2011年10月29日土曜日

ヨハネス・ブラームス 交響曲第2番ニ長調作品73



ライブとは思えないジンマンのブラームス
Brahms Symphonies  David Zinman

 ブラームスはロマン派最大の作曲家で、4曲の交響曲はいずれも名曲として親しまれてきました。
 しかし、私はその中で交響曲第2番だけはどうしても進んで聴く気になれませんでした。それは第1楽章の田園的な情緒といわれるテーマや繰り返しがとても長く退屈に感じたからです。

 しかし、不思議なものでそのような欠点(自分でそう思いこんでいるだけかもしれませんが)を補う名演奏に出会うと、今までアバタのように見えた箇所もエクボのように見えたりするものです。そして、この曲の隠れた魅力を再発見できたうれしさにさえ変わってくるのです!

 もちろん、2番は間違いなく名曲です。力作の第1番と比べ、その違いに唖然とします。少しも力んでないし、大言壮語していないのに充実した響きと格調の高さが終始耳を引きつけます。晴れ渡った青空や自然の情緒を彷彿とさせる幸福感…!やはり聴けば聴くほどその味わいも確かに深まっていくのです。

 ブラームスの2番全体を貫いている魅力はクラリネット、ファゴット、フルート、オーボエ等の木管楽器が瞑想や可憐なメロディを奏でることでしょう。またチェロの重厚な響きも深い森を想わせ、木管楽器との鮮やかな対比や拡がりを印象づけるのです。

 特に第2楽章の癒しにも似た音楽は印象的です。晴れた日の午後のひととき…。丘の上に佇みながら、ぽっかりと浮かんだ雲の流れを見つめたり、心地良い風の流れに身を任せたり、小鳥のさえずりに微笑んだりと自然との対話が瞑想のように展開されます!
 第4楽章の舞曲風のテーマもパンチが効き、ワクワクするような胸の高まりとともに喜びを爆発させていきます!
 第3楽章プレストは室内楽のようなこじんまりとしたテーマに潜む小粋な遊びがたまらなく愉しく、いつものブラームスとは違う魅力を発見するのです。
 退屈だと言った第1楽章ですが、穏やかに流れる光や風、ぐんぐんと広がっていく自然の美しく優しい情緒はやはり大変な魅力です。

 さて、その名演奏ですが、デイビット・ジンマンが手兵のチューリヒ・トーンハレ管弦楽団を指揮した2010年のライブ録音が本当に素晴らしいです。この演奏はライブではあるものの1番から4番までの全曲が収録されており、ブラームスの交響曲全集として一挙に発売されました!

 正直なところ本当に驚きました。
 何が驚いたかというと、その抜群の録音の良さです。しかも、この録音の鮮明さはライブということを忘れさせてくれます。いや、ライブだからこそ、こんなに自然なニュアンスの音の収録が可能だったのかもしれません。
 弦楽器の柔らかくみずみずしい響き…。木管、金管楽器の透明感のある奥行きのある音。どれもこれも本当に良く録れており、まるでコンサートホールにいるかのような錯覚にとらわれます!

 前述した第2楽章の木管楽器の魅力は録音の素晴らしさによって随所に生きており、ブラームスはこの曲を愉しんで書いたことを強く感じさせてくれるのです。第1楽章も透明感あふれる音楽作りが功を奏し、聴く者は何の違和感も無く音楽の心と結ばれていくに違いありません。
 第3楽章の早めのテンポで一気に音楽を進めるセンスの良さと第4楽章の委細構わない大胆な造形と緊張感漲る表現も圧巻です!





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2011年10月25日火曜日

モーツァルト オペラ「魔笛」



Mozart: Die Zauberflote / Christie, Les Arts Florissants








いつも思うのですが、モーツァルトのオペラはことごとく序曲が良く書けています。「フィガロの結婚」然り、「ドン・ジョバンニ」然り、「コシファントウッテ」、「イドメネオ」、「皇帝ティートの慈悲」、どれもこれも充実した素晴らしい序曲ばかりです。独立した管弦楽曲としても充分に歴史に残る傑作揃いと言ってもいいでしょう!
しかも、モーツァルトの序曲はそれぞれの作品の性格や全体像が見事に集約されているので、すんなりと音楽劇に入っていきやすいのです!

