2017年8月25日金曜日

ホグウッドのメサイアを聴く












ホグウッドの
メサイアを堪能!

ホグウッドのメサイアを久しぶりに聴いてみました。
これはもともとデジタル録音(1980年)として発売されたCDを2014年に改めてデジタルリマスターし直したものなのですが…、やっぱりいいものはいいです……!
言うまでもなく、古楽器を使用したメサイアというだけではなく、初めてこの作品の魅力を世に問いただしたセンセーショナルな名演といっていいでしょう。

今振り返ると、当時音楽界が騒然としたことに違和感を感じたりもするのですが、それはこの演奏が生まれた時代背景が大きく反映していることは間違いありません。

それまでのメサイアの演奏といえばハレルヤコーラスに代表されるような高揚感を出すために、これ見よがしに大音量で圧倒したり、威圧的な表現を選ぶ演奏が大多数を占めていたのでした。

しかしこのホグウッド盤を聴くと、そのような威圧的なところは微塵もなく、作品の隠された美しさを忠実に描き出そうという極めて良心的で真摯な姿勢に貫かれているのです。

それはまったく力みのないソリストたちの歌唱や合唱を聴けば明白ですし、全体的に音楽の原点に立ち返ったような懐かしさと爽やかな情感に満たされていたのでした。
今までの手垢にまみれていたメサイアの虚像が洗い流されて、私たちの心に寄りそうような「メサイア」がやっと登場したことに胸が熱くなったものです。

あのセンセーショナルな名演の誕生から40年弱、ホグウッドやソプラノのジュディス・ネルソンはすでに世を去り、時の流れの早さに驚くばかりですが、音楽的な価値は今もまったく変わりありません。このたびのデジタルリマスターで音質に拡がりや豊かさが出てきたのは本当にうれしい限りです!







2017年8月22日火曜日

久々に聴いたヘンデルの「ユダス・マカベウス」









ヌリア・リアルの
「イスラエル女性」

先日、久々にヘンデルのオラトリオCDを聴いてみましたので、ちょっとだけ感想をお伝えしたいと思います。ハルモニアムンディから発売されたロルフ・ベック指揮、エルビポリス・バロックオーケストラ・ハンブルク他の「ユダス・マカベウス」がそれです。
このオラトリオは名曲なのですが、サウルやソロモンあたりに比べると明らかに録音が少なく残念に思っていただけに、ヘンデルをこよなく愛する私としては少々嬉しくなったのでした……。

このCDの売りの一つは何と言ってもバロックオペラやヘンデル、ハイドンのアリアCDで現在注目を集めているソプラノのヌリア・リアルでしょう。美しく透き通る声だけではなく、陰影に満ちた表情や気品溢れる表現が女性ならではの発声の美しさとあいまって至福の時を約束してくれるのです。

したがって、期待に胸が高まりながら聴いたのは勿論のことなのですが、ロルフ・ベック指揮する序曲のふんわり(?)した軽い出だしから「あれっ!」と肩透かしを食ってしまいます。

これは古楽器が市民権を得た1980年代の演奏スタイルそのものではないか……、そう思ったのでした。しかし、それ以降はオケが、特にトランペットやティンパニが往年のしっかり、がっちり型の演奏形式に豹変し、ますます戸惑ってしまうのです!? でも演奏そのものは深さがあり、ドラマがあって、なかなか聴き応えがありました。

特にシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団のコーラスは優秀で、全体的にゆっくりめのテンポから美しいハーモニーを繰り広げていきます。



やはり難しい
ヘンデルのオラトリオ演奏

そして注目のイスラエルの女性役で出ているヌリア・リアルですが、これが本当に美しい!繊細でウエット感のある優しげな声で歌われると堪りません……!
過去これだけ美しく、魅惑に満ちた歌を披露してくれた「イスラエル女性」があったでしょうか……。非の打ち所がないというのはこのことを言うのでしょう。

カークビー、アージェンタあたりと比べてもまったく遜色ないのですが、もし難点をあげるとしたらイスラエル女性役としては綺麗すぎることと、やや線が細いかな…ということ位でしょうね。もちろんそれは贅沢な望みなのでしょうが。

ただしこのCDには問題があります。曲をずっと聴き進めていくのですが、どうも退屈なのです…。しかも全体的に重苦しいし、愉しくありません…。おそらくベックの指揮する演奏スタイルが伸び伸びと音を開放していくスタイルではなく、意外に細かな表情をつけて締めつけてしまうスタイルが影響しているのではないかと思うのです。

この演奏を聴いて思い出したのがレオナルド・ガルシア・アラルコン指揮ナミュール室内合唱団およびレザグレマンのCDです。あの時聴いた「ユダスマカベウス」のストレートで求心力のある響き!新鮮で味わい深い表現!まったく感動に満ちた至福の時でした。しかし、このCDには何故かそれがありません…。

男性のソリストたちの声も指揮者の要求なのか、発声の癖なのかわかりませんが、どうも力んで歌っているように思えて仕方ありません。そのことがこのオラトリオ全体の求心力、格調を下げてしまうのではないかと感じるのです。

改めてヘンデルの作品は簡単ではない……。演奏するには作品への愛情が必要だけれども、それ以上に高いレベルで本質をしっかりとつかんでいなければならないと痛感させられたのでした。

最後に少し口直しと言うことで、ヌリア・リアルのお勧めCDを挙げておきます。