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2018年1月13日土曜日

ラヴェル ボレロ











メロディとリズムが
互いの良さを引き立てあう

皆様お久しぶりです。ご無沙汰しておりました……。
そして今さらながらですが、明けましておめでとうございます。今年も何卒よろしくお願いいたします。

さて、新年の幕開けを飾るにふさわしい作品として、私はラヴェルのボレロをとりあげたいと思います!
ボレロとは元々3分の4拍子によるスペインの舞曲の一種で、一定のリズムが絶えず繰り返されるテーマは底知れぬエネルギーと興奮を与えてくれますね。

ラヴェルの着眼点の良さは、このビクともしない強靭なリズムの音型をバックに個性的で色彩豊かなメロディをつけたことです。まさにベストマッチと言ったらいいかもしれません……。メロディとリズムがお互いの良さを最大限に引き立てあっていることが実感できるのではないでしょうか!
フィナーレに向かって次第にめくるめく興奮と熱狂を与える音楽の構成は巧みで見事です。これは管弦楽の名手ラヴェルだからこそ成せる業と言えるかもしれません。



マルティノンの
しなやかで格調高い名演

ボレロは誰が振ってもある程度の演奏が約束される音楽です。これはボレロが作品として良く書けていることもありますが、どのようなパフォーマンスにも左右されない受容度の高さも挙げられるでしょう。そこがラヴェルの音楽の柔軟な感性のあかしとも言えるでしょう。

あえて挙げるならば、ジャン・マルティノンがパリ管弦楽団を振った録音(Warner Classics)がしなやかで色彩豊かな音色が素晴らしく、繊細な情感が根底に息づいている管弦楽の見事さと併せてベストかもしれません。フィナーレに向かって段々と曲が高揚し、興奮のるつぼと化していく様子が格調高い表現の中に生きています!



2017年5月16日火曜日

ラヴェル 「亡き王女のためのパヴァーヌ(ピアノ版)」
















神秘的な余韻と
甘美なロマンチシズム

「亡き王女のためのパヴァーヌ」は以前、管弦楽曲とピアノ曲をまとめてご紹介したことがありますが、今回はピアノ曲だけに絞って書きたいと思います。

今やこの曲は、TVでさえ番組のBGMやCMで使われることが珍しくありません。クラシック音楽ファンでない方にとっても新鮮に聴こえるようで、「こんなに優雅でノスタルジックな音楽があったのか……」と驚かれる方も少なくないようです。そう、ラヴェルのピアノ作品で最もメロディラインが覚えやすく、しっとりとした情感に溢れているのが「亡き王女のためのパヴァーヌ」なのです。

親しみやすい理由はラヴェルがゆるやかな叙情性を前面に押し出しているため、神秘的な余韻があり、甘美なロマンチシズムが音楽に映し出されているからなのでしょう。
私はこの曲を耳にすると、いつも次のような情景が心に浮かんできます。「穏やかな風が心地よい晴れた夕刻の海岸。静かに寄せては返すさざ波と、キラキラと光る水面の変化を見つめながら時が経つのを忘れて身を浸す悠久なひととき……」。 



雰囲気たっぷりで
あるがゆえの難しさ

しかし、繊細で情感豊かなこのピアノ曲は実は演奏が大変難しいことでも有名です。演奏としての個性を出しにくいことと、曲が何度も停止して、少しずつ調を変えながら音楽が進行していく独特のスタイルのため、叙情性に押し流されやすいことがその理由なのでしょう。

フランソワは小品でも素晴らしい演奏をたくさん残しています。以前にも書きましたラヴェルの「水の戯れ」「古風なメヌエット」「ハイドンの名によるメヌエット」がそうですね! 
ここでは、作品が作品だけに、さすがのフランソワでも奔放に振る舞うということは難しいようですが、それでもしっとりとした味わいの魅力的な演奏です。特に素晴らしいのは音色でしょう。ピアニッシモが胸に響きますし、何とも言えない寂寥感が漂います。終始デリケートな感性が際立つのですが、冴えたタッチで弾かれた部分とのメリハリも効いています!

