以前、シプリアン・カツァリスの演奏するグリーグのピアノの演奏を採り上げたことがありました。その時、叙情小曲集の演奏の魅力について主に書いたのですが、併録された組曲「ホルベアの時代から」についてはあまり触れませんでした。少ししつこくなるかもしれませんが、ここでは「ホルベアの時代から」の演奏の魅力を掘り下げてみたいと思います。
個人的な印象からするとこの組曲「ホルベアの時代から」は大変な名演奏だと思います。弾むようなリズム、抜群の間合いで生き生きと語りかけるフレージングの魅力。全体的に猛然と超スピードで展開しながらも音楽の楽しさ、喜びを微塵も失わない天性の音楽センス!本当にカツァリスの魅力が結集された稀有な演奏だと思います。
おそらく、カツァリスはバッハやスカルラッティのようなバロックものを得意にしているので、バロック的な造型を持つこの作品との相性がいいのでしょう。
それにしてもまったく迷いのないストレートな演奏は実に爽快で、いつのまにか曲にぐいぐい引き込まれていくのを実感するのです!フレッシュで曇りのない音色はそれだけでも曲の純度を導き出し、新たな魅力を引き出してくれるかのようです。
作品はノルウェーの(同郷のベルゲン)作家ホルベアの生誕200周年を記念して作曲されたものでした。ホルベアは18世紀の初めから中頃にかけてデンマークで活躍した人で、時代でいうとほぼバロック文化全盛時代に該当するのです。したがって、サブタイトルにある「古い様式による組曲」とあるのはホルベルグが生きたバロック音楽の様式を借りたものなのです。
曲の構成もプレリュード、サラバンド、ガボット等バロック音楽の様式に倣っているのがちょっとお洒落で気が利いていますね。グリーグの常々の音楽と違い、明晰な構成とリズミカルな曲調が印象的です。しかも随所に繊細な光と影の織りなすコントラストが心地良く響くのも、やはりグリーグならではでしょう!