 第2楽章も相変わらず合奏がきめ細やかで美しく、詩的なセンチメンタリズムを思わせます。第3楽章の剛毅な迫力や第4楽章の格調高い響き等、どこをとっても聴く人はブラームスの音楽の心と結ばれていくに違いありません。とにかく作品の美しさを損なうこと無く、あらゆる面で最大限に引き出しているのです。
 ザンデルリンクは70年代にドレスデン・シュターツカペレと組んで録音していますが、こちらもなかなかの名演奏です。