モニク・アース盤は彼女のラヴェル録音の中で最も優れた演奏ですね。このゆったりした叙情性こそ、彼女の演奏スタイルの本領なのかもしれません。例によって特別なことは何一つしていないのですが、ひたすら真摯に弾くことによって音楽が美しく立ち上っていくのです。
宮沢明子盤は1975年のライブですが、音は良く、真摯に曲に向き合った結果生まれたみずみずしさとはかなさが心に染みます。










2016年9月27日火曜日

ラヴェル 「ハイドンの名によるメヌエット」








遊び心が功を奏した
魅力作

 これはわずか2分足らずのメヌエット風のピアノ曲です。
 タイトルからしてハイドンに敬意を表して、古典的な曲調で書かれた曲と思われがちです。
 でも実際はそうではなく、ハイドン没後100年を記念して、パリの音楽雑誌が当時のフランスの大作曲家たちに作曲依頼した企画だったのでした。その内容というのはHAYDNの5文字を音にあてはめて主題を作るという、いわばロジカル的と言うかパズル的な発想の企画だったのです。
 そのような企画ですから、比較的に遊び心のある作曲家は好意的に受け入れたようですが、そうでない作曲家は「もってのほか!」という感じでまったく相手にしなかったらしいですね……。

 ラヴェルは遊び心のある人ですから、当然のようにこの企画に乗って美しい作品を残してくれました! 出来上がった音楽は雰囲気があって機知に富んだラヴェルらしいセンスが光る作品といっていいでしょう! 光と心地よい空気が漂う中を夢と現実の世界を行き交うような……、とてもファンタジックな作品だと思います。
 
 演奏はサンソン・フランソワのピアノ(EMI)が聴く者を夢の世界に誘ってくれます。フランソワの演奏はただただ素晴らしいの一言に尽きます! 音の一つ一つに気持ちが浸透し、のびのびとしたフレージングや即興的な演奏が音楽を大きく息づかせているといえるでしょう。


2015年12月3日木曜日

ラヴェル 『水の戯れ』

















色彩的な音色と
陰影のニュアンス

 雪がしんしんと降る様子やそよ風が顔を撫でる様子など……、何でもないような自然の一コマを気持ちが伝わるように言葉で表現するのは意外に難しいことです。

 同じように、それらを音楽作品として表現するには高い音楽性や研ぎ澄まされた感性が必要とされるのは言うまでもありません。しかもそれを芸術的に意味のある作品にすることはますます容易なことではないでしょう。

 西洋音楽の歴史をひもといても、見慣れた自然の情景をあえて音楽で表現しようという動きはなかなか現れませんでした。つまり、それだけでは作品のテーマにはなりにくいし、表現の限界が見えていると思われてきたからなのでしょう……。

 しかし、20世紀初頭にそれまでと作曲の観点が大きく異なる考えを持つ作曲家たちが現れました。それがドビュッシーとラヴェルです。
 特にラヴェルは印象派的な作品を、先輩ドビュッシーよりも先に作った人でした。その記念すべき作品がここにとりあげるピアノ曲『水の戯れ』なのです。
 何気ない瞬間や、自然の一コマに光をあてて、聴く者の心に美しく残像が広がるように抽象的な和音を駆使した音楽づくりは新鮮でした。それは古典派やロマン派音楽の時間軸を中心にする作曲では想像もつかなかったものでしょうし、どちらかといえば空間軸を基調にした発想といってもいいかもしれません。

 「水の戯れ』は水が醸し出す穏やかで瑞々しい主題で始まりますが、やがて水の流れは刻一刻と変化し驚くほど様々な表情を映し出します。特にクライマックスの部分で光を浴びて七色の虹のように輝きはじける瞬間は夢幻的な美しさを目一杯味わせてくれるのです。

