バレエの概念を変えた
『春の祭典』
春の祭典は20世紀を代表するバレエ音楽で、発表当時(1913年)センセーショナルな話題を巻き起こし、音楽界を騒然とさせた作品です。しかし、様々な映画音楽や前衛的な音楽を聴き慣れた私たちにとっては、むしろその独特のリズムや不協和音がかえって聴きやすいし親しみやすく感じるから不思議ですね……。
『春の祭典』はそれぞれの楽器の潜在的な特徴や音色を感覚的に突き詰めることによって、音楽に優れた心理的描写を生み出したのでした。音楽が始まった途端に、様々なイメージや情念が湧いてくるのはそのせいでしょう……。
この作品は従来の優雅なバレエの概念を変えただけでなく、音楽の在り方や舞台と音楽とのかかわりに一石を投じたのでした。
まず『春の祭典』は音楽を聴くだけでなく、バレエの舞台に接してみてください! そうすればこの音楽は、あなたにとってぐんと身近なものになるでしょう。
なぜなら、決して理屈で固められた音楽ではないので、実体験を何度も重ねることによって様々なメッセージを受けることが可能になってくるのです。おそらく、舞台の視覚的効果や独特の雰囲気と相まって、身体の中で眠っていた何かが呼び覚まされるような感覚を受けるに違いありません!
また、終始、抽象的な音やリズムが続出するために、踊りはクラシックからコンテンポラリーまで幅広い領域の演出や振付に対応することが可能でしょう。
ゲルギエフの
自信に満ちた名演奏
管弦楽の効果という面で『春の祭典』が映画音楽や各方面の音楽に与えた影響ははかりしれません。現在もその発想や楽器の使用法は『春の祭典』に負うところが多く、いかに時代を大きく先行していたのかを物語るのです。
演奏はゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団(ユニバーサルミュージッククラシック)の1999年録音盤が圧倒的な素晴らしさです!楽器の多彩な表情と意味深い響き……。緊迫感あふれる間とフレージング、そして変拍子のリズムが奏でる猛烈なエネルギー、どれもこれも有機的で完璧なまでのオーケストラコントロールの技が全編を覆います。
ストラヴィンスキーがこの作品に込めた想いを徹底的に炙り出そうとしていることがひしひしと伝わってきます……。
もし、この演奏が実際にバレエの公演でオーケストラピットから流れたならば、どれほど興奮し、感動することでしょうか!