 そんなモーツァルトのオペラの中で最も楽しく、親しみやすく、かつ味わい深い作品と言えば、「魔笛」があげられるのではないでしょうか。
 ちなみに「魔笛」の序曲は特に良く書けており、立派な体裁を持っているのですが、神秘的で透明感が漂い、しかも陰影に富んでいるのです。

魔笛は決してストーリーの展開を追うべきオペラではありません。ザラストロと夜の女王の善と悪が逆転したり、腑に落ちないラストを迎えたりと、真剣に話の展開を追っていくと間違いなく消化不良になってしまいます!ストーリーとしては支離滅裂と言ってもいいかもしれません。
モーツァルトはハチャメチャな脚本にハチャメチャな音楽を付けたのではと思われるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。彼の創作の姿勢、軸は実はまったくぶれていないのです!
ストーリー展開はハチャメチャでも、モーツァルトが作曲した音楽はキラキラとした音楽的な輝きやメルヘン的な要素を持ち、光と闇を暗示させる神秘的な要素を持つ等、不滅の光を放っているのです。


通常、オペラには様々な性格の登場人物がいて、様々な人生模様を描いていきます。その中で、非常に雄弁かつユニークでありながら本質的な人物像を描いて秀逸なのがモーツァルトのオペラなのです。

極端に言うと、「魔笛」はパパゲーノとパミーノ、夜の女王、この3人の配役がしっかりしていれば、演奏は半分以上は成功したも同然なのですが、逆にこの3人の表現に問題があれば上演自体がめちゃくちゃになってしまう可能性も大なのです。
それくらいこの3人の配役は「魔笛」の良し悪しを左右する絶対的な魅力を持ったキャラクターなのです!

つまり「魔笛」は「フィガロ」、「ドン・ジョバンニ」同様、さまざまな性格の人間像がユニークに描かれていて、とても面白く、演奏が良ければなお感動的な上演が可能ということになるでしょう!

「魔笛」の登場人物をざっとあげると次のようになるでしょう。タミーノはいわゆる最も常識人タイプのキャストでしょう。地位があるので、それは捨てられず、けれども人助けは人目があるのでやるというタイプなのです。

ザラストロは夜の女王の娘、パミーノを奪った張本人なのですが、なぜか劇中では人徳のある高僧として描かれていきます。ザラストロのメロディはそのような性格上、本音を表には出さず、終始修行や戒律を説くため、なだらかな音楽が滔々と流れていくのです。

それに対し、夜の女王は非常に刺激的です。憎しみに狂い、嘆き悲しんだり、とても激しく感情を爆発させます。しかし反面、愛情深く一途に我が子を想うところは共感できる何かがあるのです。オペラ史上、最もソプラノ泣かせの難曲が夜の女王のそれぞれのアリアではないでしょうか!次々に人間技を超えた高音階と音階の上下が感情込めてストレートに展開されます。 

鳥刺しのパパゲーノは天然の自由人で、何も考えていないようでありながら、お金や物に対する執着心がなく純粋で人間らしい一面を持っているのです。おそらく、モーツァルト自身のキャラクターに一番近いのがこのパパゲーノなのでしょう。

 このオペラのベストパフォーマンスはウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサンとローザ・マニヨン, ナタリー・デセイ, ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ, アントン・シャリンガー, ラインハルト・ハーゲン、その他の歌手による演奏でしょう。最高にしなやかで、音楽性あふれる演奏を繰り広げています。上記3人の歌も実にツボを得てるし、合唱の安定感と精緻さはこれまでに聴けなかったものです。
何と言ってもクリスティの創り出す音楽はほどよい高級感と無垢な味わいが魅力で、ファゴット、クラリネット、ピッコロ等の木管の飾り気がなくメルヘンチックな響きはまさに魔笛の世界そのものです。



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