 正味5、6分の作品ですが、色彩的な音色と陰影のニュアンスが織りなす美しさは絶品で、音楽の表現の可能性を押し広げた役割はとても大きいといえるでしょう。



枠にはまらない
自由で即興的な表現が
音楽を生かす

 このような作品ですから、どうもドイツ・オーストリア系の古典的なピアノの奏法とはあまり相性が良くありません。どちらかと言えば一般的に巨匠と呼ばれるピアノの大家よりも天才的な感性の持ち主、美しい音色のタッチを持ち味とするピアニストのほうが素晴らしい名演奏を残しています。

 中でも印象的なのはサンソン・フランソワとマルタ・アルゲリッチの演奏です。二人とも天才的な感性とデリカシーの持ち主ですが、この作品との相性はすこぶるいいようです!

 まず、フランソワの演奏(EMI)は研ぎ澄まされた音色が全編で冴え渡っています。奏でられる音色からは、移り変わる水の表情が的確に捉えられているではありませんか!透明感あふれるピアノのタッチが曲の本質に深く入り込んでいるところも見事です。

 これほどスピーディーに演奏されると、音楽の本質が置き去りにされるのでは……と心配になってくるのですが、まったくそうならないところがアルゲリッチの凄いところです。デリカシーあふれる音色は神秘的といえるくらい美しい表情を生み出しています!





2015年4月9日木曜日

ラヴェル 「ダフニスとクロエ全曲」







Spring (Daphnis and Chloë) Jean-François Millet 
油彩235.5×134.5 1865年 国立西洋美術館













古代ギリシャの純愛物語を
詩情豊かに描いた
ラヴェルの傑作

 『ダフニスとクロエ』は古代ギリシャを舞台にした羊飼いのダフニスと少女クロエの純愛物語です。この物語はさまざまな絵画や文学、音楽のモチーフとして使われることが多く、よほど芸術家の創作力を掻き立てる作品なのでしょう。私は『ダフニスとクロエ』というと、上野の国立西洋美術館にあるミレーの作品を思い出してしまいます。(この絵の外連味のない純粋なアプローチが大好きです!)

 さて、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』は当時の舞台芸術の名プロデューサー、ディアギレフの要請によって作曲されたバレエ音楽です。イメージを音化する事に関しては天才的なラヴェルのことですから、バレエのように舞台の命運を決定する音楽を任されて力が入らないはずがありません。ラヴェルは壮大で深遠な交響曲を作曲するような想いでこの曲に取り組んだようです。「音楽の巨大な壁画を作曲することだった」というラヴェルの言葉に、この曲に対する想いの強さが表れているようです。

 しかしこの作品、当のディアギレフにはあまり歓迎されなかったようですね……。理由は楽曲に合唱が使用されたことと、リズムよりもメロディや演奏効果重視の作曲法が気に入られなかったようです。つまりは踊りにくい…ということなのでしょう。
 そうは言うものの、ラヴェルが描いた音楽は『ダフニスとクロエ』の物語から連想される匂い立つような情緒や詩情、鮮やかな色彩的効果と計算された主題の展開、ダイナミックなリズムの冴え等、とにかくラヴェルの音楽の魅力がぎっしりと詰まった傑作なのです。



色彩的なオーケストレーションの
魅力が全開

 曲の冒頭からラヴェルの色彩的なオーケストレーションの魅力が全開です。楽器の扱い方の何と巧みで的確なこと! すでに楽器の響きにさまざまな表情や性格づけが施されていることに気づきます……。特に「序奏」のこの世のものとは思えない耽美的な美しさや幻想的で神秘的な雰囲気は絶品です。色彩的な表情の変化だけではなく、微妙な色調の温度変化まで表出しているのではと思えるほど管弦楽の妙味がぐんぐん冴え渡っていきます!古代ギリシャのロマンを現代に蘇らせようというラヴェルの心意気を感じます。 

 『ダフニスとクロエ』は全曲を聴いてこそ作品の真価を味わえると思うのですが、ハイライト的に聴きたい方には第2組曲をお薦めしたいと思います。なぜならここにはラヴェルの管弦楽のエキスがしっかりと詰め込まれているからです。

 とりわけ印象に残るのが冒頭の「夜明け」ですね。
 「夜明け」はダフニスとクロエが再会する最も感動的なシーンで、まさに「夜明け」と言うタイトルどおり、神秘的な余韻が残る夜のしじまから、朝を迎えて辺りの情景が一変する様子がドラマチックに描かれていきます! ラヴェルの色彩的で精緻な楽器の扱い方、瑞々しい管弦楽と美しい抒情性が一体となった名曲中の名曲です。

 「無言劇」はダフニスとクロエが愛を語り、パントマイムを踊る重要な曲ですが、フルートの高度な技術と音楽性が要求される難曲です。それだけに感情の表出がうまく描かれたときの感動と満足感ははかりしれないものがあるでしょう。最後の「全員の踊り」は計算された主題の展開とリズムの冴えが魂の根幹を突き動かしていきます。曲が展開し発展する中で音楽は猛烈な歓喜の渦のうちに終了します!



デュトワの洗練された
意味深い名演

 この曲は全曲、第2組曲盤を合わせるとかなりの録音があります。古くは同曲初演のモントゥーや名演の誉れ高いクリュイタンス、マルティノン盤等がありましたが、録音が少々古かったり、響きの結晶度不足やら、演奏スタイルの古さが気になったりと必ずしも万全と言えるものではなくなってきています。

 しかし1980年代前半に同曲を振ったシャルル・デュトワ=モントリオール交響楽団(Decca)は表現、音のニュアンスの美しさ、メリハリ、響きの結晶度等、どれをとっても素晴らしく、まさにラヴェルの色彩的な音楽世界が現代に甦ったと言っても過言ではないでしょう。現在『ダフニスとクロエ』全曲盤のみのCDは廃盤になっていますが、輸入盤であれば4枚組のセットとして購入可能です!

 他の曲は要らないと言われるかも知れませんが、その他の曲もラヴェル入門としては格好の曲ばかりで、「ラ・ヴァルス」、「マ・メール・ロワ」、「ボレロ」、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「クープランの墓」等が最高の名演奏で聴ける幸せを味わっていただけるのではないでしょうか……。


2012年6月27日水曜日

ラヴェル クープランの墓













 この曲を初めて聴いたのは学生の頃でした。ラジオから流れてきた管弦楽曲版の演奏だったのですが、ファゴットやオーボエ等の管楽器の奏でる古風な美しさもさることながら、決して声高にならない中庸を得た落ち着いた味わいや抜群のセンスにすっかり参ってしまったのです。
 最初のプレリュードが流れた時から、いつのまにかこの曲の虜になっている自分に気づきました。まるで穏やかな風が樹々の枝葉を揺らし、爽やかな光が古き良き時代の城壁を照らすかのような何とも言えない温もり感やさりげない曲の佇まいが印象に残ったものです。
 その時確信しました!「クープランの墓」はラヴェルの数々の管弦楽曲の中でも心地いい楽器の表情や抜群のニュアンスを持った稀に見る傑作だということを‥…。

 この曲にはピアノの原曲があり、そちらのほうには管弦楽曲にはないトッカータを含む2曲があり、特にトッカータはとんでもない名曲であることは後で知ったのでした…。そもそも、「クープランの墓」というタイトルは18世紀のフランスの大作曲家クープランを偲んで作られた作品ではなく、第一次世界大戦で戦火に散った友人たちの想い出に寄せて作られた組曲なのです。ではなぜ「クープランの墓」というタイトルがついたのかと言えば、この頃のラヴェルは18世紀前後の古典的なフランスの大家たちの音楽様式に回帰しつつ作曲をしたので、そこから18世紀のフランスの大家=クープランという名前が浮上したのです。

「クープランの墓」というタイトルからすればほとんどの人がしんみりしたイメージを想い浮かべるのでしょうが、この曲にはそのような固定観念が通用しません。「クープランの墓」は鎮魂歌というよりは自由な形式でさまざまなヴァリエーションや楽想が凝縮されているのです!とはいうものの「ラ・ヴァルス」や「スペイン狂詩曲」のような強烈な色彩感はありません。もちろんラヴェルならではの透明感や色彩感もしっかり備わっているのですが、それが決して表に出ることはないのです。変幻自在でありながらも静かなリリシズムを湛えたニュアンスや一貫した古典回帰の響きが、この作品にある種の風格をもたらしているのです!

 最初のプレリュードの装飾音は明らかにフランスバロックの時代の音楽技法を踏襲しており、確かにこのタイトルはそれにふさわしいようにも思われます。続くフーガやそれ以降の組曲も内容はラヴェル以外のなにものでもなく、楽器の表情といいバランスといい雰囲気豊かで色彩豊かなそれぞれの楽曲は真にインスピレーションに満ち溢れているのです!

 ところで、管弦楽曲版はピアノ原曲にあるフーガとトッカータの2曲が省かれています。さまざまな諸説がありますが、トッカータに関してはピアノでさえ超絶的な技巧を要するこの曲を再現するには限界があるだろうというラヴェルの見識なのかもしれません。

 このトッカータは故人を偲ぶ曲としてはあまりにも威勢が良すぎるとか、強烈すぎると想われる方もいらっしゃることでしょう! しかし、逆にラヴェルの構成力の凄さや本当の意味での秀でた感性と才能を改めて痛感させるフィナーレにもなったのです。
 とにかく、とめどなく溢れる音のエネルギーと弾けるようなリズムの突進力は圧倒的な高揚感と感動を与えてくれます!弾き進むにつれて16分音符の何気ない連打はみるみるうちにまばゆい光を発しながら大地に強く根ざした強固な音楽へと変貌していくことに気づかされるのです!ラヴェルは最後のトッカータで光が燦燦と輝くような充溢した生命力を謳歌することでこの曲を限りない前進や発展の象徴として閉じたかったのではないのでしょうか…。

 この曲に関してはピアノ版と管弦楽曲版の二つから推薦盤を挙げたいと思います。ピアノではまずモニク・アースが録音したエラート盤がおすすめです。全曲過不足無く、しかも曲の魅力を奇を衒わず、気品漂う演奏に仕上げていることに大変好感が持てます。これから「クープランの墓」を聴いていきたいという方には最適な演奏かも知れません。
 これに対してエリック・ハイドシェック盤は抜群の音楽性とダイナミズムで一気に駆け抜ける演奏です。しかし、よく聴くと一音一音に無限のニュアンスが込められており、その抜群のセンスに驚かされます。この演奏は何と言ってもトッカータの凄さに尽きるでしょう。まるでライブで弾いているかのような熱気溢れる緊張感と即興性は聴く者の心を捉えて離しません!トッカータを聴くだけでも充分に価値ある演奏と言っていいでしょう。

 管弦楽曲版はシャルル・デュトワ=モントリオール交響楽団のデッカ盤が大変に美しく、楽器の柔らかな表情やコクのある響きが心地よい雰囲気を醸し出しています。



2012年2月7日火曜日

モーリス・ラヴェル  ピアノ協奏曲ト長調



既成概念にとらわれない遊びの感覚


Ravel Piano Concerto /Piano:Samson Francois/Conduct:Andre Cluytens



 クラシック音楽の協奏曲は数々あれど、ラヴェルのピアノ協奏曲ほど楽しい作品はあまりないかもしれません。しかもこの作品、まったくといっていいほど既成概念にはとらわれていないのです。とにかくいろいろな遊びの要素が満載で、それも中途半端な遊びではなくラヴェル自身が徹底的に楽しんでる感じなのです。
 この作品に関しては、クラシック音楽で言うところの常識はあまり通用しません! 格別クラシックファンでなくともその良さがわかるかもしれませんし、「クラシックにはこんな楽しい作品もあるのか…」と納得されるかもしれませんね!

 管楽器の扱いのうまいラヴェルですが、「ピシャ!」と鞭を振り下ろすような第1楽章の出だしから意表を突く展開に唖然!ファンタジックな曲調なのかと思えば、一転ピアノはすぐさまブルースのようなジャズ的なメロディを奏でます。その後も色彩豊かなさまざまなパッセージを経ながら遂にはピアノのものすごいエネルギッシュな高まりとともに終了します。

 第2楽章では一転して、詩的なトーンで曲が展開します。ピアノは過去を愛おしむように回想しつつ美しく奏されます。第1楽章とのギャップには驚きですが、さすがは名アレンジャーのラヴェルだけあって、少しも間延びせず不思議な力で聴かせてしまいます。しかも叙情的なメロディをどこか冷めた目で外側から見つめるもう一人の自分が居たり…、とても一筋縄では行きません。この楽章ではピアノに寄り添うように流れるオーボエ、フルート、ファゴット、ホルンの音色が大変に魅力的で叙情的な色あいに華を添えます!

 第3楽章はまた衝撃的なトランペットの強靭な和音から始まり、微動だにしない管弦楽の中をピアノが一気に駆け抜けていきます!まさに無駄な和音はなく、あらゆる音が光と色彩の渦に巻き込まれるようにフィナーレを迎えていきます!

 サンソン・フランソワ(ピアノ)とアンドレ・クリュイタンス(指揮)が組んだEMI盤は、この作品に備わっているリアリスティックな迫力や洗練された遊びの感覚を最も伝えてくれる演奏です!フランソワは傍若無人と言えるほど形を崩しつつ、自由にピアノを弾いていきますが、曲への共感の度合いが強いのか、まったく違和感がありません!聴く人を最後まで飽きさせることなく、グイグイ音楽の魅力を引き出すところはさすがです。





2012年1月14日土曜日

ラヴェル マ・メール・ロワ





 絵画のように色彩豊かで、夢のようなファンタジー溢れる作品!
 ラヴェルの「マ・メール・ロワ」はそのような瑞々しい感性が詰まった魅力いっぱいの作品と言えるでしょう!
 「マ・メール・ロワ」は「マザー・グース」等の子ども向けのおとぎ話を題材にした5つの小品から成るピアノ四手連弾の組曲です。この作品はそもそもピアノの連弾作品として発表されたわけですが、後に管弦楽曲として編曲されたヴァージョンは管弦楽の名手としてのラヴェルの手腕もあって、いっそう素晴らしい作品として蘇ったのでした。

 目を閉じて聴いていると情景が鮮やかに浮かんでくる曲ばかりで、その表現力、感性には改めて脱帽させられます。楽器の使い方もことごとく的を得ており、これほど雄弁でニュアンス豊かな作品も珍しいのではないでしょうか?そういうことで、この作品は才人ラヴェルのファンタジックな音楽絵本とでも言ったらいいのかもしれません。

 この作品はジャン・マルティノンがシカゴ交響楽団を振った演奏を推したいと思います。色彩豊かでありつつ、無垢な表情を醸し出すその音色はファンタジーそのものと言えるでしょう!楽器の存在感も充分なのですが、デリカシーあふれる叙情的な柔らかさにも不足しません。



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2011年6月21日火曜日

ラヴェル 古風なメヌエット






幻想的でファンタジックな香り

 「ラヴェルのピアノ曲って何から聴いたらいいんだろう?」と思われている方は結構多いのではないでしょうか?管弦楽曲であれば「ボレロ」、「ダフニスとクロエ」、「マ・メール・ロワ」のように誰もが親しめる曲があるのに、ピアノ曲となると意外に入門にふさわしい曲ってないんですね。かろうじて「亡き王女のためのパヴァーヌ」が美しいメロディと気品ある雰囲気で親しみやすいというところでしょうか……。

 しかしよく探してみたら1曲だけありました。「古風なメヌエット」です。演奏時間もせいぜい7分から8分でしょうか?タイトルから推測するとルネッサンスかバロック調の雰囲気を持つソナタのように思えます。ラモーやコレルリ、クープラン、シャルパンティエのように優雅で洒落た味わいを持つ曲なのでしょうか?

 実際に聴いてみるとバッハのパルティータのような印象的なテーマで始まる第1主題で始まり、バロック的なリズムやテンポで曲は流れていきます。しかし体裁はバロック的ですが、曲の情緒や個性はまぎれもなくラヴェルそのもので、次第に幻想的でファンタジックな香りが立ち上ってゆきます。特に美しいのは中間部の嬰ヘ長調のトリオではないでしょうか。ゆったりとした時間の流れの中で美しく描かれる詩情。さまざまな回想の情景が現れ、憧れ、夢、静寂のような心地いい瞬間がまどろむように流れていくのです!!……。
 そして最高に盛り上がったフレーズで曲は停止し、まもなく最初の第1主題のテーマが再現され、現実に引き戻されるように曲は終わっていきます。

 この曲で特に印象に残っているのはサンソン・フランソワのEMI録音盤です。特に第1部嬰ヘ短調、第2部嬰ヘ長調、第3部嬰ヘ短調の弾き分けがはっきりしており、明確な強い主張が感じられます。一音ごとにドラマがあり、その生き生きとした表現力と詩情の豊かさに圧倒されます。7分少々のこの曲が何と短く感じられることか!特に第2部の嬰ヘ長調は時間の流れを忘れたかのような陶酔感が美しく、その音域の自在な広さに唖然とします。




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2010年7月5日月曜日

ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ










 ラヴェルは管弦楽のスペシャリストとしばしば呼ばれます。そもそも、ムソルグスキーの代表作「展覧会の絵」も、ラヴェルのアレンジした管弦楽によって最高に愉しく生き生きした名作として蘇ったのです。
 ここで紹介する亡き王女のためのパヴァーヌは1899年の作品ですから、ラヴェルが個性を確立し、それが全開する前の作品ということになります。このわずか5分あまりの作品に託された美しい詩情や癒しの音は何と表現したらいいのでしょうか……。

 その美しさは透明水彩のにじみやかすれで浮かび上がるはかない夢のような情景を優雅に繊細に奏でていきます。後年の管弦楽作品やピアノ曲が有彩色の煌びやかな作品だとすれば、この作品は墨絵のように濃淡の微妙な変化で描かれた慎ましやかな作品といえると思います。
 この繊細さや単色で描かれる静謐な響きが日本人の心にも容易に受け入れられるのでしょう。
 この世には口ずさめる多くのクラシックの小品があります。この曲も当然、クラシックのスタンダードナンバーの一つに数えられるでしょう。ただ、この曲が他の有名な小品と決定的に違うのは、真似の出来ない独自の雰囲気や音彩を持っていることでしょう。

 この曲はジャン・マルティノン=シカゴ交響楽団の録音が、楽器を意味深く鳴らし、高雅な響きを引き出して魅了します。中間部のみずみずしくもはかない情感は何ともいえません。
 ピアノ版は宮沢明子の1975年のライブが素晴らしい出来ばえです。どこを誇張するというわけではないのですが、真摯に曲に向き合い、この曲の持つ美しさ、はかなさ等を余すところなく表現しています。
 このアルバムに収録されている曲はどれも最高の完成度を誇っております。特にドビュッシーの二つのアラベスクは自由で洗練された音のバリエーションが次々と表れ、抜群のニュアンスと共に、至福の時間を約束してくれます。ラモーやリュリも小品とは思えないくらい曲を愛し、確信を持って弾かれていることに気づかされます。

 宮沢さんは40年ほど前に家にあったレコードで、その存在を初めて知りました。当時、小学生になったばかりの私は宮沢さんが弾くヘンデルの「調子の良い鍛冶屋」やラモーの「めんどり」等の奥行きのある演奏に非常に感動した思い出があります。いわば、クラシックの素晴らしさに初めて目を開かせてくれた人だったのでした。





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